第4話 ヘンリーの真意
「あなたは、第1王子でありながら、皇太子の座を第2王子にお譲りになっています。その理由は、帝位に着くため…… なのでは?」
ララはそう言って、真剣な眼差しをヘンリーにむける。
ヘンリーは、驚いた表情でララを見た。
「ぷッ」
ヘンリーは、口を押えた。そして……
「ぶは、ぶはははは、ぶは、ぶはははははは!」
笑いが抑えられないと言う様子で、ヘンリーは大笑いする。
息子のあんまりな笑い方に、アン王妃は扇子を取り出し、ヘンリーを少し睨みながら恥ずかそうに口元を扇子で隠した。
ララたちは、訳がわからずポカンとなる。
「あはは、ひい」
「いい加減になさい、ヘンリー。本当に品のない」
アン王妃は息子を恥ずかしそうに怒る。
「だって、ひっひっ、俺が、てい……い、狙ってるって、親父殿が……聞いたら、ぶっははは、泣いて……ひひっ、喜ぶかも……」
笑いすぎて何を言っているか、ララにはよく分からない。ララは怪訝そうな顔をする。
「何故そんなに笑うのですか?」
「いや、悪い、久しぶりに、面白すぎて……」
ようやく笑いが止まったようでヘンリーは、ララに向き直る。
「俺が、王太子にならなかった理由は、まあ、色々あるけど、一番の理由は単純になりたくない…… からかな」
ヘンリーの言葉に全員「えっ」と唖然となる。
「ヘンリー!」
王妃がまた、恥ずかしそうに顔を赤くして怒る。
「まあ、一言で言うとそうなるんだけどまあ、詳しい理由を言うと……」
何故かだんだんヘンリーの顔が赤くなっていく。
「女…… 平民の女と結婚したいから。それと、建築家になりたいから……だ」
言い終わり、ヘンリーは凄く偉そうに胸をはっているが、顔は真っ赤だ。恥ずかしいらしい。
ララたちは何も言えず、唖然としている。
「いいから、笑ってやってちょうだい、このバカ息子を」
顔を赤らめ恥ずかしそうにそう言ったのはアン王妃だった。
「そんな話は初めて聞いたな」
エイドリアンは真面目な顔で言う。
「そりゃ…… いくら何でもよその国の王太子にそんなことを言ったら、親父に殴られるからな…」
ヘンリーはエイドリアンを見て言う。エイドリアンは納得したのか、頷いている。
二人のやり取りを唖然とした様子で見ていたララは、自分が言うべきことを思い出して、ハッとして気持ちを引き締める。
「あなたにその気が無いならお願いがあります」
ララがそう言うと、ヘンリーとアン王妃がララを見た。
「私の帝位継承の承認者になってください。一緒にドルト共和国に来て、帝位継承の儀に参加していただけないでしょうか」
「……いいわよ、ララ。ドルトまでこの子を護衛騎士に加えるといいわ」
返事をしたのは、ヘンリー本人ではなくアン王妃だった。
ララがアン王妃の方を見ると、王妃は優しい顔をララに向けている。
その顔を見てララもホッとしたように微笑んだ。
その夜、一行は、国王主催の食事会に招待され、そこで王と、第2王子と顔を合わせた。
第2王子は礼儀正しく精霊力も強いなかなかの人材のようで、ララは何となく安心した。
そして、ヘンリーの父であるコタールの王も、ララを姪として親しみを持って接してくれた。
コタールの王は、王妃から色々と事情を聞いたのだろう。
王は、ヘンリーにララが確実に帝位につき公爵を失脚させるまで、しばらくララの守護騎士として付き添えと命令してくれた。
更に王と第2王子は、必要ならいつでも援軍を送ると約束してくれたのである。
ララは喜び、何度も何度も感謝の気持ちを伝えた。
その日、ララ一行は王城の貴賓室に宿泊させてもらった。
ヘンリーが準備の為、出発まで2日必要だと言うので、その間は、王城で休息を取らせて貰う事になった。
次の日もララはアン王妃にお茶に誘われ、美しい庭で美味しいお菓子とお茶を飲んだ。
「あ」
ララはお茶を1口飲んで小さな声を上げた。
「どうしたの?」
王妃が不思議そうに聞いた。
「あ、いえ、この美味しい紅茶、アンナが……私の侍女のアンナ=リンドル伯爵令嬢が以前飲ませてくれたものだなと……」
「ああ、リンドル家の。……リンドル家の商品はこの国でも人気があるのよ。そう、リンドルがこの紅茶をね。紅茶はこの国の特産物なのだけど、その中でもこの紅茶はこの国の最高級品の茶葉なの。さすがに見る目があるわね」
アン王妃は嬉しそうに微笑みながら言う。
「ええ、コタールの茶葉は品質が良いと言っていました」
ララも笑顔で応えた。
王妃は手に持っていたカップを置いてララを見た。
「ところで…… ララ」
「はい?」
声を掛けられて、ララはアン王妃の顔を見る。すると何故かアン王妃の表情が曇っているので、ララは不思議そうな顔をした。
「……エルドランドのアーロン殿下は、残念だったわね?」
言い難そうに、低いトーンでアン王妃が言った。
「は?」
ララは何を言っているのか理解できずに首をかしげる。
「お亡くなりになったのでしょう?」
「!」
王妃の言葉にララは驚いて叫ぶように否定する。
「い、いえ! アーロン殿下は亡くなってませんから!」
「え? そうなの?」
「はい!」
「え? でも、あなたが、エイドリアンと一緒にいるからてっきり……」
「エイドリアンには護衛騎士として同行してもらっているだけです」
「そうなの? おかしいわねぇ」
王妃は首を傾げる。
「……エイドリアンのあなたを見る目はそういう目かと思ったんだけど」
王妃の言葉にララは、顔を赤くする。
そして、ララは王妃とヘンリーは間違いなく親子だと思う。
「エイドリアンは、あなたを包むような視線で貴方を見てるわよ?」
「か、からかわないで下さい」
真っ赤になったララを見て王妃は微笑む。
「あなたの婚約者を選ぶ時ね、候補は3人居たのよ」
ララは、顔を赤くしながら、何を言うのだろうと王妃を見る。
「アーロン王子と、エイドリアン王子と、うちのヘンリー」
アン王妃は微笑みながら言う。
アン王妃の言葉に、ララは少し驚く。
「この3人は、精霊力が強くて、清い心を持っていて、なおかつ自分の王室を出る運命だからと、ミラが言っていたわ」
「そうなんですか」
「ええ、凄いわよね。その通りになってるもの」
アン王妃は本当に感心したように頷きながら言う。
「……ヘンリーとエイドリアンは、そうかもしれないですが、アーロンは婚約してなかったら分からないのでは?」
「いえ、彼も第2王子だし、彼はサルドバルドに1番縁を持つ可能性が高いと、そう言っていたわ。まあ、だから彼を選んだんだけどね」
「そうなんですね」
ララは何とも言えない表情で言う。
「でも…… エイドリアンとも強い絆を感じるから、もしかしたらエイドリアンと一緒になるかも、とも言ってたの」
アン王妃は当時の記憶を辿っているのか少し考える表情をしながら言う。
「え? なのに選ばなかったのは?」
ララが不思議そうな顔をして聞く。
「エイドリアンは…… 生き延びられないかもしれない……と。そう言っていたわ。もし生き延びる事ができれば、どうなるか分からない。でも、その時はララの,判断に任せると……」
ララは驚く。
「ララ、私が後見人になってエルドランドには謝ってあげるから、好きにしていいのよ」
アン王妃は、優しい目をララに向けた。
アン王妃の言葉を聞き、ララは甘えるような表情でアンを見つめた。
それからララは何も言わず席を立つと、アン王妃にしがみついた。
「あらあら、私の可愛い姪は、まだまだ甘えん坊ね」
アン王妃は、そう言いながらララの身体を優しく撫でた。
~~*~~
その日の夜、ララ達はまたコタールの王族と食事をともにした。
ララはコタールに来る旅の途中で、コタールで言わなければいけないと思っていたことがあった。
しかし、これを言うと、皆の機嫌を損なうかもそれない。
そう思い、今までは言えなかったのだ。
しかし、ララは優しくしてもらえば貰う程、これは必ず言うべきだと思い、今日は絶対に言おうと思って食事の席に着いた。
それでも言い出してよい者か悩んでいたが、ララは会話が途切れたその瞬間に心を決め、悩みに悩んだその一言を口にした。
「あの、どうしても、気になっている事があるのです。……どうしてコタールは、いまだに奴隷制を認めておられるのですか?」
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