第14話 コタール王国に向かって
ララはエイドリアンと一緒に馬に乗せてもらい、コタール王国に向かっていた。
ララは、精霊石を付けた馬の早さにも慣れて来た。最初は怖くてしがみつく様にして身体を硬直させていたが、エイドリアンへの信頼もあって、馬の上でもぼんやり考え事が出来るまでになっていた。
ララは、馬の上で、ずっとコタールに着いてからの事を考えていた。
今回、ララが自らコタールに赴くのは、叔母であるコタール王国の王妃とヘンリー本人に、ララ自ら謝罪とお願いをするためだった。
もしかするとヘンリーは、自身がサルドバルドの帝位に就きたいと思っているかもしれない……
そんな事をララは頭の中で考えていた。
第一王子でありながら、王太子の座を第二王子に譲っている本当の理由は、そう言う事かもしれないと…… そう考えたのだ。
しかし、今のララはヘンリーに帝位を譲る気はなかった。
いえ、もしヘンリーが望むなら、すべて解決した後に帝位を譲り渡しても構わない……
でも、今はダメだ、絶対に譲れない
だから―――
今回は、ヘンリー王子をどうしても説得しなければいけない。
ララはその点で、エイドリアンにかなり期待をしていた。
ヘンリー王子とエイドリアンは仲の良い友人同士のようだから、あの意地悪なヘンリーもエイドリアンの話なら聞いてくれるかもしれないと期待しているのだ。
ララは馬の上でずっとそんなことを考えていた。
ヘンリーが暮らすコタール王国の王都までは遠かった。
ララ達は良質な精霊石の補給の為、エルドランド王国の王都を経由するコースを選択した。通常なら8日はかかるコースだが精霊石を使い猛烈なスピードで進んだ。
エルドランド王国の王都に着くと、持っているお金をほぼ全て使い、良質の精霊石を手に入れると、馬に取り付けている精霊石を新しい精霊石と交換する。今まで使っていた精霊石は少し濁り始めていた。濁った石は浄化してもらって、精霊力を宿せばまた使えるので大事に取っておく。
王都では、食料品などを買うとすぐに、コタール王国に向かって出発した。
~~*~~
「殿下、
トムがエイドリアンに向けて声を上げた。
この3日、ほとんど眠らず馬を走らせていて、皆の眠気も限界に近かった。
「そうだな……」
エイドリアンはトムとセイラの様子を見て同意し、馬の速度を落とす。
しばらく行くと、小さな川があったので、そこで馬を止めた。
トムが枯れ木を集めて来て、エイドリアンが火をおこした。
セイラとララは、帝都で手に入れた材料で、軽食を準備し始める。
とは言っても、ララとセイラのふたりだ。
当然、凝ったものなどは作れない。
ララが大きな楕円形のパンを包んだ紙をはがし小刀で薄く切っていく。それから今度はチーズを取り出し小刀で厚めにスライスした。
セイラは大きなハムを持って小刀で削るように厚めに何枚か切り取る。それからセイラはハムに胡椒を多めにふりかけ、串に刺して火で炙るように軽く焼く。
ハムの焼ける良い匂いがしてきた。
その匂いは食欲をそそり、お皿とコップを用意していたトムのお腹が鳴る。
エイドリアンがトムに声を掛け笑いながら、お湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。
薄く切ったパンの上に焼いたハムとスライスしたチーズをのせ、トングでパンを挟み、火に直接つけないように気をつけて、それぞれ自分の分のパンを軽く焼く。
パンの上に乗せたチーズがとろ~り溶け始めたところで出来上がりだ。
アツアツのチーズでやけどしないように気をつけながら、4人はガブッとかぶりついた。
とろっとろっのチーズが胡椒の効いたハムと焼けたパンとに絡んでとても美味い。
温かい食べ物をモグモグとよく噛んで、濃厚な味を舌の上で楽しんだ後、ゴクリと飲み込んだら、今度は、喉を通り空っぽの胃に落ちていく感覚を楽しむ。
