第021話 乙 女(ディザイア)
「――私の名前はセラ。セラフィーナ・
ベッドの上で半身を起こした女性は、少し
小惑星リューデニアまでの航行中に何度か
かつての部下だったエレオノーラと同じような、薄桜色の長い髪をもった
俺は自分の名前を告げ、ここが宇宙船の内部であること、リューデニアで
「……そうですか。あなた方が、私をお救いくださったのですね」
「君の
俺は
「いいえ、そんなことはありません。どうか、頭をお上げください。レゴラスに帰ったとしても、おそらくはもう誰もおりませんから……」
セラフィーナさんが、少しだけ
セラフィーナさんを乗せたラトゥーリ家の宇宙船は、惑星オーランドを脱出して逃避行を続けていたらしい。だけどそのうちに追手に見つかり、リクハルドという名のセラフィーナさんの次兄が、セラフィーナさんだけを
「……もしも、もしもご存じでしたらお教えください。兄の……リクハルドお兄さまの乗った宇宙船のその後を」
「詳しいことはわからないが……
「やはり、そうですか……」
「……レゴラスの情勢は、何か伝わっておりますか?」
「一時的に暫定
俺の言葉を聞き終えた瞬間、
俺とマルガは、
それから数日がすぎて。
ヴァンタム星系に到着するまでは何もすることがなく、連日、暇を持て
俺は二人を応接室に通すと、マルガに紅茶を頼んだ。
「先日は、お恥ずかしいところをお見せして、申し訳ございません」
開口一番、
「いや、それはかまわないけど、
「はい。マルヴィナさんのおかげですっかり元気になりました。体力も回復して、少しずつ運動をはじめています」
「それはよかった」
俺は彼女にソファに
「きょうは……ご相談といいますか、お願いがあってお
「相談?」
「はい。実はオーランドを出立したあと、ひとつの誓いをたてました。もしも、
彼女の表情は暗い。おそらく俺の表情も険しいものになっていることだろう。イシュタール共和国の法律では
「……ですが、そのマティアスはすでに逮捕されました。国家反逆罪ということであれば、いずれ処刑されることでしょう。つまり――」
「
「はい。先日私が泣いてしまったのは、自分の手で
マルガが紅茶を運んできた。慣れた手つきで俺とセラフィーナさんの前にカップを置いてから、マルガは胸元に金属製のトレイを抱えて入口の脇にたった。
俺は右手でセラフィーナさんに紅茶をすすめると、
「相談というのは、その今後に関してなのかな?」
「はい」
「セラフィーナさんが国に帰りたいということなら、俺自身では無理だけど、軍にいる知人に頼んで、イシュタールにあるレゴラスの大使館にお送りすることはできると思うよ」
「いえ、そうではなく、できればこの
「まあ、そういうことになるのかな」
なりゆきだけどな。
「でしたら、私もここにいて、レーン様のお手伝いをさせていただければと思います」
「手伝いといっても、まだ何をするとも決まってないんだけどね。勝手にこの
思わず本音が出てしまった。
セラフィーナさんは驚いたような顔をすると、
「それはいったいどういうことなんでしょう?」
俺は、この一か月あまりの出来事を、かいつまんで彼女に話した。ここにいるというなら、ある程度は知っておいてもいいだろう。というより、話さないとマルガやマルヴィナの正体、この宇宙船の存在についても説明がつかない。もっとも、さしあたって必要のないこと――ユグド=ラシルから聞かされたこの宇宙船の戦力と、母親が
「なるほど、光の
セラフィーナさんは興味深く
「かなり前に父から聞いた話ですが、実は
「どんな内容か聞いてもいいのかな?」
「はい」
――この宇宙の大地は竜が
「……なんともスケールの大きな話だな」
「ですよね」
セラフィーナさんはこの日、初めて笑顔をみせた。
「まあ、今後どうなるかはわからないけど、セラフィーナさんがここに住むのはまったくかまわない。だけど……さっきも言ったけど、まだ何をするとも決まっていないんだ」
「ありがとうございます。それではさしあたって、レーン様が何をなさるのかお決めになるためのお手伝いをさせていただきます。それと……」
「ん?」
「私のことは、今後はセラとお呼びくださいませ」
ぺこっ。
入口の近くで、金属トレイの曲がる音がした。
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