第17話 魔王って強いの?
宮殿に続く隠し通路には、体を小さくしたユニとチョビが最初に入り先導した。
ララの周りを、ロバート、エイドリアン、ヘンリー、ジュード、トム、セイラ、シークの7人が囲むようにして隠し通路を進む。
一行は慎重に通路を歩き、ララも神殿に繋がる通路を間違えないようにと緊張しながら選んで進んだ。
「ここよ、この階段を上がった所が皇族の執務室に繋がっているはず」
ララは階段の前に立ち止まって言う。
「凄いですね、これほどの地下通路が造られていたとは……」
ジュードが感心したように言った。
「これは皇帝と皇帝の伴侶と皇太子の3人だけにしか知らされない通路なの。ジュード達が教えられているのは実際の10分の1ぐらいよ」
「そうなんですね」
ジュードがララの言葉を聞き、驚く。
ララは階段を登ろうと足を前に出した。
途端に腕をエイドリアンに引っ張られる。
「俺が最初に行く」
エイドリアンがそう言い前に出ようとしたが、エイドリアンも護衛騎士のトムに止められた。
「僕が行きます」
そう言い、トムは階段を登った。
チョビとユニがトムのすぐ近くをふわふわ浮いてついて行く。
「トム、その扉、押すのよ」
ララが階段の下から声をかける。
「了解です。では、扉を開けますよ、何が出て来るか分からないので身を隠してください」
トムの言葉に、エイドリアンが明かりを消し、全員が身を低くした。
トムが扉を押すと音を立てて扉が動く。
ギギギギギィ
扉が開かれ、動きが止まった。扉の外は真っ暗だ。
トムは慎重に扉の外の様子を伺う。
トムとユニ、チョビが扉の外に出た。
「だ、大丈夫みたいです、上がって来てください」
トムの言葉に皆は安心し、階段を素早く昇って部屋に入った。
そこはララが使っていた執務室で、今は誰も居なくて真っ暗だ。
隠し通路の入り口は大きな本棚と一体化されていて、ララ達はまるで本棚の中から出て来たような気分になる。
「皆は無事かしら」
ララが呟くように言う。
「見てください、ララ様」
セイラが窓を指さす。
皆が窓の方を見ると、窓の部分に内側から木を打ち付けてあった。
「大丈夫、こうやって侵入者を防いで身を護っていたのでしょう。地下の儀式の間に行きましょう。きっとみんなそこに隠れていると思います」
セイラの言葉を聞き、皆は地下にある儀式の間に急いだ。
「ラ、ララさま!?」
誰か、複数の人間が降りて来る足音を聞き、緊張していたリリアンヌが、その正体に気付いて嬉しそうな声を上げた。
ララ達が、広い儀式の間に入るとそこには巫女や神官達だけでなく、王宮で働く者達が身を寄せ合っていた。
「リリアンヌ!」
ララはリリアンヌの姿を見つけ、リリアンヌに抱きついた。
「ララ様、良かったご無事で!」
リリアンヌと、傍に寄って来た巫女たちが嬉しそうにララを見る。
「みなさんも、よく耐えていてくれました! ありがとう」
ララは、そこにいる者達の顔を見まわし嬉しそうに言う。
その姿を見るリリアンヌ達の目には涙が溜まっていた。
「陛下、ララ陛下! この度は、ご即位おめでとうございます。お祝い申し上げます」
そう言ってララの元に来たのは、ウィリアム前皇帝の側近の大臣と事務官達だ。執事のエバンスの姿もある。
「みなさん、本当によくご無事で……」
ララは知った顔ぶれを見て安心するように言う。
「ここに居る者はみな、精霊力がある程度強く、マルタン公爵に取り込まれなかった者達です。重要な書類や他国との契約関連の書類なども気付かれないようにここに避難させましたから、ご安心ください」
事務官が言う。
ここで籠城する覚悟だったのだろう。儀式の間に普段は置かれていない長椅子やテーブルが運び込まれている。
「こんな状況でよくそこまで……」
ララが感心したように言うと、皆が微笑んだ。
「少し前からリリアンヌと連絡をとりあって準備していたんです。そしてマルタン公爵の口から宣戦布告という言葉が出てすぐ、我々は神殿に集まりました」
大臣のひとりが簡単に説明をしてくれた。
「ここに隠れてしばらくの間は魔獣が周りを囲んでいたんですが、2日前ぐらいから、いなくなったので不思議に思っていたのです。陛下たちが来たからですね!」
