第012話 再登録(システムコール)
「――
わかった。でもその前に何か飲む物が欲しいな。驚くことが多かったんで
「もちろんございます。レーン様をお迎えするために、先日から栽培しておりました。少々お待ちくださいませ」
一礼して、メイド服の女性は部屋から出て行った。
その間に部屋の中を見回してみる。一〇メートル四方くらいの、金属のような素材でできた部屋だ。白に近い灰色で、壁に窓はない。高さ三メートルほどの天井には埋め込みの照明器具がいくつかあるが、その他は壁と同じ素材でできているようだ。少し光沢があるのか、照明の光が鈍く反射している。ベッドの脇にはいくつかの医療器具のようなものが置かれているが、何をする器具なのかはわからない。正面の壁にはモニタースクリーンのようなものが埋め込まれている。
アークウェット大尉には気をつけるよう言われたけど、まさかそのモビィ・ディックに捕まってしまうとはな。あ、ラースガルトだったっけ。都市宇宙船? 何のことだかわからない。
メイド服の女性に渡された中型の
「お待たせいたしました、レーン様」
メイド服の女性がコーヒーを
まるでメイド喫茶みたいだな。「ご主人様」と呼ばれないだけよしとしよう。香りを少し
「ありがとうございます」
メイド服の女性は、無表情のまま頭を下げた。
さて、質問だ。どこからいこうかな。俺は
「こちらにございます。レーン様のお名前が入っておりましたので、大切に保管しておりました」
女性のエプロンドレスから取り出された
それから俺は、メイド服の女性にいくつかの質問をしていった。思考が
まずは、彼女の正体から。
ファティマ
人工生命体なので生殖能力はない。ただし、行為そのものはできるそうで、
「何でしたら……お試しになられますか?」
言ったとたんにスカートを
文官メイドはこの宇宙船に七体いるらしいが、エネルギーの節約とかで稼働中なのは彼女だけだそうだ。現在のところ、補給用のエネルギーを確保することも難しいらしい。
理由を
「現在稼働している
人手不足ということか。
俺のことを知っていた理由については、
「《システム》から教わりました」
それ以上は回答する権限を持っていないそうだ。
では《システム》とは何か? と
この場所、つまりラースガルトと呼ばれる都市宇宙船についても、メイド服の女性には回答する権限がなかった。どうやらこれも《システム》に尋ねるしかないようだ。
ラースガルトが所属している組織の名称を
「どの国家、組織、団体、種族にも、
なんか
惑星トランで俺と母親を見失ったと言ったとき、
「レーン様のお母さまが持っていらした
俺の母親が持っていた?
「はい。いまレーン様がなさっておられるペンダントがそれでございます」
母親の形見がどうして
ある程度のことはメイド服の女性に管理させているようだが、《システム》とやらは結構な秘密主義でもあるらしかった。
メイド服の女性の表情をそっとうかがう。うん、あまり気にはしていないようだ。そういえば、彼女の名前は聞いたっけ?
「個体名、ということでしたら、
なんとなく呼びにくい名前だ。
「変更していただくことも可能です。というか、できれば変更してください」
俺が変更するのもおかしいだろう。俺はここの住人じゃないんだし。
「そこをなんとか……」
え?
「よろしくお願いいたします」
「ポチとかタマとかハナコじゃなければ大丈夫です。受け入れます」
お、おう。
――白か。
昔、教会で母親が育てていた花も、たしか白だったよな。なんという名前だったかな。ああ、そうだ、マーガレットだ。彼女を見る。うーん、マーガレットという感じではないな。どちらかと言えば、もう少し落ち着いた響きのほうが……
「……『マルガレーテ』というのはどうだ? マルガレーテ・イースリー。愛称は『マルガ』だ」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
彼女は目を閉じると、
「――システム
「どうなった?」
「《システム》への
ちょっ。いったい、何をやっちゃってくれちゃってるのよ。
「俺が所有してどうするんだ⁉」
「どうか、お好きなようになさってくださいまし、ご主人様」
なんだか疲れたな。少し休憩しようか。
マルガがベッドを倒してくれた。
……翌朝まで眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます