第6章 大陸を救うため皇女は皇帝になる
第1話 ドルト共和国に入国
次の朝、出発してしばらく行くと国境線の川に着き、その川を渡ってララ達一行はようやくドルト共和国に入った。
しかしドルト共和国側の森に入った途端、出没する魔獣が増え、容赦なく魔獣が襲って来た。
ララ達は何度も馬から降りて魔獣に対応せざるを得ない状況で、なかなか前に進めない状況だ。
「きりがありませんね!」
剣を振るいながら、護衛騎士シークが言う。
「愚痴るな! 疲れるぞ!」
ヘンリーが魔獣を斬りながら叫んだ。
魔獣を1匹倒した後、ヘンリーはシークを見て言う。
「シーク、お前の聖獣は呼べないのか!?」
「私の聖獣は海が無いと役に立たないと……何度も説明しましたよね?」
シークが困った顔をして言う。
「え? そうなの?」
二人の会話を聞いて不思議そうに声を出したのはララだった。
「ええ、私の聖獣は人魚なんです」
シークは汗を拭いながら答えた。
「人魚!?」
ララだけではなく、他の者達も驚いて声を上げた。人魚の聖獣など初めて聞くからだ。
「でも、いつも助けられているじゃないか」
ヘンリーが腑に落ちないという風に言う。
「王都は海に面してますからね。そもそも私があなたの護衛騎士の選ばれたのは水属性の力が強いからですよ。殿下の炎を抑えられるようにということで選ばれたのです。なのでそもそも私の精霊力は攻撃には向いてないのです。そして、ここは海から遠すぎるので精霊から援護を得るのは無理ですね」
「お前、……今、”俺は戦うの無理、勘弁しろよ”って言った?」
ヘンリーがブッスとした顔で言う。
「いいえ、まさか」
シークは整った美しい顔に柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
ヘンリーが胡散臭い奴だというような表情でシークを見る。
「え? じゃあ、精霊の力を借りて私たちの居場所を突き止めたんじゃないの? 私達が連れ去られた時、ヘンリーがシークは聖獣を持っているからすぐに場所を特定できるはずだって……」
ララが顔に?を浮かべながら言う。
「まったく殿下は適当な事を……」
ララの言葉を聞き、シークは情けないという顔をする。
「お前いつも俺が授業を抜け出してもすぐに見つけてたじゃないか」
ヘンリーはシークを見て心外だという様子で言う。
「だからそれは王都が海に近いからです。それにあなたの居所なんて、聖獣の力を借りなくともすぐに分かりますよ。その前に何の話をしてたか覚えていればいいんですから」
シークがそう言うと、ヘンリーは言葉にならず子供のように恥ずかしそうに顔を赤くする。
「あら、じゃあ今回はどうやって私達の居場所を??」
ララが聞く。
「ちゃんとみんなで捜査したんですよ。その結果、わりと近くにクロード伯爵の邸宅があることが分かったので、クロード伯爵邸に乗り込み、そこの執事に状況を教えて貰って、隠れ家の事も聞いたんです」
シークはララに優しく微笑みながら説明した。
「おい、お前ら! ……しゃべって休憩するなよ。ちゃんと手伝えよ」
ぜいぜい言いながら、エイドリアンが言う。
「あ・悪い、悪い、いや、休憩してたわけじゃないんだぜ」
ヘンリーが焦りながら誤る。
エイドリアンとトム、セイラの3人は既に魔獣を倒し終えていた。
3人は疲労困憊な様子でぜいぜい言いながら恨めしそうにヘンリーとシークを睨んでいた。
森の魔獣は単体で襲って来るものと、集団で襲って来るもの達がいた。
単体で襲って来るものは特に問題無いが、集団で襲って来るものを退けるのが大変でかなりの体力を消耗させられた。
レベルの高い魔獣だと、リーダ格の個体を倒すとわりと早めに勝てないと判断して怯えて逃げてくれるのだが、低級レベルの魔獣ほどしつこく、なかなか退いてくれなかった。
ララ達は自分たちの体力が森を抜けるまでもつか、心配になって来る。
6つめの集団を相手にし始めた時は、もう、皆、戦い始めた時から肩で息をしていた。
特にセイラの消耗が激しかった。
やはり体力にはどうしても男女差が出るようだ。
ヘンリーはそんなセイラに気付き、少し前から必ず庇うような位置に立ってくれていた。そしてそんなヘンリーを庇うように護衛騎士シークが立って魔獣を斬ってくれている。
ララの前に立つエイドリアンとトムも既に息を切らしていた。
エイドリアンは、何度も精霊力を使ってかなり消耗している様子だ。
ララは、このままではいけないと自分の手をじっと見た。
少しぐらいなら使えるかもしれない……
そんな風に思い、手を前に出してみる。
浄化!
ララは心の中で叫んだ。しかし何も起こらない。
ララは深呼吸する。
そして、もう一度目一杯祈った。
浄化! お願い!
すると小さな光の玉がシャボン玉のようにふわふわと魔獣に向かって飛んでいき、魔獣のお腹辺りに当たった。
「やった! 当たったわ!」
ララは喜んで声をあげる。
ララの光の玉に当たった魔獣は一瞬動きを止めた。そして光の当たった部分に手を当て、「?」とクビを傾ける。
どうも全くダメージはなさそうだ。
「あれ?」
ララが、魔獣に何も起こらないのを見て間の抜けた声を出した。
魔獣が体制を整え、再び襲い掛かろうとする直前に、エイドリアンがその魔獣を切り倒した。
「ララ! 効いているみたいだ! アイツらの動きが一瞬止まる!」
エイドリアンが叫ぶ。
ララは、ハッとして「えいっ」と、順に何匹かの魔獣達に光を放つ。
光はふわふわと浮遊して狙った魔獣達に順に当たっていく。
光が当たった魔獣たちは、さっきの魔獣と同じように光の当たった場所を手で確認してクビを傾げる動作をして動きを止めた。
騎士たちはその隙を狙って、魔獣を斬る。
魔獣の動きを止めることで、防御したり余計な動作をしなくてよくなり、さっきまでよりは体力を使わずに魔獣を倒せるようだった。
ほ、ほんとに効いてるのかしら?
ララはそんな風に思いながら光を放って当てていく。
しかし、まだまだ洗礼を受けてないララの力は未開放の状況だ。それほどのスタミナはなく、すぐに息切れし始めた。
もう、ちょっと、これ以上は、無理かも
ララも、騎士達もそんな事を思い始めた―― その時、
急に辺りにパァっと光が満ちて明るくなった。
その光はとても暖かく心地よい光だ。
皆、驚いて光の発生している方を見た。
ユニだ!
そこに居たのはララの聖獣であるユニコーンのユニだった。
ユニは空中に浮いていて、そこから強い光を放っているのだ。
ユニの光に当たった魔獣たちは次々に浄化され、雲のようになって消えていく。それを見た残りの魔獣たちは怯えたようにざーっと森の奥に逃げて行った。
ユニは魔獣が消えるときに残る魔石までも一緒に浄化していて、石の色が黒から澄んだグリーンに変わっていく。
やがてユニの体から光が消える。
ユニは”ふぅ”と声を上げると、フラフラと浮遊しながらララの元に行く。ララはそんなユニを受け止めるように抱きしめた。
「ユニ!」
”ったく、私の力はまだちゃんと戻っている訳では無いんだから、こんなに浄化したら、倒れてしまう”
ララの腕に抱かれながら、相変わらずの口調でユニが言う。
「ありがとう、ユニ、助かったわ!」
そう言い、ララが撫でてやるとユニが嬉しそうな表情になる。聖獣たちは、撫でられるのが好きなようだ。
”あ! ユニ! そこは僕の場所!”
チョビの声だ。ララが上を見上げるとチョビの姿があった。
”うるさい、働かぬものに報酬はない!”
ユニがそう言うとチョビは怒る。
”ぼ、僕だって浄化ぐらいできるよ! でも、まだ力が戻ってないから、浄化が得意なユニがやっただけじゃないか!”
”そう、私は浄化ができるのだ、小さくてもな!”
ふふん、とう感じでユニが言う。
”むか! 僕は火が出せるもん!”
チョビはむきになって言い返す。
「ふ、2人とも、喧嘩しないの!」
ララは2匹の間に割ってはいる。
「どっちも来てくれて嬉しいわ! 本当に助かったもの」
ララがそう言うと2匹は嬉しそうに笑う。
”アーロン王子の意識が戻ったのでな”
ユニがそう言うと、それを聞いた皆の顔がぱっと明るくなる。
”枢機卿、ララと同じ血を持つあの男は、なかなかの精霊力を持っていてな、アーロンを無事回復させた。まあ、日数はかかったが大したものだ”
ユニが説明を追加する。
ララはユニの言葉を聞き、ほっとして嬉しそうな顔をした。
「つまり、ロバートおじ様も刺客から逃れて無事ってことね」
「あの……」
皆がほっとしたところで、セイラの遠慮がちな声が聞こえた。
「どうか手をお放しください、ヘンリー殿下。私は大丈夫ですから」
セイラの言葉にヘンリーがハッとする。
どうも必死で戦っている間にヘンリーは無意識にセイラの手を掴んでいたようだ。王子の手を振りほどく事は出来ずセイラは困っていた。
「早く手を放してヘンリー王子!セイラさんが嫌がってますよね!」
トムが怒鳴るように言う。ヘンリーはサッと手を放した。
「俺は必死で守ろうとしてただけだろうが」
ヘンリーが心外だという感じで言った。
「そんなに気になるなら、お前がちゃんと守ってやれよな…… 男として」
ヘンリーがそう言うとトムの顔が真っ赤になる。
「な、何を言うのです! 僕は同僚として言っただけです!」
「こんな時にじゃれ合えるとは、お前ら元気だな。俺はもう疲れたよ…」
エイドリアンは二人のやり取りを見て呆れたようにため息をついた。
ララがチョビとユニを見て言う。
「チョビ、ユニ! みんな疲れているから、神殿までの案内と保護をお願いできるかしら?」
”もちろん、ガッテン承知!”
”よろこんで”
チョビとユニは元気よくララに返事を返した。
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