第2章 大樹の願い
第009話 消 息(ミステリアス)
部下の声は、確実に私の耳に届いていた。
届いていたからこその動揺だろうし、一瞬でも視界も暗くなったのだ。だが、そのときはそんなことを考える余裕すらなく、私は部下に
「すまんが、もう一度言ってくれ」
私の言葉に、目前のエレオノーラ・ヴィルタ中尉が反応する。
「アーシェス・レーン中尉の乗った貨物宇宙船が、昨日、消息を
「……元中尉だ。報告は正確にしろ」
くだらない言葉が私の口から飛び出してしまう。なにを
「す、すみません」
エレオノーラが
「詳細を聞かせてくれ」
「はい。アーシェス・レーン元中尉の操縦するトランスキャット社所属の
「レーダーの故障という可能性は?」
「ありません。ここアイリーンⅢにあるわが軍のレーダーでも、同じ時刻に同船の……同船の消失を確認しているそうです」
エレオノーラの顔面からは血の気がひいている。おそらく私も同じような顔をしていることだろう。
「そのポイントで
無駄なことを
「ありません」
即答だった。エレオノーラもすでに同じようなことを考え、同じように否定していたのだろう。自分の頭が
「捜索のほうはどうなっている? むろん、出ているのだろう?」
「はい。航空保安庁の第一〇四宇宙警備隊が、現在、消失ポイントを中心に捜索しています。トランスキャット社の依頼を受けて、民間の捜索船団も協力しているそうです」
「消失してからの経過時間は?」
「二二時間です」
「……そうか」
「ど、どうしましょう、隊長!」
我慢できなくなったのだろう。エレオノーラが悲鳴に似た声をあげる。
「あわてるな。まだ何もわかってはいないんだろう?」
私――ミランダ・アークウェットは、そう自分に言い聞かせた。
三日後。
私は、アイリーンⅢにある自身の執務室で、ふだんと変わりなく軍務を続けていた。
いや違う。意識して、変わらないように見せているだけだ。許されるものなら、私自身も捜索に行きたい。第三
机上に置かれたノート型のパソコンを使って、あがってきたいくつかの報告書を再度確認してみる。ファルタークが消えたあの日、同じポイントで同じ時間に時空震が発生していたことが判明していた。その規模から、最低でも全長一五キロを超える物体が
おそらくは《モビィ・ディック》だろう。そうなると、《モビィ・ディック》が起こした時空震にファルタークが巻き込まれた可能性も出てきた。最悪のケースは衝突だ。
しかし、もしそうであると仮定するなら、ファルタークが操縦していた貨物船の残骸が見つかってもいいはずだ。何かが発見されたという報告は、現場からはまだあがってきていない。
私は深いため息をつくと、無意識に胸のポケットから自身の
『
ファルタークが、あの日の翌日に送ってくれた
ファルターク、お前はいま
それからさらに四日後。
急変があった。トランスキャットⅩⅩⅦが、アイリーンⅣに戻ってきたというのだ。
第一報を受けて私は心底
「トランスキャットⅩⅩⅦは無事に
「落ち着け、エレオノーラ」
私は副官を
「す、すみません。トランスキャット社所属の
「誰も乗っていない?
「はい。アーシェス・レーン元中尉の姿は
「なぜだ?」
「わかりません。ただ、いくつか
「不可思議な点?」
「はい。トランスキャット社の従業員が確認したところ、トランスキャットⅩⅩⅦの船体が
「
私はもう一度エレオノーラを叱った。
「だって……他に言いようがないんですよ、隊長。オンボロだったトランスキャットⅩⅩⅦが、ピカピカになって戻ってきたそうなんです。機体番号も何もかも同じなのに、あったはずのキズや
エレオノーラが早口に
「トランスキャットⅩⅩⅦの
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