第3話 ララの不安な心
「私の親友を惚れさせた責任、勿論とってくださいますよね?」
このララの言葉を聞き、アンナが驚いて声をあげる。
「ララ! 突然何を言うの!?」
「あたりまえでしょう、大事な親友を弄ばれてはたまらないわ」
ララは椅子に座るアンナの顔を覗き込むように見て言った。
「な、なんて事を言うのよ。弄ぶなんて、私達はそんな」
アンナはララの言葉に顔を赤くする。
「何言っているの、あなたをこんなに惚れさせたのはアーロン殿下だわ」
「そ、そんなこと……」
アーロンは驚き呆けた様子で二人のやり取りを見ていた。
それからアーロンは急にふっきれたように真面目な顔つきに変わり、呟くように言う。
「いや、……弄んだわけではない」
アーロンの言葉を聞き、二人は黙ってアーロンの方を向いた。
「僕は、決して弄んだわけじゃない。何度も自分の気持ちを抑えようとした。婚約者の親友を好きになるなんて許されない事だと分かっていた。でもどうしても、アンナ嬢の事を目で追ってしまうし、傍にいたいと思ってしまう。触れたくて触れたくて……そんな気持ちを抑えられなかった」
アーロンはそう言い、アンナとララを見た。
「だから、弄んだわけじゃなく、僕は、本気でアンナ嬢を……」
アーロンの言葉を聞きアンナの顔は真っ赤になり、そして涙目になった。
アーロンは申し訳なさそうに目を伏せ、泣き出しそうな様子で続ける。
「ララ皇女、申し訳ありません。僕は貴方にずっと不誠実だった。貴方が僕に屈託のない笑顔を向けてくれる度、僕はこの笑顔を守らなきゃいけないんだと心で思いながら、アンナ嬢を目で追っていた。本当に、……本当に申し訳ありません」
アンナはアーロンの言葉を聞き、ぼろぼろと涙をこぼす。
「私もいけないのです、ダメだと思いながら、でも気持ちを抑えられずに皇女の婚約者に惹かれてしまったのです」
「……」
ララは二人の様子を見て、そして大きくため息をつく。
「ふたりとも、私はもう子供じゃないのよ」
ララの言葉に二人は顔を上げ、ララを見る。
「子供だった私は、あなた達の事にも気づかず、ただアーロン殿下のことをおとぎ話に出て来る王子様だと思って慕っていた。でももう私はおとぎ話からは卒業するの……」
そう言ってララは二人に向かって微笑んだ。
「これからは、私は自分の頭で考えて行動すると決めたの。自分の伴侶もおとぎ話の王子様ではなく、本音でぶつかり合ってお互いを高められるような男性を自分で探して選ぶわ。だから、アーロン殿下、貴方もどうか自分の心に従って、私の親友のアンナを守ってください」
ララの言葉を聞き、アーロンとアンナが顔を見合わせる。
「もしアンナを泣かすような事があれば、私が許さないから」
ララはそう言いにっこりと微笑む。
ララの言葉にアーロンは強く何度も頷く。
「守ります…… 僕は命をかけて一生彼女を護ると誓うよ」
ララはアーロンの言葉を聞き頷いた。
「じゃあ、お邪魔したわね、ふたりで仲良くね」と言い、アンナとアーロンを残し部屋から出た。
廊下ではリタとセイラとエイドリアンが複雑そうな顔して立っていて、ヘンリーはにやにやしている。
ララは皆の様子に構わず、廊下を歩き始める。
「婚約破棄、きっと大変ですよ」
リタが歩きながら愚痴のように言う。
「そうねぇ……」
ララがそう言うとリタは心配そうな顔になる。
「エルドランドとはずっと友好な関係を保っているのに、これが原因で揉めるような事になったら……」
「まあまあ、仕方ないじゃん」
ヘンリーが声を上げる。
「この状況で、ララとアーロンが結婚して幸せになれると思うか?」
ヘンリーがリタを見て言う。
「そりゃあ、まあ……」
「あんたの心配は分かるけどさ、ララやアンナ伯爵令嬢の幸せを望むなら、これでいいと思うぜ」
「もちろん、それは分かっています。私もそう言う意味では、アンナさんを応援しますよ。ただ、ララ様が外交面で苦労なさるのではないかと」
リタはまだ不安そうだ。
「ま、俺たちコタール王室も全面的に後押しするから、心配するな」
「ありがとうヘンリー、頼りにしているわ」
ヘンリーの言葉にララは礼を言った。
~~*~~
夕食は大広間にみんなの分を準備してくれて、全員そろって食べることが出来た。アンナとアーロン、そしてエルドランドの騎士達も一緒だ。
