第6話  え?ヘンリーが襲われる?

 ララとセイラはナンとカレーを取りに一緒に席を立った。

 ララはセイラに教えて貰いながら、器にナンを載せる。


「全種類食べたくないですか? ナンのサイズが大きいですし、シェアしましょうか?」

 セイラがララに言う。


「え? いいの? セイラは一人で全部食べられるんじゃない?」

 ララはセイラにそう言うが、既に目は嬉しそうに輝いている。

 セイラはそんなララを可愛く感じてくすっと笑う。


「私はライスも食べるつもりですし、足らなければまたナンを取りにくればいいので、大丈夫ですよ」

「じゃあ、3種類、全部取るわね!」

 ララは嬉しそうに言って、器にナンを乗せる。


 ララはビールで少し酔っているのか、普段より楽しそうによくしゃべる。顔も少し紅潮していて可愛かった。

 ララとセイラは楽しそうに食べたいものを取って席に戻った。


「ナンでカレーをすくうように食べると良いですよ」

 セイラにそう言われ、ララは野菜カレーとナンを口に運ぶ。

 カレーの香りが口の中に広がり、そのスパイシーな味わいに驚くララ。

 何度も咀嚼するとプレーンナンのシンプルな味と掛け合わさってとても美味しかった。


「とても美味しいわ」

 ララが笑顔でそう言うと、ヘンリーが嬉しそうな顔になる。

「そうだろう? 我が国の飯は他の国とは全然違う味わいがあるんだ。ほら、ビールも飲んでみな、よく合うぞ」

 言われるままにララは冷えたビールを飲む。

「ぷはっ、ホントによく合うわ! 美味しい」


 とても楽しそうに食事するララを、エイドリアンやセイラは嬉しそうに見る。

「いい飲みっぷりだな」

 エイドリアンは笑いながら言った。


 ララ達は、別料金のサラダや、チキンも追加注文し、食事を楽しむ。

 どれもララは食べた事が無いものばかりで、一つ一つ味を確かめながら嬉しそうに食べていた。


 そんな様子を見ながら、ヘンリーが突然真面目な顔をして言った。


「みんな、ここで、十分に休んでおけよ。この先はゆっくり休める場所はないからな。岩や崖が多い乾いた大地を暫く走り、その後は魔獣が多く住む森の中に入る事になる」


 トムとセイラがヘンリーの言葉を聞き、顔を上げ、緊張した顔になる。


「普通ならこのコースは使わずに、エルドランドを経由して安全なコースを行くんだが、それだと5日以上多く時間がかかるからな」

「かなり危険なコースなのか?」

 エイドリアンが聞く。


「ああ、ここから森まではかなり過酷で、昼は暑く、夜は寒い。体調に気をつけなきゃいけないし、森の中は比較的過ごしやすいが今度は魔獣が襲ってくる…… まあ、このメンバなら、問題無いとは思うが、怪我をするとなかなか治りにくくて厄介だ」


