第025話 未 来(エクスペクタンシー)
こんにちは。私の名前はセラ。セラフィーナ・
三週間ほど前から、ここ、ラースガルドに住んでいます。伝説の種族と言われた
実は一度、本当に迷子になってしまいました。レーン様にお願いして
そのままそこで待っていればよかったのに、慌てた私はいくつかのボタンを押してしまい、エレベーターは当初とは違う階に止まってしまいました。そうと気づかなかった私は、扉が開くと同時に外に出てしまい、案の定、迷子に……。
数分後、レーン様とマルガレーテさん、そしてマルヴィナさんが迎えに来てくれました。ごめんなさい。お手数をおかけいたしました。次からはちゃんとエレベーターの中で待っています。
レーン様。アーシェス・
小惑星リューデニアで、私を見つけてくださったお方です。
父も、二人の兄も
新しい生活がはじまった記念に、私は日記をつけることにしました。必要な
思考の
エレオノーラさんと同じお部屋に住むことになったので、少しだけ大きなお部屋にお引越しをしました。レーン様のお
ミランダさんは、レーン様と同じお部屋にお
けれども、先日からミランダさんのご様子がほんの少しおかしいのです。
朝食と昼食は個々の部屋でいただきますが、夕食はレーン様のお部屋でそろっていただきます。そのほうがメイドさんたちの手間が少なくなるというレーン様のご配慮からです。みなさんと一緒にいただいたほうが楽しいので、私も大賛成です。ですが、ミランダさんはその席でもあまり元気がありません。たまにため息もついておられます。
そしてつい昨日、ミランダさんの
「違いすぎるよな……」
ああ、そういうことでしたか。思考の
私は
「――急にどうした? エリザベート」
最初にお会いした時から、ミランダさんはなぜか私をミドルネームで呼びます。あまりその名で呼ばれたことはないので、とても新鮮です。レーン様のこともミドルネームで呼んでいらっしゃいましたから、彼女にとっては普通のことなのだと思います。
私は、単刀直入に彼女にお
「寿命についてお悩みですか?」
「どういうことだ?」
「レーン様と寿命が違うことを、お悩みなのでしょう?」
「……どうしてわかった?
ミランダさんは驚いていらっしゃるご様子です。
「なるほど、そういうことか……」
ミランダさんが、窓の向こうに拡がる自然を眺めるといった感じでもなく、ロビーのベンチで長い
「……寿命の長い
「長くても、人はいつか死にます。突然にいなくなることもあります」
「ご家族のことは聞いている。大変だったな」
ミランダさんが私を
「レーン様と寿命が違うことは、ミランダさんにとってそれほど重要なことですか?」
「重要だろう。私だけが老いて死んでいくんだぞ?」
「不老ですが、不死ではありません」
「それはわかっている」
「本当にそうでしょうか」
私の言葉に、ミランダさんが眉を
「……何が言いたい? エリザベート」
「大事なことはすでに申し上げましたが、くり返します」
「…………」
「人はいつか死にます。突然にいなくなることもあります。父や兄がそうであったように、レーン様も例外ではありません」
「それは理屈だ」
「寿命の長さに
ミランダさんが何か反論なさりたそうでしたが、私は無視して続けます。
「もしかすると、明日、突然レーン様が事故で
「…………」
「寿命の長さは、人の生にとって、
「言いたいことをいう女だな、お前は」
ミランダさんが、ふぅっとため息をつかれました。すみません、私、実はそういう女なのです。
「だが、言いたいことはわかった。礼は言わんぞ」
「ありがとうございます」
ミランダさんが苦笑しました。そして私のほうに端整なお顔をむけると、
「ひとつ教えてくれ。お前は
「
「
「法律で禁じられていますものね。もっとも、
「で、もうひとつは何だ?」
「救われた命は救った者のために使え、です」
「そういうことか」
ミランダさんはすぐに理解してくださいました。
「ええ、そういうことです」
もちろん、さきほども言ったとおり、そんな教えがなくても私はここに残っていましたが。
「エレオノーラさんも、レーン様にお命を救われたと聞きました」
「……なるほどな。あのときエレオノーラが私についてくることを即決した理由がわかったよ」
「エリザベート。お前、他人と話すことは得意か?」
「
ミランダさんが何を仰りたいのか、よくわかりません。
「私のやることが決まった。お前も手伝え。
「何をなさりたいのか判りませんが、私でいいのですか?」
「ああ。私の仕事を手伝って、私がこの世を去ったあとは、お前がそれを引き継いでくれ。それまでは、私が全力でファルタークを支える」
ミランダさんは少し寂しそうに笑いました。けれど、
「それはかまいませんが、
そう私が言ったときの、目から
「そのときは、私の未来の子供をお前が支えてくれ」
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