第11話 今夜は月が綺麗だから
先頭の騎士が玄関をあけると小屋に駐在している騎士の一人が顔を見せた。
「待っていましたよ、随分時間がかかったのですね」
駐在の騎士はそう言って微笑み、皆を迎え入れた。騎士達の間では知った顔だったのだろう、ほっとした様子で全員中に入った。
「久しぶりだな、この辺に変わりはないか?」
ララ達と一緒に来た騎士の中で指揮をとっていた者が問いかける。
「はい、特になにも。さあ、こちらへ、疲れたでしょう?お茶をいれますので」
ヘンリーはまずララをテーブルの椅子に座らせた。ララは椅子に座ってほっとした顔を見せる。
続いてヘンリーがララの横に座ると、クロード伯爵や騎士たちもわらわらと椅子に座った。
「もう少し早くお着きになるかと思ってましたよ。今からだと、菓子より夕食ですね」
そんなことを言いながら駐在の騎士は茶葉の入っているポットにお湯を注ぎ蓋をした。
「……」
ヘンリーが訝しげにお茶を蒸らす騎士を見つめる。
「なあ、おまえ……」
ヘンリーが駐在騎士に声を掛けた。騎士はポットを持って少し振り、とぽとぽとカップにお茶を注ぎ入れながら「なんでしょうか」と返事をする。
「……なんで、俺たちがここに来ることを知っていたんだ?」
ヘンリーの言葉にお茶を淹れていた彼の手が震え、カップからお茶がこぼれる。
「あ!」
彼は慌ててふきんでこぼれたお茶を拭きとった。
「おかしいだろ? 俺たちがいつ頃ここに着くかも知っていたなんて、誰かこいつに知らせたのか?」
ヘンリーがそう言うと、皆が駐在騎士に不審そうな視線を向ける。
「……知らせなど送る暇はなかった、一体どういうことだルーカス」
騎士の一人にルーカスと言われた男はびくびくしながら隣の部屋に続く扉を見た。
皆もつられるようにそちらを見る。
するとドアがかちゃりと音を立てて開いた。
「ったく、せっかちだねぇ、疲れているだろうからお茶ぐらい飲ませてあげようと思ったのにさ」
現れたのはジェームスだった。
ジェームスの姿をみて全員が警戒をする。
「すごい格好だね、ララ」
ジェームスは膝のあたりで切り取られたララのスカートを見て言った。
「綺麗な足じゃないか」
ジェームスの言葉にララはぞっとして顔が青くなる。
「こんなガキに…… しかも妹のように育った従妹に欲情するなんて、相変わらずお前は相当な変態だな」
ヘンリーが顔に笑みを浮かべながらジェームスを見て言う。
「お前も相変わらずだな、ヘンリー。昔から礼儀がなってない奴だった」
ジェームスもヘンリーの嫌味に応えて微笑んだ。
それからジェームスはお茶を淹れかけて手が止まっている騎士ルーカスの方を見る。
「まあ、歩き疲れているだろう? まずはお茶でも飲んでゆっくりすればいい。お茶を淹れてくれ」
「いらないわよ!」
ララが叫ぶように言う。
「みんなダメよ、彼らが出すものは何も口にしないで!」
ララがそう言うと、ジェームスは少し驚いた表情でララを見る。
「へぇ、能天気なバカ皇女が、随分成長したものだな…… どこまで状況を理解したのか興味が湧いてきたよ」
「あなた達が騎士達に毒を飲ませているのは知っているわ」
ララはジェームスを睨みながらい言う。
「毒?」
ジェームスは笑った。
「毒か薬かは飲む者次第だな。私は効果に満足しているのでね」
ジェームスの言葉にララは目を見開く。
「噓でしょ、まさかあなたも飲んだの?」
「飲んださ、おかげで魔力を手に入れられたし、いつも頭も冴えていて効果は最高だね」
ジェームスが笑いながら言う。
「正気なの? いつか魔に喰われるわよ」
「大丈夫さ、コントロールさえ出来れば問題ない。それに私は魔族の王の庇護の元にいるからな」
まるで自慢するように言うジェームスを心底軽蔑するような目でララは見た。
「信じられない、どこまでバカなの」
「ふふ、ついこないだまで何も知らずに懐いていたくせに、何を今更」
ジェームスはララの方に近寄っていく。
それを見てララは椅子から立ち上がった。
同時にヘンリーも立ち上がりララとジェームスの間に入る。
「邪魔だな」
ジェームスはそう言い、ヘンリーの身体を押す。軽く押しただけに見えたが、ヘンリーは体制を崩して後ろにふらついた。
「うわっ!」
ヘンリー自身も驚き、声を上げて後ろに倒れこむ。
「殿下!」
クロードと騎士たちが驚いて椅子から立ち上がりヘンリーの方に飛んでいく。
