第2話 責任とってくださいね

 聖獣チョビとユニのおかげで、この後は魔獣に襲われることなく、ララ達一行は無事神殿に着いた。


 ララ達は、先に神殿に着いていたミドルバ達と枢機卿に出迎えられた。

 リタは真っ先にララの元に走り寄り、ララの身体を確認し怪我もなく無事であることが確認できると涙を流しながら喜んだ。

 

 そんな2人を温かい眼差しで見ていた枢機卿がララに声をかけてきた。

「お久しぶりですですね、ララ……いや、もう陛下と呼ぶべきかな」

「いえ、いつも通りララと読んでください、ロバートおじ様」

 そう言い、ララは右手を胸の辺りに持って行きお辞儀をした。今はパンツ姿なので、いつもとは少し違う形だ。


「分かった、では今まで通りララと呼ばせていただこう」

 枢機卿は柔らかい笑みを浮かべてそう言う。そして皆を見まわした。

「それにしても、……随分と大変だったようだね」

 皆、服はボロボロ、髪も乱れ、顔は相当疲れてる様子だ。


「ええ、私に力がないので、皆にとても負担をかけてしまいました。すみませんが、まずは少し休ませて頂きたいのですが……」

 ララがそう言うと、枢機卿は優しい笑みをララに向けた

「ああ、もちろんだ。部屋をすぐに準備させるので、とりあえず応接間で飲み物でも飲んでお待ち下さい」



 ララ達はすぐに応接間に案内された。


 ララとヘンリー、そしてエイドリアンは案内されたソファーに座る。

 三人とも久しぶりのフカフカのソファーの座り心地にほっとした様子で大きく息を吐いた。


 しかし、セイラ、トム、シークの三人は立ったままだった。

 そんな三人に枢機卿は一度手で座るように促す。


「いや、我々はとても汚れていますので……」

 セイラが代表でそう言った。


 それを聞いた枢機卿は優しく微笑んで言う。

「構いませんよ、気にしないでください」

 

 そう言われたセイラ達は顔を見合わせると頷き合い、そしてゆっくりとソファーに座った。


「食事と飲み物をすぐに準備しますので待っていてください」

 枢機卿は全員がソファーに座ったのを確認してからそう言い、準備の為か部屋を出た。


 それからあまり時間をおかずに枢機卿は応接室に戻って来た。

 枢機卿の後ろには、飲み物と食べ物を運ぶリタと巫女たちが居る。


 しかし枢機卿が戻って来た時には、既に全員が夢の中だった。


 枢機卿は安心したような表情でぐっすり眠る彼らを見て優しく微笑む。

「よほど疲れたのでしょう…このままにしておきましょう。飲み物と食べ物を机に並べておけば目が覚めた時に食べるでしょう」

 

