第004話 傷 痕(パスト)
待ち合わせの場所と時間を決めてアークウェット大尉とわかれた俺は、あてがわれた宿舎に着くなりシャワールームに飛び込んだ。
脱衣室で乱暴に衣服を脱ぎ、腕時計をはずして中に入る。右手の義手は、水に濡れても錆びない金属なのでそのままで大丈夫だ。手首やマジックハンドの各関節も、しっかりと防滴処理がなされている。いくら安物だとはいえ、そのあたりはちゃんと調べて買っている。
シャワー室の内壁は、前面がすべて鏡になっていた。これを考えたのは誰だ? 自分のオールヌードなんて見たくはないぞ。
そう思いつつ、なんとなく自分の
軍を辞めて四か月。毎月切っていた髪は二か月に一度となって、
首には
まあ、いまさら考えても、すでに終わった話だ……
……俺――アーシェス・
未婚のまま俺を生んだ母親は、俺を生むとすぐに教師を辞め、俺を連れてこの場所――ヴァンタム星系の第一惑星ファステトに移り住んだ。未婚で子持ちなんて珍しいことではなかったけど、生真面目な母親としては教師という仕事を続けることができなかったのだろう。あるいは、親戚か知人から雑言を浴びたのかもしれない。そのあたり、母親は何も教えてはくれなかった。
惑星ファステトには、トランと同じく
身寄りのない町に着の身着のままで引っ越してきたから、俺たち
小さくても図書館だから、そこにはいろんな本があり、俺は我を忘れて読みふけった。文学・地理・科学・天文・政治・哲学・動植物――さまざまな分野の本が
神話にしてもそうだ。この宇宙には七つの「
母親が死んだのは、俺が一二歳のときだ。いわゆる急死だった。父親の名前はとうとう教えてはくれなかった。俺のミドルネームである「ファルターク」に何か意味があるのかもしれないけど、考えても答なんて出ないから、もうずいぶんと前に考えるのはやめた。
母親の死後も、ずっと教会から学校に通った。小さい孤児たちの面倒を見るのと、自分たちが食べるだけの野菜をみんなで育てるのが日課だった。だけど四年後に図書館と一緒に教会も閉鎖されてしまい、俺は食うためと食わせるために軍に入隊した。
イシュタール共和国宇宙軍だ。
士官学校では、四年間、みっちりと
宇宙軍第一八航空戦闘連隊に配属されて
「アーシェス・
上官に敬礼すると、第三
「こちらこそよろしく頼む。アーシェス・
いいも悪いも、上官には逆らえない俺だった。そのころはまだ
そうして五年後、つまり、六か月前にその事故――いや、事件はおきた。
その日、俺たちの部隊、通称『ミランダ中隊』は、ヴァンタム星系のはずれにある
演習は、
途中までは何事もなく、演習は順調にすすんだ。お互いに二機の
異変に気づいたのは、俺の組の部下。気づいたときにはすでに手遅れで、部下の
何が起こったのか判明したとき、俺たちは全員が文字通り青ざめた。
いったい誰に想像することができただろう。体長四〇メートルほどもある
アークウェット大尉がすぐさま母艦に連絡して演習を中止し、俺たちは撤退を決めた。いくら
宇宙空間を
『――逃げろ、ファルターーーク!』
ヘルメットの
気づいたら、病院船のベッドの上だった。
俺が放り投げた部下は、放り投げられたことで難を逃れていた。一緒にいたら、タイミング的には二人とも
アークウェット大尉からあとで聞かされたところによると、隻眼の巨大な
見舞いに来てくれた部下――俺が助けようとした薄桜色の髪をもつ
いいよいいよ、そんなに気にしないでくれ。部下を助けるのは当然だし、部下でなくても当然だ。本当は、もう少しかっこよく助けられたらよかったんだけどな。
その後地上の病院に降ろされ、二か月後に退院した俺は、アークウェット大尉に辞表を出して軍を
「――そうか、わかった。だが、私としては納得はしていない。いつかお前とまた
彼女は俺の軍服の胸ポケットにあったサングラスに手を伸ばし、俺の顔をまっすぐに見つめてきた。
そうして俺は、軍が紹介してくれた今の
給料は……うん、皮肉なことにちょっとだけ上がったよ。
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