第18話 みんなヒーロー!
”恐らく、あやつとは戦いにならんじゃろ”
ドラの答えは聞きたかったものと全然違っていた。
全員がこの回答にどういう事だろうと顔を見合わせている。
「ドラちゃん、それはどういう事?」
ララが聞く。
”まあ、これから奴のとこに行けば分かるが、あやつは……自分で戦うようなことはせん。面倒臭い事になったらとっとと家に帰るだろうよ”
「家に帰る?」
ドラの言葉を聞き、皆が眉を歪める。
”あやつにこの世界を支配しようとか、そんな気持ちはない。性格は穏やかで怒りに任せて行動を起こすこともない”
「性格は穏やかとは? 意味が分からないのだが……」
エイドリアンが怪訝そうに言う。
”あやつが怒りを見せる事は無い。楽しい事が好きで、本人は遊んでいるだけで悪いという感情や思いがないんじゃ”
ララの腕に抱かれながらドラが言う。
ドラが話している間にチョビが焼きもちをやいたのか、上体を上げて座りララの膝の上に自分の顎を乗せた。そしてユニはララの肩の上に乗る。
「じゃあ、一体、何がしたくて我々の世界に関わるんだ……」
エイドリアンが呟くように言う。
”真意はわからんし、あやつの行動について理解はし難いな。あやつはこの世界を自分の遊び場と思っているようじゃ”
ドラがそう言うとヘンリーが舌打ちする。
「遊び場だと?ふざけやがって……」
”いかんぞ!”
怒っているヘンリーを見てドラが言う。ドラはララの手から離れ、ヘンリーの方にゆっくりと体をくねらせ優雅に飛んで行く。
”今回はあやつの事は無視するんじゃ!”
ドラの言葉に全員が驚いた顔でドラの方を見た。
「何故だ!?」
ヘンリーが叫ぶ。
”今はまだ、あやつには勝てん! あやつは怒りはせぬが、笑いながら人を殺せる冷酷な奴じゃ。変に刺激をしてその気にさせれば、大陸を滅ぼしかねんぞ!”
「しかし、それではどうしろと言うんだ」
エイドリアンが聞く。
”今回のゲームに負けたと思わせるだけでいい、さすればあやつは引いて行く。あやつを倒すのは、もっとずうっと後じゃ”
「ではいずれまた何かを仕掛けてくると?」
ロバートが聞く。
”心配するな、ララの御代ではもうない。もっとずっと先の事じゃ。そして、あやつを倒すのは、あやつに対抗できる聖女が生まれたその時じゃ”
ドラの言葉を聞きララは驚いて目を見開いた後、下を向いた。
チョビが心配そうに顎をララの膝から持ち上げてララの顔を覗き込み、ユニはララの顔の前でふわふわ浮いてララを心配する。
”……ララや”
ドラはまたララの元に戻る。
”力が足りないと
そう言い、ドラはリリアンヌの方に行く。リリアンヌは驚いた顔でドラを見た。
”この聖女は、お前よりずーっと力は弱い。お前はこのリリアンヌの事を無能で、何もできなかった者だと蔑むか?”
ドラの言葉にララはぱっと顔を上げた。
そしてぶんぶんと首をふる。
”そう、このリリアンヌは立派に皆を護った。自分の役割を自分で見つけ、それを全うしたのだ”
そう言い、ドラはもう一度リリアンヌを見る。
”派手な活躍をしたわけではない。……きっと誰もここに逃げ込んでいた者達の名前など気にもせぬじゃろう。だが、わしは知っておるぞ”
そう言い、ドラは少し高く上がってリリアンヌやエバンス、そして巫女や神官や大臣、そして事務官達の顔を見た。
”この聖女も、他の者達も、皆、成すべき事をやり遂げたヒーローだとな!”
ドラの言葉を聞き、リリアンヌ達の瞳から涙がこぼれる。
自分達の事をそんな風に評価してもらえて、救われたような気持ちになったのだ。
リリアンヌとここに残った者達は皆、誇らしげで自信に満ちた顔になっていく。そして皆が優しい目でララの方を見た。
急に遠くのほうが騒がしくなった。
ミドルバが指揮する兵達が宮殿の大門を突破して宮殿になだれ込む音だろう。
ララはその音を遠くに聞きながら皆のやさしい視線を受け止め、皆の顔を見回した。
皆がララの号令を待っているという顔だ。
ララはふっと微笑み、そして立ち上がった。
ララが立ち上がると、座っていた者達も皆、さっと立ち上がる。
「私達に出来る事をするために、我々も行きましょうか……」
そう言い、ララはもう一度皆の顔を見回す。
「さあ、みなさん、最後の仕上げです! 目標はマルタン公爵とその嫡男ジェームスの拘束! 行きましょう!」
ララの声が響いた。
~~*~~
ララ達は、神殿から走り出て、
そこでは魔王の眷属となった人間と魔獣とが、突入した兵士達と戦闘を繰り広げていた。
前面にドルト共和国の高位の神官達が立ち、精霊力で兵達を護りながらの戦闘だ。
「ユニ!、チョビ!、ドラ!」
ララが走りながらそう言うと、3匹の聖獣はスピードを上げて戦闘が繰り広げられている場所に突っ込んでいく。
ユニは敵兵の浄化をはじめ、チョビとドラは魔獣に火を吹いた。
味方の兵士達がララ達に気付き、ほっとし顔をほころばせる。
「陛下! ご無事でよかった!」
そんな中、場にそぐわないちゃらけたような言葉がララ達の耳に入る。