「ああ…… 魔獣の毒素の影響ですね」

 セイラが言う。


「ああ、この地域の魔獣は毒素を持ってる種が多いんだ。傷はなかなか治らないし、酷いと腐ってくるからな、ほんの小さな傷でも付けられないように気をつけろよ」

 ヘンリーがそう言うと、皆は頷いた。


 食事が終わった後は、ヘンリーの言う通りに早めに寝ようと言う事になった。

 部屋は2部屋とったので、男と女で分ける事にして部屋に移動する。

「ララ、大丈夫か?」

 移動中、エイドリアンが心配そうにララを見て言う。

「大丈夫。ちょっと酔ってるけど、ぜんぜん平気

 ララは機嫌良さそうにそう言う。やはり少し酔っているようだ。

「大丈夫です、私がついていますから」

 セイラがそう言うと、エイドリアンは「頼んだぞ」と、そう言った。



 真夜中、ララは目が覚めた。ララは上半身をゆっくりと起こす。

「……ちょっと頭が痛いかも」

 辛いものを沢山食べたからか、お酒のせいなのかは分からないが、とても喉が渇いている。部屋に水は無く、外に行くしかなさそうだ。


 ララは、セイラの様子を見る。

 セイラは気持ちよさそうにぐっすりと眠っていた。


 起こす程の事ではないわね……


 そう思ってララは、そっとベッドを抜けて部屋を出た。


 飲み水は各階の階段近くにある小さなスペースに準備されていて、欲しければ自由に飲めばよいと教えて貰っていたので、ララはそこに向かって足を出す。


 廊下を歩き始めると人の気配を感じた。誰かが廊下で話しをしているようだった。

 どうやら飲み水を置いている所で、誰かが話しているのだと分かってくる。男性のようだ。


 ララは、目的の場所に他人が居ると分かり、途中で足を止めた。人と鉢合わせるのは嫌だなぁと思ったのだ。

 しかしその後聞こえた来た声で、そこに居るのがヘンリーと分かりララはホッとする。


「こんな所に来ても無駄だ」

 ヘンリーの声だ。


 誰と話しているのかしら?

 護衛騎士のシークさん? それともエイドリアンかしら?


 相手の声は小さすぎて分からなかった。


「諦めてくれないかな、俺にその気は無いと言ってるだろう?」

 ヘンリーの声だけが聞こえる。


「誰と話しているの、ヘンリー」

 ララは飲み水が置いてある場所まで来て声を掛けると、ヘンリーがハッとしてララの方を見た。


 ヘンリーは茶色のフードのついたマントに体を包んだ3人の男達と話をしていたようだ。


「ヘンリー、その人達は誰?」

 ララはそう言いながら、置かれているカップを取り、水差しからカップに水を注ぐ。


「水を飲みに来たのか、結構飲んでたからな」

 そう言いながら、ヘンリーはララの真後ろに移動して立つ。

「喉が渇いてしかたないの」

 そう言い、ララはごくごく水をのんだ。

「水差しごと部屋に持って行けばいい、部屋まで送るから、行こう」

 ヘンリーは水差しを掴み、ララの背中を押すようにしてその場を離れようとした。


「お待ち下さい、殿下!」

 男たちが声をかける。

「下がれ!」

 ヘンリーは小さく怒鳴るように言う。

 男達は一瞬ビクンとなり、怯んだように見えたが、ササッと近くに寄ってきた。

「何故です? 何故チャンスを掴もうとなさらないのですか!?」

 男達が傍に来たので、ヘンリーはララを庇うような位置に立つ。

「俺は下がれと言った。これ以上俺につきまとうなら、お前たちの事も容赦しないぞ」

 ヘンリーの声のトーンが何時もと全然違っている事に気付いてララは不安になる。

「俺にはその気はない、だからほっといてくれと言っているんだ。何度も言わせるな!」

「そんな訳にはいきません! あなたは自分の責務を放棄している!」

 フードの男達も興奮気味だ。

 ララは、不安そうにヘンリーに顔を向けた。ヘンリーの顔は、イラついているような顔だ。


「あの…… わたし、エイドリアンを呼んでく……」

 ララがそう言い、その場から離れようとした途端、ララは強く引っ張られ何が何か分からないうちに、フードの男の1人の腕の中に引き寄せられていた。

「きゃっ」

「おいっ!」

 ヘンリーが驚いて声を上げる。

「やめないか!」


 男はナイフを出しララの顔に近付けた。

「一緒に来てください、ヘンリー殿下」

「お前らっ!」

「殿下! これはチャンスなのですよ!」

「ララを離せ! そんな事をしても無駄だ! 俺はお前らとは行かない!」


 ヘンリーは怒っているがララを人質に取られていて動けなかった。


「ヘンリー! うしろ!」

 ララが叫んだ。しかし間に合わず、ヘンリーはこっそり後ろから近付いてきた男に後ろから羽交い絞めにされて、鼻と口元をハンカチのようなものでおさえられ、一瞬で気を失った。

「きゃっ……」

 大声を出しかけたララも口を抑えられ、同じように何かをかがされた。そして、ララも抵抗する間もなく気を失った。

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