第11話 衝撃を受けるララ

 ピカァッ―――


 精霊石を泉に落とした途端、泉は眩しいぐらいに強い光を放ちだした。


 泉から発行される光は、いろんな色に変化した。

 金、銀、黄、赤、青、緑、紫…もう表現しきれない程の色だ。

 キラキラと輝きながら美しい光がララを包み込んでいく。


「こんな光り方見た事ないぞ」

 ヘンリーが驚いたように呟く。

「もしかしてこれが大聖女の場合に光るという、虹色の光?」

 セイラが呆然と光を見つめながら言った。


 立合人達だけでなく、洗礼に慣れているはずの枢機卿であるロバートもとても驚いた顔をしている。



 光は、塔の先から外にも漏れ出ていて、集まっていた人々を興奮させていた。



 ララを包む光は爆発するように光を放った後、収まった。


 ララが目を開けると、エイドリアンが心配そうにララを見つめていた。

 エイドリアンはそのままララを腕に抱き、泉から上がる。


 リタがすぐにローブを持って走り寄ってララにローブをかける。

 エイドリアンは、ララをゆっくり立たせた。


「驚いたな」

 そう言ったのはロバートだった。

「大聖女だとは思っていたけど、これ程とは……」

 ロバートは、ララをみる


「間違いなくミラ大聖女より精霊力は強いし、歴代トップ10の中に入るだろう。ララ! 帝位なんかに就かないで聖職者にならないか!?」

 ロバートの本気の勧誘にララ達は苦笑した。



 大聖女の誕生を知らせる鐘が鳴り響く中、ララ達が外に出ると、観衆の声援は凄いものだった。


 ララは神官達にお披露目の為のテラスに案内された。洗礼の後、お祝いに集まった人々に、祝福のお裾分けとしてコインを投げるのが慣例になっている。貴族の洗礼の後は沢山のコインが投げられる事もあり、お披露目もかねて、このお披露目用のテラスから投銭をするのだ。


 ララが神殿の聖女たちと共に、お披露目のテラスからお祝いの投げ銭を投げはじめると、集まった観衆は皆興奮しながらそれを取ろうと手を上にあげて動く。

 ドルト共和国は、大聖女誕生に沸きに沸き、お祭り状態だった。


 ”ララ!”

 頭上から声を掛けられ、ララが上を向くと、そこには大きくて立派なフェンリルと、美しくて立派なユニコーンが居た。

「チョビと、ユニ!」


 ”ララ! われらにも力が戻ったぞ!”

 ”本当に、久しぶりに爽快な気分です!”

 チョビとユニも本来の姿に戻り嬉しそうだ。


「降りてきて、ギュッてさせてよ」

 ララがそう言うとユニはテラスに降り立ち、チョビは降りて来てテラスに前足をかける。

 ユニは通常の馬と同じ大きさだが、フェンリルのチョビは人間を3人乗せても余裕がありそうなぐらい大きいので、テラスの上には降りられなかったのだ。


 ララはユニのクビに抱きつき撫ぜて、その後テラスから身を乗り出してチョビのクビ元に埋もれるように抱きつき、もふもふする。

「ふふ、癒される」

 ララは嬉しそうだ。


「私も何だが霧が晴れたような気分なのよ、力がみなぎってるわ!」

 ”ララの精霊力は底なしだぞ、すごいエネルギーを感じる”

「そう? ふふ、嬉しい、これでみんなを救える」

 チョビの言葉にララは嬉しそうに言った。


「ねえ、ユニ、背中に乗せてもらっていい?」

 ”勿論。遠慮はいりませんよ。私は正式にあなたの守護聖獣になりましたからね”

 ララは銅銭の入った袋を持つと、ユニの背中に乗り上空に舞い上がった。

 

 それを見た人々から物凄い歓声が起こる。

 その歓声の中、ララは上空からまんべんなく銅銭を投げた。



 ~~*~~


 儀式の次の日は、疲れていたのだろう。ララは昼近くになってようやく起きて来た。

 皆も今日は1日ゆっくり過ごすつもりで、久しぶりに集まってくつろぎながらお茶を飲んでいた。


 このところ武闘派の神官達との訓練で忙しかったミドルバ、ジュード、トム、シークもゆったりとお茶を飲みながら話をし、アーロンもアンナとソファーに並んで座り仲良さそうに話をしている。


 そして、長いソファーにはララを真ん中に、ヘンリーとエイドリアンが座り、その後ろでリタとセイラが立っていた。


「リタとセイラも座ってお茶を飲んでくつろいで」

 ララが2人を見て言うと、リタとセイラが顔を見合わす。

「では、……そうしましょうか」

 リタがそう言い、ふたりは空いているソファーに座った。

 

「ララ、何か今までと違うとか、実感あるか?」

 ヘンリーが大型犬サイズに調整しているチョビの首を撫ぜながら興味ありげに聞く。

 ユニは小さなサイズに戻なって皆のまわりをふわふわ飛んでいた。


「う~ん。特にこれといって何も。ちょっと体が軽くなった気はするかしら?」

 ララが少し考えるように答えた。

 ”私達には、随分と違いが出てきているぞ”

 ユニが自慢するよな口調でヘンリーの頭の上で言う。

 ”そうそう、体のサイズも自由に変えれるようになったしね!”

 チョビはヘンリ―にもっと撫ぜろと言わんばかりにくっつきながら言う。


 ララは、そんなチョビとヘンリーを嬉しそうな顔で見た後、少し元気がない様子になって視線を下に向けた。

「……皆、もう気付いていると思うけど、私には稀代の大聖女のように、一気に大陸全土を浄化するような力はないわ」

 ララは目を伏せながら言う。

「だから、本に載っていたようには出来そうにないの」


 ララの言葉を聞き、ヘンリーとエイドリアンは顔を見合わせて微笑んだ後、ヘンリーがララの髪をくしゃくしゃにしながら撫ぜた。

「きゃっ、ちょっとヘンリー!」

 ララが驚き、声をあげる。


「見ろよ、ララ。俺たちがいるだろうが」

 ヘンリーにそう言われ、ララは皆の顔を見まわす。

 皆はララにとても優しい微笑みを向けていた。


「ララの継承の儀が終わった後は、すぐにサルドバルドの帝都に行ってマルタン公爵家の関係者の逮捕だな」

 ヘンリーが言う。


「え? サルドバルドまで来てくれるの?」

 ララが驚いて声を上げた。エイドリアン達はともかく、コタールの王子のヘンリーがそこまで付き合ってくれるとは思ってなかったのだ。


「そりゃあ、ここまできたら最後まで見届けなきゃなあ? お前達だけだと頼りなくて心配だからさ」

 ヘンリーが少し恥ずかしそうに言う。

「私も騎士を連れて、ついて行きます」

 アーロンもそう言った。


「ありがとう」

 ララは嬉しさで涙を流しそうになりながらお礼を言った。


「後は、帝位継承の儀式を待つだけですね」

 リタが嬉しそうにララに言った。

「そうそう、後は教皇様を待つだけだからな」

 ヘンリーがそう言う。

「儀式の準備は終わったみたいだし、神殿の神官達もホッとしているでしょうね」


 アンナがそう言うとセイラが笑った。

「みんな寝不足だったから、今日は爆睡しているらしいよ」

「聖職者なんて、普段ぼんやりしてそうだし、あいつらにはかなりきつかっただろうな」

 セイラの言葉を聞き、ヘンリーが笑いながら言う。


「ああ見えて、彼らも、普段から結構忙しいのですよ」

 突然、ロバート枢機卿が部屋に入ってきてそう言った。ヘンリーがビクンとする。


「はは、聞こえてた?」

「ええ、ばちあたりな事を言わないで下さいね。普段の彼らの仕事ぶりを見たら驚きますよ」

 ロバートがそう言うと、ヘンリーがへへへと笑ってごまかす。


「みなさん、良いお知らせを持ってきました」

 ロバートがにっこりとしてそう言うと、皆がロバートを見る。

「さきほど、教皇様が、全工程を終わられたので、明日朝から帰路につくと連絡がありました」

 その言葉を聞き、皆の顔がぱあっと明るくなる。


「3日ほどで戻られると思います」

 ロバートの言葉に一同、ほっとする。

「準備は整っているし、あとは待つだけですね」

 ロバートはみんなの様子を見て微笑む。


「いろいろありがとうございます、おじさま」

 ララはその場で頭を下げた。

「いえいえ、これはもうサルドバルドの帝位だけの問題ではない事ですからね。帝位継承の後は、各国の代表を集め、マルタン達について話し合う必要がありますね」

 ロバートの言葉にララが頷く。


「今、神官たちに、大陸会議を行う調整をしてもらっていますから、ララが帝位を継承したらすぐに……」

 ロバートがそこまで言った時、廊下から走って来る足音と枢機卿の名前を呼ぶ大きな声が聞こえて来る。

「枢機卿! 枢機卿!」

 大きな声に皆が開け放たれている扉の方に目をやると、枢機卿の秘書官をしている若い司教が走りこんで来た。


「どうしたんですか、ロナルドくん。そんなに慌てて」

 ロバートが少したしなめるような口調で言う。


「た、大変なんです、大変です! ど、どうすれば」

 ロナルドと呼ばれた青年は、息を切らし、焦ってもいるようで何がいいたいのかよく分からない。


「落ち着きなさい、ロナルド。一体、どうしたんですか?」

 もう一度ロバートが窘める様に言うとロナルドは唾を飲んでから言った。


「ザルトバルドが…… サルドバルドが! 我が国にしてきました!」


 ――――!?


 サルドバルドがドルト共和国に宣戦布告したという言葉を聞いて、驚きのあまりララは意識が飛びそうになった。

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