第013話 不 老(エターナル・ユース)
翌朝は、食事を
と言っても、食事のために手と口を動かしているのは俺だけで、
彼女は最初、ベッドの横に立っていたのだけど、俺が落ち着かないと言うと、どこからか金属製のパイプ椅子を持ってきた。背筋を伸ばして椅子に
マルガが用意してくれたのは、シャキシャキしたレタスたっぷりのサンドウィッチだった。一緒に挟まれたハムとチーズで
「ご主人様をお迎えすることが決まっていましたので、野菜は水耕プラントで育てておりました。動物性の蛋白質は
うん、昨日から何度となく聞いた
「気のせいです」
絶対、要求しているよな。
ここに連れてこられた理由がなんとなく推測できたけど、それは口にしないでおいた。考えただけでも、マルガには伝わっているだろうから。
さて、これからどうするか。とりあえず、復元されたというこの
……
「もちろん復元いたしました。ですが、この先は不要となるモノですし、ここに放置しておいても邪魔になるだけですので、持ち主の元に返却いたしました」
「返した⁉」
「はい。
何を勝手なことを。というか、新品ってどういうことだ?
「
なにか、重大な宣告をされた気がする。
俺も、
「はい。ですから、時間経過や連続使用にともなう化学的および物理的な変化は、今後、いっさい発生いたしません」
それってつまり……不老不死?
「不死ではございません。老朽化はいたしませんが、外的要因による変化は避けられません。殺されれば死にますし、重い病気に
不老だが、不死ではない。うん、気をつける……って、不老というだけでも問題だろう? 他の人が年老いていくのに、俺だけ二七歳のままなんだぞ。寿命だってあってないようなものなんだぞ。そんな
「
俺、
どうするんだ、俺? 泣いてもいい?
「あ、ご主人様に謝罪しなくてはならないことが一つございます。あのマジックハンドがご主人様のものだとは思いもよらなかったので……一緒に船に乗せてしまいました。勝手なことをして申し訳ございません」
もういい、好きにして。
体力が回復して自由に歩けるようになるまで、それから三日が必要だった。
軍で鍛えていたから体力には自信があったのだけど、二七歳とはいえ、この
運動に必要な器具は、どこからかマルガが運んできた。シャワー室やトイレはこの部屋から直接行けたので、そんな身体でもあまり不自由はなかった。どちらもマルガが付き添ってくれたしな。人間、食べるものを食べれば、出るものも出るわけで……ベッドから動けないときのあれやこれやの処理についてはあまり話したくない。いくら
いま着ている服は、ベッドから起き上がれるようになった二日前にマルガが持ってきたくれたものだ。インナーと、トレーニングウェアのような上着と、運動靴。色はすべて黒だった。縁まわりだけがなぜか白い。
「
一緒に持ってきたエプロンドレスをつけるのは遠慮しておいた。
ちなみに、トランスキャットⅩⅩⅦの仮眠室に置いておいた俺のバックパックは、名前を書いていなかったので、マルガが一緒にアイリーンⅣに送ってしまっていた。記名が大事だということを痛感した。
いまごろ、向こうでは大騒ぎになっているだろうな。タイミングを見計らって、アークウェット大尉にも連絡する必要がありそうだ。
服は二着ずつ用意され、着替えも毎日おこなっている。この宇宙船のなかには繊維
エネルギー不足。
俺がこの先どうしていくにせよ、解決しなくてはならない問題であるらしかった。
この三日間、俺はこの部屋から出ていない。一度だけドアから外を覗いてみたが……暗くて何も見えなかった。照明がつけられていないのも、エネルギー不足のせいだろう。
「――《システム》のところに案内してくれないか?」
俺はマルガに頼んだ。
マルガは俺の左側に立ち、右手を俺の腰にまわしてきた。大丈夫だ、自分で歩ける。
「いいえ、廊下は暗いですから」
そうして二人ならんで、長くて暗い廊下を歩いた。どのくらい歩いただろう、マルガがとある壁に触れると、その壁がすっと開いた。エレベーターであるらしかった。
「これで最上階まで登ります。そこに《システム》の
目的地に着いたエレベーターの扉が開くと、そこには夜の森林公園ともいうべき景色が広がっていた。
街灯がいくつかあって、その下には木製のベンチが置かれていた。
高い木々に囲まれた小道を、マルガと一緒に歩いていく。ここは本当に宇宙船の中なんだろうか。見上げてみても……暗いので何も見えない。一〇〇メートルほど歩いたところで森を抜けると、そこには陸上競技場くらいの広場があった。
「あれが《システム》です」
マルガの指さした方向には、巨大な樹木があった。
シルエットには見覚えがある。トランスキャットⅩⅩⅦのスクリーンに映っていたものだ。
「あれって……木、だよな?」
「はい。何かヘンですか?」
まあいい。深く考えないことにしよう。
「ご主人――いえ、レーン様をご案内いたしました」
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