久しぶりにゆっくり食べる食事の美味しさに、自然と4人の顔がほころび、トムとエイドリアンは4枚も食べた。
お腹いっぱい食べた後、セイラとトムは睡魔に襲われ、座ったまま船をこぎ始める。エイドリアンが毛布を敷き、二人に横になるように言うと、ふたりはすぐに横になり、あっという間に眠ってしまった。
ララが簡単に食事の後片付けをし、エイドリアンは馬に水を飲ませたり、ブラッシングしたりと、少し世話をする。
ララも後片付けが終わると大きな欠伸をして、エイドリアンが敷いてくれている毛布の上に座った。
エイドリアンは、魔獣よけの精霊石をいくつか周りに置いたあと、戻ってきて、ララの真横に来て毛布の上に座った。
「エイドリアン、寝てください。私は起きていますから」
「そうだな、すまないが少し眠らせてもらう」
さすがのエイドリアンも疲れ切っていたのだろう、素直にそう言う。
「ララも眠っていい。精霊石で結界を仕掛けたから、何かあればすぐ分かる」
エイドリアンはそう言いながらララの横にゴロンと寝転ぶ。
「ええ、そうします」
ララはエイドリアンの言葉に頷く。
横になったエイドリアンはすぐに眠ってしまった。
ララは、すぐ寝息を立て始めたエイドリアンに気付き、驚いてじっと見つめる。
よっぽど疲れてたのね、こんな風に寝顔を見たのは初めてかも……
わぁ、なんだろ、すごく可愛く見える。
ララは眠って無防備なエイドリアンを見て楽しい気持ちになった。
ずっとみていたい、そんな気持ちにもなったが、少しは眠らなければ足手まといになってしまう。
ララはそーっとエイドリアンの横に横たわると、こっそりエイドリアンにくっついて目を閉じた。
エイドリアンは普段から睡眠時間が少なくても大丈夫な体質だった。
4時間ほど眠ればよく寝た方で、普段は3時間も眠れば目が覚めてしまう。旅に出た時なんかは、1時間毎に目が覚めてしまう
しかし疲れていた為か、たっぷりと眠ってしまったらしい。
随分とすっきりと目が覚めた。
しかしまだ空には星が輝いている時間だ。
エイドリアンは体制を変えようとして、左腕が重い事に気付いた。
ドキン
エイドリアンの心臓が鳴る。
ララがエイドリアンの左腕を抱き枕のようにして眠っていたのだ。
「…………」
エイドリアンは体制を変えるのを諦め、そのままもう一度目を閉じた。
朝、皆の顔は随分とすっきりした顔になっていた。
皆、十分に睡眠がとれたようだ。
エイドリアンも、あれからちゃんと二度寝できた。
こんなに眠ったのは初めてだと、自分で驚いていたが、疲れは完全に取れたようだった。
一行はまた走り出し、2日かけてコタール王国の王都に着いた。
さて、問題はここからである。
誰も、ヘンリーがどこに住んでいるか知らないのだ。
ヘンリーが王城に住んでいないことは分かっていたが、どこに居をかまえているかまでは分からない。
トムとセイラが情報収集に走り、得た情報は、公爵邸は間違いなく王都にあるという事だけだった。
「肝心の邸宅の場所が分からないんじゃ、どうしようもない」
エイドリアンは情報収集から戻ったトムを少し責めるように言う。
「すみません」
トムは申し訳なさそうだ。
四人は観光客が泊まる宿をとり、馬を預けた。
その後、エイドリアンはトムに再び探りに行かせたのだが、警戒心の高いコタール人から変な目で見られるだけで、何も情報を得られなかった。
それどころか、愛想の良い人が相手だと、逆に情報を聞き出されそうになる始末。
丁度、なかなか戻らないトムを探しに出たエイドリアンが気付いてトムを引っ張り戻したので良かったが、トムは諜報活動には向かない性格のようだった。
結局トム一人で情報収集は無理だという事で、4人は一緒に街を歩くことにした。あてもなく歩いているうちに、4人は人が多く、活気にあふれているバザールのある広場に行きついた。
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