第026話 商 会(キルドール)
俺は今、リビングのソファに
まずは、生活に必要な物資と食材の調達。それが当面の課題になる。
ある程度のものはラースガルドでも生産できるけど、生産するにしても原料が必要だ。エネルギーさえ確保できれば半永久的に稼働する
では、それらをどうやって調達するか。
手っ取り早いのは、以前も考えたとおり、ミランダ先輩におつかいを頼むことだ。だけど、この方法も先がないのは見えている。理由は、運航可能な宇宙船が、現在、ルージュコメットⅡしかないことだ。もちろん、ラースガルドの
一隻の宇宙船を、無整備のまま運用することはできない。定期的な整備が必要になる。整備期間中はもちろん運用できないわけで……だから、少なくとも複数の宇宙船が必要なのだ。
倉庫にある金塊をお金に換えて、登録可能な宇宙船を何隻か購入するしかないだろう。所属は、他力本願だけど、ここもミランダ先輩に依頼して《ロンデニオン商会》ということにしてもらうしかない。出所不明の資金を運用することになるので、それなりの
ただし、宇宙船を入手したとしても、その整備はロンデニオン商会に委託するしかない。ラースガルドの整備工場でも、小型の《
いくら「イシュタール共和国の三年分の国家予算」に匹敵する資金があるとはいえ……お金を稼ぐ方法もあわせて考えないとジリ貧だ。
何かしらのいい方法がないものだろうか?
「ここの
助け船を出してくれたのはマルガだった。なるほど、その手があったか。原料を調達し、それを加工して売る。いわゆる加工貿易だな。だけど、それを実現するにもミランダ先輩を頼らなくてはいけない。彼女の負担が大きくなるばかりだ。
「ご主人様、彼女なら
マルガが静かに語った直後、リビングのドアが荒々しく開いた。
「ファルターク、私の仕事が決まった。許可をくれ!」
「――商会を
ミランダ先輩と、続いてやってきたセラフィーナをソファの反対側に招いてから、俺は先輩に
「ああ、《アークウェット商会》だ。当面はロンデニオン商会の社内ベンチャーという形をとるが、将来的にはロンデニオンから買い上げて独立をめざす。会長は私だ」
「私もお手伝いします」
とセラフィーナ。
そういえば、先日二人でどこかに出かけたみたいだが、いつの間に仲よくなったのだろう。なんとなく元気のなかったミランダ先輩も、いまは完全復活している様子だ。何があったんだろうな。まあ、女性同士のことだから、あんまり詮索しないほうがいいかな。
「もちろん、お手伝いすると言っても、立場上
「だから、表向きにはエレオノーラの名前を借りる。が、まあ、これは完全に幽霊社員だな。どうだ? 許可してくれるか、ファルターク」
鼻息が聞こえてきそうなほど、先輩の意気込みがすごい。
「許可するのはいいですけど、具体的には何をするんですか?」
「ここに必要な物資の調達と、ここで作った製品の販売だ。マルヴィナに聞いたが、ある程度のものはここの
どうやら俺たちと同じことを、先輩も考えてくれていたらしい。
「どんな物が作れて、どんな物が売れるのかは、これから生産可能な物を確認したり、市場のニーズを把握する必要がある。だから
「そうですね……わかりました。そのあたりのことはお任せします。よろしくお願いします」
「了解した。それでな、ファルターク」
「新しく宇宙船を買うのに、どのくらいの資金が必要なんですか?」
先輩の目が見開いた。
「ふん、同じことを考えていたようだな、ファルターク」
「ええ、まあ……」
「金額のほうはまだわからん。それから宇宙船の購入にあわせて、こことロンデニオンの社内に常駐する
つい先日、ルージュコメットⅡの
「まあ、お任せしますが、
「ロンデニオン商会の
「わかりました、了解です。この際だから、宇宙船の
「いいのか?」
「ええ」
いずれは必要になるだろうから、今から手配しておくのも悪くない。ただ、外部の人間が増えるとなれば、それなりに警備も必要になるだろうな。
だけど、まだ準備段階とはいえ、先輩とセラフィーナ、それにマルヴィナの三人だけで手が足りるのだろうか。エレオノーラは一緒じゃなくてもいいのか?
「ご心配には及びません、ご主人様。すでにミーアをスカウトしておりますので、エレオノーラ様は不要です」
セラフィーナの後ろに立っていたマルヴィナが、赤い髪をもつ文官メイドの名前をあげた。
「案ずるな、ファルターク。この件はエレオノーラにも話してある。誘ってもみたが、あいつはあいつなりに別の仕事を探すそうだ」
別の仕事? ああ、それでモニカと探検に出かけたのか。
見つかるといいな、エレオノーラ。
「――見つかりませんでしたぁっ!」
数時間後、俺の部屋にやってきたエレオノーラは、言うやいなや、リビングの三人掛けのソファにダイブした。乱暴に
「モニカちゃんといろいろ見てまわったんですけど、工場にしても水耕プラントにしても、たいていの作業は
そこで俺は、彼女に水をむけてみた。
「なあ、エレオノーラ。
「
「そう、それだ」
エレオノーラが言ったとおり、ラースガルドに搭載されている
「乗ってみたくはないか?」
「そりゃオモシロそうだし、乗れるもんなら乗ってみたいですけど……あれって戦闘メイド用じゃないんですか?」
「ん? 俺は乗ったぞ?」
「ええーっ? だって戦闘メイド用の
「そういうわけで、エレオノーラ大尉」
「……へ?」
「貴官をラースガルド警備隊の隊長に任命する。隊員は四〇人の戦闘メイド。任務は、ラースガルドの船内警備と防空だ。どうだ、やってみないか?」
エレオノーラは、すくっと立って俺にイシュタール軍式の敬礼をすると、
「エレオノーラ・ヴィルタ少佐、謹んで拝命いたします。レーン大佐」
「警備隊の
「わーい、やったぁ!」
目前で万歳するエレオノーラに、俺はさらなる命令を下す。
「ついでに、戦闘メイドたちの名前も考えてくれ」
こうして俺は、稼働させることに決めた戦闘メイドの、四〇人分の名前を考えるという苦行の回避に成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます