第13話 宣言
チョビは、わずか4時間で教皇を連れて戻って来た。
チョビによる空の旅は相当怖かったのだろう。
帰って来た教皇とロナルドは真っ青ですぐには一人で歩けない程フラフラだった。
「すぐに、帝位継承の義を行いましょう」
ロバート枢機卿は、フラフラの状態の教皇を容赦なくすぐに儀式の部屋に連れていく。
皆もゾロゾロと儀式の部屋へと集まった。
「み、水ぐらい飲ませてくれんかね、ロバート君」
人の良さそうな教皇は、上目使いでロバート枢機卿を見る。
「仕方ないですね、誰か、水!」
普段の教皇と枢機卿の力関係が見て取れると、エイドリアンとヘンリーは苦笑する。サルドバルド帝国の筆頭公爵家出身のロバート枢機卿にとっては、教皇といえども全く怖くないようだ。
着替える暇もなく、何とか水だけ飲ませて貰った教皇は、ふうとため息を付き、女神アテラミカ像の前に立って、小さく祈りを捧げる。
「で? 大聖女ララ様はどちらに?」
教皇はぐるりと見まわして聞いた。
すると、遠くから帝位継承用にドレスを着たララがリタとセイラに裾を上げてもらいながら走って来るのが見えた。
「はあ、はあ、すみません! せっかくだから、おじさまがプレゼントしてくれた衣装に着替えを……」
ララは息を切らせながら教皇の前に立つ。
ロバートが嬉しそうにララを見て「似合っているね、良かった」と言う。
「では、始めましょうか。継承権第2位と3位の方、前に」
教皇がそう言うと、ロバートとヘンリーが前にでる。
教皇がロバートの前に立った。
「帝位継承権第2位の枢機卿よ、あ―……ではなく、ロバート=フィックスよ、そなたはこのサルドバルドの第一子皇女ララ=ハイムズが、帝位に着くことを認め、忠誠を誓うか?」
教皇がそう言うとロバートは少し頭を下げて言う。
「はい、ララ=ハイムズ皇帝を認め、忠誠を誓います」
次に教皇はヘンリーの前に立った。
「帝位継承権第3位のヘンリー=ウォルターよ、そなたはこのサルドバルドの第一王女、ララ=ハイムズが、帝位に着くことを認め、忠誠を誓うか?」
教皇の言葉にヘンリーは少し頭を下げて答える。
「はい、ララ=ハイムズ皇帝を認め、忠誠を誓います」
「では、ララに敬意を示せ」
教皇がそう言うと、2人はララの前にひざまつき、そして剣を寝かせた状態でララに差し出す。
ララはまず、ロバートの剣を取り、それを彼の肩に置く。
「陛下に忠誠を近い、仕える事を誓います。どうか、陛下をお守りする剣を私に……」
「ロバート=フィックス公爵よ、わたくしの臣下となる事を許します」
そう言い、ララは、剣に口付ける。そしてその剣を差し出した。
「わたくしの祝福を受け取りなさい」
「ありがたき幸せ」
そう言いながら、ロバートはララから剣を受け取った。
ララは、次にヘンリーからも剣を受け取り、同じようにやり取りする。
そして、剣にキスし、ヘンリーに差し出す。
「わたくしの祝福を受け取りなさい」
「ありがたき幸せ」
そう言い、ヘンリーもララから剣を受け取った。
「ここに、教皇の名において、第42代目、サルドバルド帝国皇帝にララが即位した事を宣言する」
神殿の窓と言う窓から、精霊力により作られた鳥達が一斉に放たれた。
この鳥は、あちこちの街に宣言書をばらまいて、ララが帝位を継いだことを正式に宣言するものだった。
各国の都市で、この宣言書が書かれた紙を拾い見た人々が、大聖女の誕生と新しいサルドバルド皇帝の誕生をよろこびあう。
もちろんその光景は、サルドバルドの街でも同じだった。
~~*~~
「皇女を取り返し、皇帝を殺したやつらに報復するんだ!」
ロバートは伏目がちに言う。
「と、……サルドバルドの兵士達が言っているそうですよ」
「なんだか分からないが、ララの父君、……ウィリアム皇帝を殺したのがドルト共和国だと思わされているという事か?」
エイドリアンが聞く。
「そのようですね」
ロバートが頷く。
「ドルト共和国の神官たちは、大聖女ミラ様をサルドバルドの皇帝に盗られた事を恨んでいて、しかも早くにミラ様を病死させてしまった事を恨みに思い、サルドバルドの皇帝を暗殺した。その上今度はサルドバルドの至宝であるララ皇女の事を利用しようとしている……らしいです」
ロバートは落ち着いた口調でそう言う。
「ララを利用?」
ヘンリーが首をかしげる。
「……サルドバルドにもララが洗礼を受けて大聖女に格付けされた事と、皇位を引き継いだと言う宣言書が配られていますから。まあ、焦ってそういう話をでっちあげているのでしょう。本当に、マルタン公爵は我が従兄ながら、バカ過ぎて開いた口がふさがらないですね」
ロバートは穏やかな口調で言っているが、相当腹を立てているようで、口元は微笑んでいるが、目には怒りがこもっていた。
「魔石と魅了の影響で、皆はおかしいと考える力が失われているのでしょう」
ミドルバが言う。
「私も、一時はマルタン公爵の事を信じさせられていたので分かります」
ミドルバは過去の自分を思い出してそう言い付け加えた。
「そんな状態で戦わされて命を落とす兵士達が気の毒ですね」
ヘンリーの護衛騎士のシークが言う。
「あのアーロンの事だ、事情がわかっていて攻めあぐねているかもしれないな、あいつは優しいから」
ヘンリーがそう言うとロバートは頷く。
「ヘンリーの言う通り、国境付近ではこちらが押され気味のようだ。お互いほぼ無傷の状態ではあるようだが、積極的に来る相手に比べてこちらにはためらいがあるからだろう」
「やりにくい戦いだな。いっそ魔獣相手の方が楽だろうな」
エイドリアンが呟くように言う。
「魔王とか魔人とかいう奴らは、自分たちは高みの見物で人間を駒にして遊んでいるってわけなんだろうな。ほんと、胸糞悪いぜ」
ヘンリーが吐き捨てるように言う。
「兵士達の魅了を解き、浄化さえすればサルドバルドの兵は戦うのを止めるわよね?」
ソファーに座っているララが考えるような顔で言う。
「まあ、そうかもしれないね」
ロバートがララを見て同意した。
「それなら……」
ララはすくっとソファーから立ち上がる。
「アーロン殿下の元に急ぎ参りましょう。私には大陸全土を浄化すほどの力はないですが、目の前の者達をある程度一気に浄化し魅了を解くぐらいは出来ると思います」
ララがそう言うとリタが悲壮な顔になる。
「お、お
「私が行かなければ誰がこの状況を抑えるの?」
ララはそう言いリタを見る。
「私が行かなきゃ、女神アテラミカが私を大聖女にした意味もないし、皇帝になった意味もないじゃない」
「しかし、ララ様っ」
ララは心配してすがるリタの両手を優しく掴む。
「心配しないでリタ、大丈夫よ。私にはこんなに力強い仲間がいるのよ」
そう言い、ララは皆を見回す。
「みんな、私を護ってくれるでしょう?」
ララが微笑んで言うと、その場にいた皆も微笑み返す。
「われわれが、命に代えても皇帝をお守りいたします」
ミドルバがそう言い、ジュード、セイラと共に頭を下げ、ヘンリーとエイドリアン達も頷いた。
~~*~~
あちこちから、騎士団がドルト共和国に集まって来ていた。
各国の貴族が、到着に時間のかかる自国の国軍をまたずに私兵を派遣してくれているのだ。
「エルドランドのビルダー辺境伯のご一行到着されました!」
ロバート枢機卿の執務室には報告しに来る者が次々にやって来ていた。
報告者が報告すると、秘書官のロナルドは部屋の真ん中にある大きなテーブルに置かれた大きな紙になにやら書き入れ、指示を出している。
今や、ロバートの執務室は、作戦本部のようになっていて、ロバートは腕を組みながら、テーブルに置かれた紙を見つめ、作戦でも考えているのか難しい顔をしている。
いよいよマルタン公爵の操る兵士達との決戦が始まろうとしていた。
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