「どうだい? ララ、こういう事なんだよ、いい力だろ?」
ヘンリー達の事など無視するようにララの方を見てジェームスが言う。
ララはジェームスを睨んだ。
「可愛いなぁ。成長するのを待った甲斐があるよ」
「き、気持ち悪い」
にやりと笑うジェームスを見て、ララの口から本音がこぼれる。
「ふっ、おいで、嫌がっても無駄だよ、逃げられないからね」
「絶対嫌! 絶~対、嫌! 嫌ったら嫌!」
ララは大きな声で叫ぶ。ララを見てジェームスはため息を着く。
「相変わらずの我儘皇女ぶりだね。いいよ、私がお前を従順になるよう教育してやろう」
ジェームスはそう言い、軽く右手を上げる。すると奥の部屋からわらわらと黒ずくめ男達が入って来た。
「全員を拘束」
ジェームズがそう言うと、黒ずくめの男達は一斉にララ達を掴んで拘束する。
「ちょっと、触らないで! 無礼者!」
「はなせっ!」
「い、痛い! どうして我々を捕まえる!?」
ララ、ヘンリー、クロード、そして一緒に来た騎士達はそれぞれが抵抗を試みるが相手の力が強くすぐに全員が拘束されてしまった。
~~*~~
外は既に暗くなっていて、空には星が輝いていた。
ララ達は丸太小屋から少し離れた場所に連れてこられ、立った状態で両方の手を片方ずつ上から吊るしたロープで縛られ、両足も片方ずつ左右からロープで縛られた。
「あ、ヘンリー」
ジェームスは、同じように縛られたヘンリーの方を見て言う。
「先に言っておくよ。このロープとか木材はお前の精霊力では燃やせないものだから」
ジェームスの言葉を聞き、ヘンリーは悔しそうな表情を浮かべる。
ジェームスは、ヘンリーの悔しそうな顔を見て満足そうな表情を浮かべてから、ララの前までゆっくり歩いて行った。
「うん、いい眺めだよ、ララ」
ジェームスはそう言い、ララの首に手を持っていく。
「触らないで変態!」
ララは必死で逃れようと手足に力を込めながら悪態をつく。
両手両足を縛られた状態では逃げることも出来ず、ジェームスはゆっくりとララの首元から肩に手を這わせ、そしてもう片方の手をララの膝に持って行く。
「やめて! さわらないで!」
ララが叫ぶと、ジェームスは手を引いた。
「うん、もう触らないよ。君がお願いをして来るまでね」
ジェームスはそう言い笑った。
「ここは乾燥しているし、夜はとっても寒くなるらしいよ」
ジェームスはそう言いながら、ヘンリーやクロード伯爵達の方に目をやった。
「君が、私に抱いてくださいと言えたら、みんなを解放してあげる」
「なっ!」
「自分から、私の元に来るがいい」
「行くわけないでしょう! この卑怯者!」
「なんとでも言えばいい。俺はずっと、お前に触れたかったのを我慢してたんだ、まだもう少しぐらい待てるさ、何日でもね」
「卑怯者!」
「うん、うちの一族、卑怯でなきゃ、やってこれなかったからね」
そう言い、ジェームスは身を翻した。
「見張りはおいて行くけど、小屋に聞こえるように叫んでね、ジェームスお兄様、私を抱いてくださいって」
「ふざけないで! 待ちなさい! 待ちなさいってば!」
ジェームスは叫ぶララを無視して顔に笑みを浮かべながらその場を去っていった。
どのぐらい時間が経っただろうか、綺麗な満月が空の高い位置で輝いている。今日は天気が良く、星と月が綺麗に見えた。
気温が下がり、膝までスカートをカットしているララの身体は足元から冷えはじめ、自然と震え始めていた。
「ララ、大丈夫か?」
震えるララの様子をみてヘンリーが聞く。
「私は大丈夫です。それよりクロード伯爵は大丈夫ですか?」
ララがクロードに声を掛けると、クロードが顔を上げる。
「ええ、今はまだ寒さは問題ありません。いささか空腹ではありますが」
クロードは健気に笑みを浮かべて答えた。
「ちくしょう、あいつら、絶対に痛い目にあわせてやる」
ヘンリーはかなり腹を立てているようだ。
「ララ、朝まで耐えられるか?」
ヘンリーが真面目な顔をして聞く。
「ええ、耐えるわ、絶対に…… それに」
ぶるぶると震えながらララが言う。
「朝まで耐える必要はないと思う」
ヘンリーが不思議そうな顔になる。
「どういう事だ?」
ララは空を見上げて、美しい月を見つめ微笑んだ。
「だって…… 今夜は月がとっても綺麗だもの……」
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