事務官が言う。
「多分、魔獣を全部、こちらの攻撃にまわしたのでしょうね」
ララが頷き、呟くように言う。
「でも、本当によかった」
ララはみんなを見て微笑んだ。
「宮殿にもまだこんなに仲間が残っていたなんて、本当にうれしいわ」
ララの言葉を聞き、エバンスと大臣は顔を見合わせ微笑む。
そして大臣の一人がララに言った。
「ララ様の御代をお支えするのが今の我々の使命ですから」
神殿に避難していた者達に地下通路から逃げるようにララが言うと、皆がララと共に戦うと言い出した。
しかし、さすがにメイド達や精霊力の無い者は怪我をする可能性が高いので地下通路からミドルバの所に避難させることになった。同時にミドルバに突入開始を知らせなければいけない。
ユニに地下通路を先導してもらい、避難を開始した。
ララ達は、神殿でミドルバの突入の合図を待つことにした。
ララが置かれている長椅子の一つに座ると、いつものようにエイドリアンとセイラが両横に座り、ララ達の前にチョビが犬のように両手足をまげて寝転んだ。
リリアンヌ達が気を利かせて非常食と水を皆に配ってくれたので、皆それぞれ食事をしながら体を休めて決戦に備える。
「エバンスさん、マルタン公爵の傍に見慣れぬ者はいませんでしたか?」
ロバートが食事をしながらエバンスに聞く。
「見慣れぬ者ですか?」
エバンスはここに残った大臣や事務官と顔を見合わせ、それから答える。
「実は、我々がここを隠れ家にする準備を始めた頃から、とても美しい青年がジェームス様と一緒にマルタン公爵の傍にいました。私は見た事が無い方でしたので、ジェームス様のご友人のどこかの王族の血族かと…」
エバンスが言い終わると、若い事務官が少し怒ったような口調で話し始めた。
「その方は、とても失礼な人でしたよ! だって、……マルタン公爵でさえ座らなかった王座にですよ! その王座に冗談を言いながら座ったんですから!」
その言葉にララとエイドリアンが顔を見合わせる。
ロバートとヘンリーの表情は険しくなった。
「それって、もしかして」
そう言ったのはセイラだ。
「魔王……」
ロバートが呟く。
「……その青年はひとりでしたか?」
ロバートはエバンスに確認した。
「あ、いえ、従者を何人もつれておいででした」
エバンスが答える。
ロバートはヘンリーの方を見る。
「もしかすると魔人を人に化けさせているのかもしれない。これは、かなり注意が必要だぞ……」
「ああ」
ヘンリーは頷いた。
「魔王……」
ララが無意識に言う。その顔は不安そうだ。
エイドリアンは不安そうなララの手に自分の手を重ねた。
ララはエイドリアンの顔を見る。
「皇帝であるお前がそんな顔をしてはいけない。大丈夫、俺たちがいる」
エイドリアンは優しい目でララを見て言う。
ララはエイドリアンの顔を見ながら頷いた。
”ララ! 皆無事に送り届けましたよ”
しばらくしてユニが戻って来た。
ユニの後ろには小さくなったホワイトドラゴンがふわふわ浮いている。
”わしも、体を小さくして来てやったぞ、ララ”
「ドラちゃん!」
ララは小さなホワイトドラゴンを見て喜び、抱きしめる。
「よかった! 来て欲しいと思っていたの」
ララはドラの頭を撫ぜながら言う。
”ユニから禍々しさが尋常ではないと言われて心配になったんじゃ”
「ねえ、ドラ、あなた魔王を知っている?」
ララはドラに聞いた。
”あ……あ、あやつの事は知っておる。そうかこれはあ奴の気配か”
「ドラ、魔王って強いの?」
ドラが魔王を知っていると答えたので、ララはまた質問を投げた。
”そりゃあ奴は、もともと女神の一番弟子だという話じゃからな”
「え!?」
ドラの言葉に全員がドラの方をみた。
”あまりにも素行が悪くて破門されたと聞いたが、まあ、噂じゃし、流石にそれはわしの生まれる前のことじゃから、本当のところはわしにもわからん”
「……倒せるかしら?」
ララはドラの顔を自分の顔の高さに持ち上げて聞く。
”……”
ドラは少し答えを考えているようで、少しの間、沈黙がいた。
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