 リタと巫女たちはなるべく音を立てないように応接室に入ると、テーブルに自分たちの持ってきた物をそっと並べて置く。


 全て並び終え、全員が応接室を出る。

 枢機卿は食べ物がすべて並べられたのを確認し、自分もドアを通って廊下に出ようとした時に、何気なくララ達を振り返ってもう一度見た。

 皆、安心したような表情でぐっすりと眠っている。


「……大聖女と勇者たちよ、沢山の試練を乗り越えましたね…今は身体を休めて眠ってください」

 枢機卿は優しく微笑みながらそう呟いた。



 ララ達はぐっすり眠ってしまっていて、すぐには起きなかった。

 疲れ切っていたララ達の睡眠を邪魔しないよう、そのまま応接で寝かし起こさないようにと、枢機卿が指示を出してくれていたので、皆ぐっすりと何時間も眠ってしまったのだ。


 起きた時はもう、お昼をとうに過ぎていた。

 目覚めた後、ララ達は用意してくれた食事を食べ、お風呂にはいって身綺麗にした。

 その後、ミドルバ達の所に案内して貰ったのだが、その時はもう夕方になっていた。



 ミドルバ達は訓練所で訓練をしている最中だった。

 彼らはドルト共和国の戦闘部隊に訓練を頼まれたのだ。


 ドルト共和国の兵士や騎士達は、全員聖職者だ。

 もともと軍人だったが、聖職者に変わったという者も何名かはいるが、ほとんどが素人でそれほど戦闘力が高いわけではない。


 しかし、最近は魔獣の動きが活発になっている事もあるし、枢機卿が襲われるという事件が何度か起きている事もあり、危機感を感じていた。  

 それでドルト共和国の戦闘部隊は、プロの軍人であるミドルバ達に剣術や戦術について教えて欲しいと頼んで来たのだ。


剣が交わる金属音の響く訓練所にララ達が現れると、皆が剣を下ろし、頭を下げて挨拶をした。

ミドルバ、ジュード、そしてアーロンに付き添ってきたエルドランドの騎士達がララの元に集まって来る。


「ララ様、ご無事でなりよりです」

 ミドルバはララの顔を見て本当に安心したような顔をして言った。


「皆さんもご無事で何よりです。アーロンを無事にここまで運んでくれてありがとう。そしてアンナやリタを守ってくれて感謝します」

 ララがそう言うと、騎士たちみんなが少し誇らしげな顔になる。


「ミドルバ、ジュード、眠っている間に会いに来てくれたようですね、すっかり眠ってしまっていて、すみません」

ララがそう言うとミドルバとジュードは微笑む。

「とてもお疲れのようでしたからね。少しは休むことが出来たようでよかったです」

ミドルバが言うと、ララ達は少し恥ずかしそうに微笑む。


「あ、コタールの第一王子、ヘンリー殿下ですね」

ジュードが、後ろに立つヘンリーを見つけ、頭を下げた。

「初めてお目にかかります。私は現在ララ様の護衛騎士団の団長を務めるジュードと申します」

 

「ああ……君の事は覚えているよ、エルドランドに来ていただろう? ララの後ろを歩いているのを見ていた」

 ヘンリーはジュードの顔を見て言う。

「覚えて頂けていたとは、光栄です殿下」

 ジュードが再び頭を軽く下げた。


「俺は堅苦しいのは嫌いなんだ。普通に接してくれたらいいよ」

 ヘンリーがそう言うと。ジュードが「はい」と笑顔になる。


「セイラも無事でよかった。ケガはないか?」

 ジュードはセイラの方を見て言う。

「はい、ありがとうございます」

 セイラは笑顔でジュードに軽く頭を下げた。



 ミドルバ達との再会を喜んだ後、ララとエイドリアン、そしてヘンリーとセイラの4人はリタに案内されてアーロンの部屋に向かった。


 アーロンの怪我はすっかり良くなっているそうだが、沢山の精霊力を使って治療したので、体力がまだ戻っていないそうだ。

 それで今はまだ、安静にする必要があり床に就いているらしい。


 廊下を歩いてアーロンの部屋に近付くと笑い声が聞こえてきた。

 アンナとアーロンの笑い声だ。


 部屋の扉は大きく開け放たれていた。

 ララは一緒に来たリタやエイドリアン達に廊下で待つように手で合図してから、開け放たれた扉から部屋に入った。

 その時、2人のとても楽しそうな笑顔がララの瞳に映る。


 アンナとアーロンはすぐにララが入って来たことに気付いた。

 アンナは、ララに席を譲る為にサッとベッドサイドの椅子から立ち上がって数歩移動した。

 アンナは笑顔を消して、緊張したような表情になっていた。


 アーロンの方はララの方を向いて微笑み「ララ皇女」と声をかけた。


 ああ……


 ララはアーロンの微笑みを見て何かを確信したような表情になる。しかし、すぐにララはいつも通りにアーロンに声をかけた。

「無事で良かったわ、アーロン殿下」


 ララはアーロンにいつも通りの微笑みを向けながら心の中で呟く。


 そうね……

 いつも、私たちが向け合う微笑みは、小さな時から訓練されるこの作り笑いの微笑みだったわ。


「うん。君が僕を助けてくれたおかげだよ。ありがとう」

 アーロンはララにいつも通りの笑顔でお礼を伝える。


「当然の事だもの」

 ララも笑顔でアーロンに応えた。

 それからララは申し訳なさそうに頭を下げる。


「今回の事は本当に申し訳ありませんでした、アーロン殿下。我々の国のいざこざに貴方をまきこんでしまって。……どう謝罪すればよいか分からないわ」


「あ、いやいや、謝らないで、ララ。こういうリスクは僕ら王族には常についてまわる事だよ。僕らはララを支援する立場をとっているのだから、ララの敵は僕らの敵でもある。その敵から狙われるのは仕方ないし、君のせいじゃないよ」

 アーロンはいつも通りララに優しい言葉をかけてくれる。


「それに、僕も随分よくなったんだ。明日からはベッドを出て自由に動いても大丈夫だと言われている。体力も、もうすっかり戻っているんだよ」

 アーロンがララにそう言うと、ララが心からほっとする。

「本当によかったわ、アーロン殿下」

 ララがそう言うとアーロンは頷く。


「だから、僕も手伝うよ」

「え?」

アーロンの想定外の言葉にララが驚きの表情になる。


「僕に君を守らせて欲しいんだ」

 アーロンのこの言葉を聞き、ララは一瞬じっとアーロンを見てから、ため息をついた。


「そうね、一緒に戦ってくれたらとても嬉しいわアーロン殿下。でも……」

 ララはアーロンの顔を見つめる。

「アーロン殿下が本当に守りたいのが私ではない事を、私はもう分かってしまったんです」

「え?」

 今度はアーロンがララの言葉に驚いた顔をする。


 ララはアンナの肩を持って、ベッドサイドの椅子に座らせた。


「アーロン殿下……」

 ララはアーロンの名を呼びアーロンを見る。


「私の親友を惚れさせた責任、勿論とってくださいますよね?」

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