ララが驚いたのは、魔石を飲まされてマルタンの術にかかっていた黒ずくめの男達も、浄化治療された後に自分たちのやってきたことを後悔し、今後はララの為に働くと言い、この場に残ってくれていた事だ。
いつの間にか、ミドルバやジュードと彼らは打ち解けていて、みんな揃ってワイワイと食事している。
そんな様子を眺めながら、ララは幸せそうに微笑む。
「こんな風にミドルバ達も揃って、テーブルで食事するなんていつぶりかしら」
ララが微笑みながらそう言うとセイラが微笑んで答える。
「テーブルでとなると、ピッサの伯爵邸が最後ですかね」
「そうね」
ララは懐かしそうに微笑む。
「私について来てくれた皆には、本当に感謝しているわ」
ララがしみじみとそう言うと、皆が微笑む。
「私一人では何もできなかった。きっといつまでもおとぎ話の中に閉じ込められたまま抜け出せず、何も知らずにマルタン公爵親子にいいようにされて、最後にはきっと暗殺されていたわ」
ララはそう言いみんなの顔を見る。
「こんなに何も出来ない私について来てくれてありがとう。仲間も増えて、……とても幸せな気分だわ」
「我々エルドランドも、ララ様と共にありますよ」
アーロンがララにそう言った。ララがアーロンを見て頷く。
「ありがとう」
「おいおい、ララそれ早いぞ! 気を抜くなよ、まだ終わってないからな」
ヘンリーが笑いながら言う。
ちょっとしんみり真面目な雰囲気が嫌で空気を変えたかったようだ。
「そうね!」
ララが元気に笑って言い、ナイフをおくとフォークだけ掴んで皿の大きめの肉を突き刺す。
「まだまだ終わってないし、沢山食べて体力つけなきゃ!」
ララはそう言ってフォークで刺した肉に豪快にかじりついた。
それを見ていたセイラ達は微笑むと、自分達もララの真似をしてナイフを置くとフォークでザックっと肉を突き刺し、まるで乾杯するように軽く掲げる。
「沢山食べるぞ!」
セイラが大きな声でそう言うと、「おう!」という声が響き、みんなが肉にかじりついた。
~~*~~
夕食の後、ララは一人になりたくて神殿の中庭に出て散歩をしていた。
ララの頭の中にはいろんなことが巡っていた。
洗礼の事、帝位の事……
マルタン公爵とジェームスの事……
魔石を飲まされた人たちの事や売られた獣人族の事
……アーロン殿下との婚約破棄の事
そして、……エイドリアンの事
ララは空を見上げた。今日も月が綺麗だ。
ララの耳に近付いて来る足音が聞こえて来た。
ララは微笑む。誰の足音かすぐに分かったからだ。
足音はララのすぐ後ろで止まり、低い男の声が聞こえる。
「今夜も月が綺麗だな」
それはララの大好きな低い声だ。
「そうね」
ララは微笑みながらそう言い、エイドリアンの方を向いた。
「不安なんだろ?」
エイドリアンはララを見て言う。
「ええ」
正直に返事してから、ララはエイドリアンに背を向け月を見上げた。
「とても不安だわ。沢山積みあがっている問題を、私はひとつひとつ解決していかないといけない。私なんかに出来るのかって不安になるわ」
そう言いララは右手で自分の左腕をさするように持つ。
「そもそも、わたしが本当に大聖女になれるのかさえ分からない。もし大聖女になれなかったら? そしたらどうなるのかしら? マルタン公爵に対抗できないかもしれない。……とても不安だわ」
「心配するな」
エイドリアンはそう言うと、後ろからララを優しく抱きしめた。
ララは驚いて小さく「きゃ」と言う声を出す。
「たとえ、ララが大聖女でなくても、俺たちが必ずお前の願いを叶えてやるから」
「え?」
「ララが何もできない皇帝でも、俺たちが何とかしてやる。だから何も心配しなくていい」
「エイドリアン……」
ララがまわされたエイドリアンの腕を抱きしめるようにぎゅっとすると、エイドリアンのララを抱きしめる力が急に強くなった。
それからエイドリアンは顔をララの首元にうずめるように唇をララの首元につける。ララの身体がビクンとなり無意識に逃げようと体が動く。
エイドリアンの抱きしめる力が更に強くなり、ララに耳元でささやく。
「少し、少しだけじっとしてて……」
ひやぁぁ
ララはエイドリアンの言葉に心の中で悲鳴をあげた。
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