第15話 3匹目の聖獣目覚める

「まさか、自国であるサルドバルドへ攻め込むおつもりですか?」

 アーロンが驚きの声を上げた。


「マルタン達と決着をつけなきゃ終わらないもの……進むしかないわ」

 ララが答える。

「ええ。長引かせても仕方がないですし、私は賛成しますよ」

 ロバートがそう言うとミドルバも「私も賛成です」と言う。

 そして、エイドリアンやヘンリー達もララを見て頷いた。


「……じゃあ、私と聖獣が先頭に立って、浄化と魅了の解除をするから、正気に戻った人達をこちら側に再編成しながら軍を進めるようにお願いするわ、ミドルバ、おじさま」

「はい」


「チョビ!」

 ララが大声でチョビを呼ぶと、チョビはぶんぶん尻尾を振りながら飛んで戻って来る。

「背中に乗せてくれる?」

 ”いいよ!”

 チョビは嬉しそうに返事をした。


 ララが「よいしょ」と言いながらチョビの上に乗ると、エイドリアンとセイラもぴょんとチョビの上に飛び乗って来た。

 ”え!?”

 チョビが一瞬抗議の声を上げようとしたが、止めて、ため息をつく。

 ”まあ、仕方ない。ちゃんとララを護ってよ、ふたりとも”

「当然だろ」

 エイドリアンが答えた。


「じゃあ、ここはミドルバとおじさま、そしてヘンリーに任せたわ。ジュード達はおじさまを護ってね!」

「はい!」

 ララの言葉に、ジュードが大きな声で返事をする。

「あ、それと!」

 ララは振り返って大声で叫ぶ。

「サルドバルドの兵士を殺さないでね! 絶対よ!」


「……」

 最後のララの言葉に、ロバートとミドルバが顔を見合わせる。

「殺すなって、……戦争だってのに無茶な指示出しやがる、……まだおとぎ話から卒業できないらしいな、まったく」

 ヘンリーが頭を掻いた。

「ま、でも、それがあいつの御代って事なら、それはそれでいいかもしれないな!」

 そう言いヘンリーがロバートとミドルバを見て笑うと、ふたりも同意するように微笑んだ。



 ララ、エイドリアン、セイラの3人はチョビの背中に乗り、ユニが睨みを利かせている場所にまで飛んで行った。


「ユニ、お疲れ様。疲れてない?」

 ララがユニに声をかける。ユニはララの方を見る。

 ”今はまだ大丈夫ですよ、ララ”


「ありがとうね、ユニのおかげでどちらにも大した被害を出さすに済んでいるわ」

 ララがそう言うとユニは少し誇らしげに胸を張ったように見えた。


 ”でもさ、あいつらうじゃうじゃいるよ。殺さずにどうやって倒すの?”

 チョビが聞く。


「倒さないわ。あの人たちはサルドバルドの兵だもの、皇帝である私の指示を聞いてもらうだけよ。それが本来の彼らの任務でしょう?」


 ”そりゃあ、そうだけどさぁ。そんな簡単なのかなぁ”

「いいから、もっと前に行ってチョビ! サルドバルドの兵が私の顔をちゃんと認識出来るように」


 ”分かった”


 チョビがサルドバルドの兵の傍まで行くと、一斉に矢が飛んで来た。

 エイドリアンは剣でその矢をはたき落とし、セイラは風で矢の向きを変える。そしてチョビは火を吹いて矢を燃やして落とした。


「ララ、チョビの言う通り敵の数が多くて危険だぞ。敵は何万人もいるのに浄化しきれるのか?」

 エイドリアンが矢を落としながらララに心配そうに言う。

「大丈夫、私には秘策があるもの」

「秘策?」

「まあ、見ていて」


 ララはチョビの背中の上で立ち上がり叫んだ。

「攻撃をやめなさい! サルドバルドの兵よ! 私はサルドバルドのララです!私の顔を見なさい!」

 急に立ち上がったララに驚いて、エイドリアンとセイラは慌ててララが落ちないように掴む。


 ララが姿を見せて叫んだことで、サルドバルド側の兵達にざわめきが起こり始めた。


 ララは兵達を見回す様にして言葉を続ける。

「私は、ドルトに連れ去られたのではなく、洗礼を受ける為に自らドルトに来たのです! そして、先日洗礼を受け、大聖女の称号を与えられました!」


 ララの言葉を聞き、兵士たちは動揺しているようだ。

 兵士から飛んでくる矢が止まった。


 所々で「ひるむな! 攻撃を続けよ!」という叫び声も聞こえるが、攻撃してくる者はなく、皆ララの方を見て混乱しながらもララの言葉に耳を傾けようとしている。

 

 ララはユニを見る。

「まだ、瘴気はほとんど出してないように見えるけど、ユニから見てどう?」

 ”ええ、どうやら魔石を飲まされていない者もいるようですし、魔石を身体に取り込んでいる者も、ほとんどが魔石の粉を飲んで2,3日という所のようですね。直前に飲まされたのかもしれません”

 ララはユニの言葉に頷いた。

「なら、大丈夫ね」


 そう言い、ララはサルドバルドの兵たちの方を見る。

 兵の数は10万を超えて居そうだ。


 ララはもう一度サルドバルドの兵達に向かって叫び始める。

「サルドバルドの兵たちよ、目を覚ましなさい! 私が皇帝に即位したことは、ばらまかれた通達書で皆さんも知っているはず!」


 ララの言葉を聞き、兵士たちが不安そうにそわそわしはじめる。

 ララは一旦言葉を止めると大きく深呼吸し、それから叫んだ。


「皇帝として命じます! サルドバルドの兵よ、……わが軍よ! このまま今すぐ私の命に従い、私と共に真の敵と戦いなさい!」

 

 サルドバルドの兵たちの方のざわめきが大きくなる。

「やはりおかしいと思った。俺はララ様に従う」

「いや、まて、マルタン公爵は偽物がいると言っていたぞ。騙されているんじゃないのか?」

「でも、みろあの聖獣達を!」

「あ、あんなの高位の精霊術師なら、契約できるだろう?」

「マルタン公爵様が嘘などいうはずないし、一体どうなっている?」


 サルドバルド陣営では兵がかなり混乱しているようだ。


 その様子を見ながらララは自分の首にかかっている紐を引っ張って小さな袋を引っ張り出すと、それを開ける。

「これが私の秘策よ」

 ララはエイドリアンとセイラに聞こえるように言いながら緑色の石を取り出した。

「それは、精霊封じの石か?」

 エイドリアンが聞く。

「そう、この子、凄い子なのよ」


 ララはそう言うとサルドバルドの兵士の方を見て再び声を張り上げる。

「こちらをみなさい! 私が聖獣とともにあなた達の目を覚まさせます!これを見れば、きっと、あなた達も目が覚めるでしょう!」

 そう言いながらララは緑の精霊封じの石を上に掲げた。


「さあ、聖獣の王と言われるものよ! 今、ここで目覚め、我が使役獣として契約を!」

 ララがそう言うと、パァっと緑色の石が光り輝き出した。

 

 目を逸らさなければならない程の光に、おお―という声があちこちから上がる。

 光る石は空中を登っていき、ララたちが居る場所よりかなり高い位置で止まると、やがて何も見えなくなるほどまばゆい光を放った。


 そして少しづつ引いて行く光の中、空に現れたのは……


  美しいホワイトゴールドに輝くドラゴンだった――


 突然の事に、皆驚き、口を開けた状態で荘厳で美しいドラゴンを見上げている。


 そして、しばらくの間ドラゴンに魅入られていた兵達が歓声を上げ始めた。

「すごい! 幸運を呼ぶと言われているホワイトドラゴンじゃないかっ!」

「あ、あれは、間違いなくミラ様のホワイトドラゴン! ミラ様の娘であるララ様が引き継いだんだ!」

「ララ様バンザーイ、ララ陛下、バンザーイ」


 皆のララを称える声が少しずつ大きく、そして合わさり、やがてうねりとなり、ララに届いた。



 ”随分遅い目覚めじゃないか、ドラじいちゃん”

 チョビがホワイトドラゴンを見上げるように言う。


 ”ふふ、あいかわらずじゃのう、はぐれフェンリルのチョビよ”

 ホワイトドラゴンはチョビを見て言う。楽しそうだ。


 ”目覚めるのをお待ちしておりましたよ、ドラ”

 ユニがそう言うと。ホワイトドラゴンはユニの方に顔をやる。


 ”おお、潔癖症のユニか、元気そうだな”

 ホワイトドラゴンはそう言った後、ララの方を見た。


「こんにちは。ようやく目覚めてくださいましたね」

 ”おお、ミラの娘よ。久しぶりじゃのう、成長し、大聖女になったのだな。わしを覚えておるかのう? 昔はよく遊んでやったものだが”

「ええ、思い出したわ。お母さまが、ドラちゃんって呼んでいたわね」

 ”ほほほほ、そうじゃ、ドラじゃ、お主の母は、わしにも可愛い名前をつけよったものじゃ”

 ドラが笑ったので、ララも自然と微笑む。


 ”しかし、ちょっと眠っていた間にとんでもないことになっておるじゃないか、ここに居る者はみな魔王の眷属のようじゃが、……この世界では魔王をあがめるようになってしまったのか?”


「そうではありません、皆、知らない間に魔王石の粉を飲まされた者たちなんです。どうか浄化を手伝ってください」


 ”ほほ、そういう事か。よかろう、われは聖獣の王ホワイトドラゴン! 女神アテラミカよりこの世界を浄化する役割を与えられたもの!”


 そう言うとドラは空中を舞い、頭の部分を持ち上げてサルドバルドの兵士達の方を向いた。


 ”大聖女ララよ。わしと共に、こ奴らの瘴気を全て消し去ろうぞ!”


「ええ、ドラちゃん」

 ララはそう言うと手を上にあげる。

「ケガレ、瘴気のすべてを浄化、そして魅了を解除します!」

 

 ララがそう言うと、ララの上にあげた手から柔らかい光が出始める。

 ドラも口を開けると、口の中からキラキラと光る柔らかい光を出し始めた。


 そしてララとドラの出すキラキラした柔らかい光は、空からサルドバルドの兵達の下に降り注いだ。


 兵たちは、温かい光に当たると皆、気持ちがスーッと癒され穏やかになるのを感じ、表情が柔らかくなっていく。

 光が全兵士にいきわたり、浄化し癒した後、光は徐々に消えて行った。

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