第005話 酔 態(ミランダ)
「――おい、ファルターク。ちゃんと
はいはい、ちゃんと呑んでいますよ。
すでにできあがっているらしいアークウェット大尉が、ほんのり赤く色づいた顔で
からみ酒だ。うん、だからイヤなんだよ、この
アークウェット大尉が、半分目を閉じた状態でこちらを睨んでいる。
「……お前、今、失礼なことを考えていなかったか?」
――
待ち合わせ場所のレストランで軽い食事を済ませたあと、俺たちは薄暗いバーの片隅で、向かいあって酒を呑んでいた。軽い食事といっても、アークウェット大尉はそこでもワインを一本
アイリーンⅣはスペースコロニーとしては古くて、五本のリングドーナツの中に合わせて七万人ほどの人が住んでいる。地上のひとつの
この店もそうしたもののひとつなんだけど、あまり
レディーファーストで店に
「――なあ、ファルターク。さっきも話したが、お前、本当に軍に戻ってくる気はないのか?」
アークウェット大尉は、グラスに残っていたウイスキーをぐぐっと呑みほすと、レストランで終わった話を蒸し返してくる。本当にからみ酒だ。
「ええ。どう考えてもダメでしょ、この腕じゃ」
俺は右手を軽くあげてみせた。コンテナを運ぶ
手をあげたついでにウエイターを呼んで、新しいグラスを二つ頼む。大尉も同じものでいいですよね? え、チーズを追加? じゃ、それもあわせてよろしく。
「だが、それ専用の義手だってあるんだぞ?」
背中をソファに預けながら、アークウェット大尉が続けた。
「試してはみましたよ。だけど、頭の中で考えているタイミングと実際の動きとじゃ、どうしても
「そうか……なら、内勤でもいいぞ。なんなら私のひ――いや、なんでもない」
彼女が何を言うつもりだったのか少しだけ気になったけど、とりあえず無視することにした。秘書とでも言おうとしたのかな。
「大尉の下でずっとパイロットばかりしてましたから、書類仕事なんかムリですよ」
「私のせいだと言うのか?」
「いや、そういうつもりでは……」
あるんだけどな。
「それとファルターク。その『大尉』という呼び方はそろそろ何とかならんのか。私はもうお前の上司じゃないし、私にだって名前くらいはあるんだぞ」
「上官命令でここまで俺を引っぱってきたのは、いったいどなたですか?」
「それはそれ、これはこれだ」
そんな
「じゃあ、どうお呼びすればいいんですか?」
「…………ダだ」
「だだ?」
「ミランダだ!」
いきなり呼び捨てになんてできるかよ、恋人でもあるまいし。誰だ、こいつに酒を呑ませたのは。
「……ふん、まあいい。それでお前は、これからどうするんだ?」
「どうするとは?」
「いつまでも
「まあ、そうですね。会社の宿舎に
あらためて考えてみると、
「結婚したり、子供ができたりしたらどうするんだ?」
「どちらも予定はないですね。大尉こそどうなんです? もういい
「誰がいい
早口で
「まあ、家がなくても、
あの……話が見えないんですけど、大尉。だから俺の話を聞いてください。
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