第5章 皇女は帝位を欲する
第1話 ヘンリーとの再会
バザールには色んな出店が出ていて、パフォーマンスを披露している人もおり、賑わっていた。
ララとセイラは広場のバザールを見た途端に嬉しそうに顔を輝かせる。
”あれ、おいしそうだわ!”とか、”あれ可愛いわ!”とか……
ふたりでそんなことを言い合いながら、女の子らしくはしゃぐ姿は可愛らしく、エイドリアンもトムも2人を見て頬が緩んだ。
エイドリアンはララを見ていて、気に入った物を全部買ってやりたいという気持ちになるが、精霊石を買った為、最低限の旅費以外の余裕がなく、申し訳ない気持ちになる。
だが、ララもセイラも分かっているので本気で欲しいわけではなく、見て楽しんでいるだけだった。
「綺麗な腕輪ね、セイラに似合いそう」
「私に腕輪は似合いませんよ、剣を振るうのに邪魔になりますし」
少し顔を赤らめてセイラが言う。
「そんな事ないわ、これなら邪魔にならないと思うわ、あー、残念だわ、旅費に余裕があれば買うのに」
「買ってやろうか、従妹どの?」
急にララの耳元に低い男の声がして、驚いてララが振り返る。
そこには赤毛の青年が立っていた。
「ヘンリーでっ……ぶっ……」
叫ぼうとしたララの口をヘンリーは慌てて塞いだ。
「ばか、大騒ぎになるだろ!」
「おい、こら、ララを離せ!」
エイドリアンが怒った顔でヘンリーの腕を掴む。
「いてっ」
ヘンリーが声をあげると同時に、ざっと何人かの平民服の男が動いた。
慌ててヘンリーが男達を手で制す。
エイドリアンが周りの男達を見まわしながらヘンリーを放した。
「一体、何人護衛が居るんだよ……」
少し驚いた顔でエイドリアンが聞く。
「最近、よく狙われるんでね。心配する父上と母上が警護を増やしたんだ。バレないようにやってるつもりみたいだが、バレバレで困ってる」
ヘンリーがため息をつきながら言った。
「相変わらず、愛されているんだな」
エイドリアンがからかうように言う。
ヘンリーはフン、と言う感じエイドリアンの言葉を無視して続ける。
「街の様子を見る為に忍びで出てたんだが、さっき、変な外国人っぽい男がウロウロと俺の居場所を嗅ぎ回っていると報告があってな、暗殺者の一味にしては随分間抜けな奴だとは思ったが…… 念のためにどんな奴らか見てみようと来てみたら、お前達だったってわけだ」
ヘンリーは笑いながら言う。
エイドリアンは、ヘンリーの言葉を聞きちょっと悔しそうな表情になり、トムの方を不機嫌そうに睨んだ。
トムがエイドリアンに睨まれてシュンとなる。
「まあ、それはさておきだ……」
ヘンリーがエイドリアンの顔を見てとびきり明るい笑顔になる。
「驚かすじゃないか、エイドリアン! 本当に久しぶりだな! 元気そうで安心したぞ!」
「ああ、お前もな!」
エイドリアンも満面の笑顔で応えた。
~~*~~
ララ達はヘンリーの屋敷まで、ヘンリーの馬車で移動することになり、馬車に乗り込んだ。
ヘンリーの馬車はお忍び用の質素な馬車の為、それほど大きなものではなく、進行方向と逆向きの席に体の大きな男三人が座ると、見るからに窮屈そうだった。
あまりにも窮屈そうに3人が並んで座っているのが可哀想で、途中、セイラが席を入れ替わることを提案した。
しかし、ヘンリーはニッコリと優しい笑顔をセイラに向けて、”大丈夫、レデイを男の横に座らせる事なんて出来ないよ”と、言った。
そんなヘンリーをエイドリアンとトムは呆れた顔で見た。
ララ達は、特徴あるコタールの街並みを眺めていた。
コタールの家はとてもカラフルで、低い住居が多い。ほとんどが2階建てまでで、必ず1階だけしか無い部分があった。
屋根にブルーやグリーンの色がつけられていたり、壁にも美しい模様が書かれていたりしていて、見ていて飽きなかった。
皆が外の景色を楽しんでいる中、エイドリアンが口を開き、穏やかだった馬車の中の空気を変える。
「ヘンリー、お前、最近よく襲われると言ったな」
ヘンリーは、エイドリアンの言葉にため息を着く。
「相変わらず真面目だな、お前」
そう言ってから、微笑んでララの方を見る。
「ほんと、迷惑だよな、次の皇帝はちゃんと健在だと言うのに気の早い馬鹿な奴がいて」
その言葉でララはヘンリーが既に色々知っている事を察した。
「今回の事は、申し訳なかったと思っているわ」
ララは本当に申し訳無さそうに言う。
「ま、仕方ない事だったと思っているよ」
ヘンリーは特に怒ってはいない様子で言う。
「そんな事より、エイドリアンとララが一緒に居る事にに俺は一番驚いてるんだが…… 一体どういう成り行きで2人はくっついてるんだ?」
ヘンリーは、ニコニコしながら聞く。
「もしかして、アーロンの野郎はくたばったのか?」
この言葉にララとエイドリアンは驚き、揃って抗議の声を上げた。
「死んでない! なんて縁起悪い事を!」
~~*~~
ヘンリーの屋敷についた一行は、その広大で豪華な邸宅に見惚れる。
さすがは、第1王子で、公爵家の屋敷だ。
屋敷は少し高台にあり、後方には美しい海が見えていた。建物の壁は白で、柱や屋根はキレイな水色で着色されており、後方に広がっている海の色と、青い空にとてもマッチしていた。
しかし、豪華な邸宅のあちこちで工事しているのが目立って残念だ。
それが無ければ完璧な美しさだろう。
豪華な造りの建物の中に案内されると、建物の中にも大工風の技術者があちらこちらで作業をしている。
よく見ると、壁に穴が開けられていたり、崩れたりしていた。
「改築中なの?」
ララが何気なくヘンリーに聞いた。
「いや」
ヘンリーは短く応える。それからララの方を見る。
「まあ、気にする必要はないが…… 知っておいた方がいいだろうから言っておく、何日か前に賊が来て、屋敷で暴れたんだ」
「え? 屋敷で?」
「ああ。その時に、かなりあちこち壊されてな、ちょっと大変だった」
「……マルタン公爵の手の者ね。ごめんなさい」
ララは申し訳なさそうに言う。
「周りが少しは見えるようになったみたいだな」
ヘンリーはそう言いながらララ達をリビングに案内し、座るように促した。皆、豪華なソファーに腰かける。
それを見て、メイド達が、お茶とお菓子を持ってきて、テーブルに並べてくれた。
ヘンリーはお茶に口をつけてから言う。
「あいつは俺の叔父であり、母上の兄弟だ。つまり、俺たちも無関係ではないという事だから、お前が気に病むことはないぞ」
“あいつ”というのはマルタン公爵の事だろう。ヘンリーのこの言葉に、ララは少しだけ心強い気持ちになる。
ヘンリーは少し真面目な顔になってララを見る。
「実は、母上が随分と、心配していてな……」
そう言い、ヘンリーはソファーの背にもたれた。
「俺たちが叔父上…… サルドバルドの皇帝が死んだ事を知ったのはついこないだだったんだ。それからすぐに俺の所に暗殺者が来たんで、サルドバルドの様子を探らせたら、表向きは隠されているが、お前が行方不明になっているという報告があって、母上がひどく取り乱してな」
ヘンリーはそこで一旦言葉を止め、それから言い難そうに言う。
「お前まで暗殺されたんじゃないかと……」
ヘンリーの言葉にララは申し訳なさそうな顔になる。
「随分と心配をおかけしてしまったのね。本当に申し訳ないわ……」
「さっきお前たちの無事を母上の所に知らせたから、明日にでも母上に顔を見せに行ってくれないか」
「もちろんだわ!」
ララはすぐに返事をする。
「私は、今すぐにでもかまわないわよ」
ララがそう言うと、ヘンリーは苦笑いする。
「いや…… 明日でいい、疲れているだろうし。明日の朝までに王妃に会うにふさわしい服も用意させてもらうよ」
ヘンリーはそう言い、ララ達の姿を見る。
「皆、今日は風呂に入ってゆっくり寝た方がいい。その…… お前達、少し臭いぞ……」
「え? うそ!?」
ララはヘンリーにそう言われて頬を赤くする。そして自分が何日もお風呂に入っていないことを思い出した。
こんなにお風呂に入らず、着替えもしないなんて、今までのララには考えられない事で、また、その事を今の今まで自分が全く気にしてないことに、ララ自身が驚いた。
ヘンリーは、くんくんと自分の身体の匂いをかぐララを見て、可笑しくなって笑いながら、メイド達にララの身の回りの世話をするように指示をした。
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