第4章 訪問者たち
第022話 居住区(サンドウィッチ)
「――なんとも壮大な風景ですね!」
セラフィーナが、展望ロビーの大きな窓にへばりつくようにして、目前に拡がる光景を眺めている。
その後ろで、俺はロビーに設置された長いベンチに腰をおろしていた。いつものメイド服を着たマルガが俺の横に
俺たちの前には、ガラスを一枚隔てて、幅五キロメートル、長さ一三キロメートルという、かつて
「伝説の種族たちが住んでいた場所を観てみたいです」
というセラフィーナの希望によるものだった。
はしゃいでる
そう思いつつ、視線を居住区に戻す。
森と緑に囲まれた、なだらかな丘陵地。かつてここには一〇万人ほどの
「動物や鳥がいても、おかしくはないな」
そんな自然な光景が、目の前にあった。
『『
ふいにユグド=ラシルが近くに現れて、思わず
「どうして今はいないんだ? それに、一〇万人がここに住んでいたというのに、それらしい形跡がまるでない」
建物も、道路も、何もかも。
「私も、それが不思議です」
セラフィーナがこちらに顔をむけ、やがてゆっくりとした動作で近づいてくる。薄い水色のワンピースを身に着けた彼女は、どうみても二〇歳前後にしか見えないが、俺より二〇〇歳近く歳上だ。
『『私たちにもわかりません。
立つ鳥あとを
「謎は深まるばかりですね」
セラフィーナが隣に
「何処かに
「落ち着いたら、それもいいかもしれないな」
俺は頭の後ろで手を組んだ。不死ではないが不老になってしまった俺には、時間だけは十分にある。セラフィーナにしてみても、あと八〇〇年くらいは大丈夫だろう。
そんなことを考えていたら、誰かのお
俺ではない。
ということは、犯人は一人しかいない。
「……ご、ごめんなさい」
「そろそろ昼食にいたしましょう」
鮮やかな
用意されたのは、数種類のサンドウィッチだ。それが俺の好物だということは、すでに文官メイドたちの間で共有されているのだろう。ハムサンド、ポテトサラダサンド、ミックスサンドに野菜サンド……。
「そういえば、動物性
いつかマルガが話してくれたように、野菜は水耕プラントで栽培することができる。けれども、動物性の蛋白質は
「やはり家畜をお飼いになられますか、ご主人様」
無表情のまま、マルガが
「あ、それ、いいですね!」
「ん? セラには飼った経験があるのか?」
「ありませんが、いちど飼ってみたいとは思っていました」
セラフィーナの瞳が、なんとなくキラキラしているように見える。
「子供のころに牛と
「そうなのですか……」
とたんに、くしゅんとなってしまう。
「それに、重要な問題がある」
「どこから家畜を連れてくるか、ですね?」
そう、俺たちには現状、そういったものを調達する手段がない。倉庫に金塊があるから資金は豊富だけど、買うアテがない。俺もセラフィーナも、ふらっと買い物に行ける立場じゃないからな。さて、どうするか。
やっぱり、もうすぐここにやってくる大尉に頼るしかなさそうだな。「ちょっとおつかいに行ってきてくれ」なんて言うと、なんとなく殴られそうな気もするけど。
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