第008話 時空震(コンタクト)
「――上部ハッチの気密チェック、オーケー」
声に出して俺は確認する。
こういうチェックは、頭の中で黙々とやってはいけない。声を出し、
俺の乗る
余談だけど、この輸送コンテナの大きさは規格化されていて、他の国でも他の種族でも同じ大きさになっている。だからどの
無駄な手間や出費を抑えるためのこうした規格化はいろんなものに取り入れられていて、今じゃ他国のミサイルだってそのまま流用することができるそうだ。それは何となく行き過ぎのような気もするけど。
コンテナの後方に配置された長さ約一〇メートルほどの居住スペースには、
二基の
聞いた話によると、就航してからそれなりの年数がたっている中古の
後方のハッチから船外に出て、
「こちらトランスキャットⅩⅩⅦ、アーシェス・レーン。船体チェック完了、オールクリア」
ヘッドフォンのマイクを使って
『こちら
そうして俺は、宇宙空間に向かって旅だった。
ヴァンタム星系には三つの惑星がある。
有人惑星はいちばん内側の軌道をまわっているファステトだけで、大気層のない残り二つは無人だ。だから、第二惑星軌道を
だけど俺は、第三惑星軌道の先にある
通常航行エンジンの最大速度は光速の二パーセント。秒速に直すと約六〇〇〇キロになる。音の速さが秒速約三四〇メートルだから、それに比べるととてつもないスピードなんだけど、それでも
そんなことを考えていたちょうどその時、
なんだ? 何が起こった⁉
《――前方に巨大な時空震を感知。距離、約二〇光秒》
女性の声を模したAIコンピュータの合成音が報告してくる。時空震? 何かが
俺は、大急ぎでブレーキのペダルを踏み込んだ。二〇光秒なんてあっという間だ。このままだと時空震に巻き込まれてしまう。
まもなく、前方の空間が
なんだ、あれは?
スクリーンを見つめる俺の瞳に映るのは、細長い長方形をいくつも重ねたような物体。上部は平らで、並んだ長方形の中央やや後ろには小高い山のようなドームがある。下部は、ごつごつとした岩のようなフォルムをしている。AIコンピュータがはじき出したのは、全長約二〇キロ、幅約一五キロ、高さ約八キロという数字だった。大きすぎて、全体の形がつかめない。
もしかして、あれが大尉の言っていたモビィ・ディックなのか?
内部の様子を確かめようとしたが、暗すぎてよくわからない。小さな建物らしい影がいくつか並んでいるような気もする。小高いドームの中にあるのは……シルエットからすると樹木みたいだが、樹木だとするとかなりの
物体の下方にまわりこんでみる。やっぱり岩のような表面をしているが、ところどころにアンテナのようなものが生えている。
それにしても大きい。この物体はいったい何だろう。どこかの国が造った宇宙船だろうか。いや、宇宙船というより、スケール的にはもはや人工の小惑星だよな。
突然、トランスキャットⅩⅩⅦの船体がガクンと揺れた。
《――重力波を検知、
まずい。
俺はエンジンを逆噴射して、その場から離れようとした。
無駄だった。重力波に引っぱられた船体が、しだいに速度を増してモビィ・ディックに近づいていく。ダメだ、脱出しなきゃ!
なんで? 左舷のハッチが
目の前の光景が、スローモーションのように流れていく。トランスキャットⅩⅩⅦの船体が、ごつごつとした岩のような表面に猛スピードでぶつかって潰れていく。輸送コンテナに積まれていた荷物があっという間に散乱する。メキメキとかバリバリといった激しい振動が、船体を通じて伝わってくる。
どこかで爆発音がした。したように思った。真空なんだから音は伝わらない。
そうして俺の
――星暦四七〇一年、
アーシェス・
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