「あらあらあら~、もう来ちゃったじゃん」
ララ達は声の方を見た。
すると、3人の青年が戦っている魔獣達の少し後ろで笑顔で様子を見ている姿が目に入る。
3人は貴族の子息なのか、とても清潔そうで見た目が良い。
しかし、ララはその3人を見た瞬間、恐怖を感じぞっとした。
「さすがにまずいね~、おやじのところに戻るか」
「ああ、そうしよう」
その3人はそう言うといきなりふっと姿を消した。
いきなり人が消えた事で、ララ達が驚く。
「い、いきなり消えやがった! なんなんだ、あいつら!」
ヘンリーが驚いて声を出した。
「お、おじさま、あれって」
ララが真っ青な顔でロバートの方を見る。
「ああ……わたしも感じた、吸い込まれそうなほどの禍々しい瘴気を持つ者達。……あれが魔人という奴なのか?」
「魔人だと!? 嘘だろ!? 全く人と区別がつかないじゃないか!!」
ジュードが驚きのあまり敬語も忘れて叫ぶ。
「いや、精霊力を研ぎ澄ませば気付く。私にも感じられた」
セイラが青い顔をして言う。セイラの手が震えていた。
ジュードがセイラの様子に驚き、セイラの手を握ってやる。
「大丈夫か? 俺の後ろにつけ」
「いや、すまない。大丈夫だ、私はララ様を護らなければ」
セイラはそう言い深呼吸した。
3人の青年達が消えると、その場の敵側は統制が失われ一気に崩れた。
ララ達は兵士にマルタンの手先になっていた者を拘束するように命じ、自分たちは
「待っていたよ、大聖女ララ」
ララ達が王の間に入ると、いきなり王座に座っている男がそう言った。
男は金髪で碧眼。年齢は30前ぐらいだろうか?
シンプルな黒いパンツに白いシャツを着ているが、そのシンプルさが余計に男の美しさを引き立てているようだった。
ドラ、ユニ、チョビがサイズを少し大きくしてララの前に並んだ。
「おや、ホワイトドラゴンじゃないか、久しぶりだな、まだ生きてたか」
男は柔らかい笑みを浮かべて言う。
男のこの微笑みを見たら、何も知らない者は惹かれてしまうだろう。
だが、ここに居る者は少なからず精霊力は持っている。
相手が人懐っこさを感じる柔らかい笑みを浮かべていると言うのに、皆、彼が放つ禍々しい気の強さに顔を青くし、震えている者もいた。
ララ達は目だけを動かし部屋全体の様子を確認する。
マルタン公爵とジェームスが王座の横に立っていた。
それからさっき突然消えた3人の青年達もマルタン公爵とは反対側に立ってニコニコしていた。
魔王らしき男が笑いながら、突然口を開く。
「”随分、想像していた姿と違うのね”」
男の言葉にララがびくっとする。男は目を細めて微笑む。
「ふふ、人間の考えている事は手に取るように分かるんだ」
”魔王よ、ゲームは終わりじゃ。今回もお主の負けじゃよ”
ドラがサイズをまたひとまわり大きくしながら言うと、魔王は王座に座ったまま両手を前に出して肩をすぼめる。
「そのようだねぇ、今回はいい線いくかと思ったんだけど……、ラストの展開で負けたね。聖女の周りを勇者の駒で固められちゃ敵わない。駒の多さで負けたかなぁ。でも、まあ、面白かったよ。特にジェームスは本能全開で可愛かったね」
魔王はそう言い、微笑む。そしてマルタンを見た。
「マルタン、ゲームはこれで終わりみたいだ」
「ゲームは終わり? どういう意味だ?」
マルタン公爵は魔王を見る。
「私達の負けってことさ」
魔王は微笑みながら言う。
「負け? 魔王、お前はすごい力を持っているんだろう?」
「持ってるよ、だから何さ?」
魔王がマルタンの言葉に首をかしげる。
「何って、……私を皇帝にしてくれるんじゃないのか?」
マルタンが少し不安そうな顔をして聞く。
「うん、今回はそういうゲームだったね」
悪びれる様子もなく魔王が言う。
「なら! ララを殺して私を帝位につければいいだろう!」
マルタンがイラついたように叫んだ。
マルタンの言葉を聞き、ジェームスが突然大声で叫ぶ。
「じょ、冗談じゃないぞ! 殺してしまったら、ララを俺の物にできないだろう!」
このジェームスの言葉には、ララ達ばかりかマルタンや魔王さえも唖然となってジェームスを見た。
「お前らが、今は我慢しろって言うからずっと我慢していたんだ! こんな事ならもっと前に、ミラ王妃が死んですぐにやっておけばよかった! あんな代わりをよこしやがって! しかもやる前に自分で死にやがったんだぞ!」
ジェームスの言葉にエイドリアンとララの顔色が変わる。
ふたりには、ジェームスの言っているのが、エイドリアンの妹の事だとすぐに分かったのだ。
魔王の横に立つ3人の青年の内の1人がジェームスを見て言う。
「何言ってんだ、お前が俺に頼んで来たんだろうが、ケールの女は肌が綺麗だから抱いてみたい。一緒にやろうって」
エイドリアンが険しい顔でジェームスを睨み剣に手をやった。
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