第13話 魔石
”なんなのだ、この
ユニが叫ぶように言う。
”ユニコーンは、
「え? ケガレ?」
ララがユニの言葉を聞いて驚いて声を上げる。
”気付かないのか!? 全く、大聖女の娘の癖に、こんな禍々しい気配に気が付かないとは!”
ちょっと怒ったようにユニが言う。
「なに? どういう事か教えて、ユニ」
”この者たちの体に、禍々しい魔が巣食っておるじゃないか!”
「!」
ユニの言葉に、拘束されている黒ずくめの男達も含めた全員が驚き絶句する。
「ど、どういうこと?」
ララはわけが分からず質問を重ねる。
”どういう事も何も、こ
ユニがそう言うと、聞いていた黒ずくめの男達はブルブル震えだす。
それはそうだ、一般的に魔が身体に巣食うと、徐々に身体が魔物に乗っ取られて行き、やがては人でない物に変わって魂は苦しみながら消滅すると言われている。
普通の人間なら怖くなって怯えないわけがなかった。
「そんな、どうして」
ユニの言葉を聞いた黒ずくめの男達は完全に震えていた。
さすがにララも気の毒になってくる。
「あなた達、魔石を口にしたの?」
ララが訊くとみな一斉に首をふる。
「まさか! そんなものを口にするわけありません! 大体、魔石など見たこともないです」
ララは首を傾げた。
「どういう事、ユニ?」
”……わたしに分かるわけが無いでしょう”
フンと言う感じでユニが答える。
ユニは瘴気の匂いが気に障るようで、かなり機嫌が悪い。
「怒らないでよ、ユニ。どんな可能性があるの?」
”可能性と言われても…… こ
そう言い、ユニは馬を見る。
”精霊石を馬の足に金具で固定したり、道具にはめ込んで使うでしょう?それと同じです。より強く影響させる為には直接体に埋め込むか、飲み込むのです。精霊石と違って魔石の場合、体に取り込む事で体の中に魔が巣食いはじめ、やがて魔物に全て食われ、ただの魔物になるのです。まあ、つまり、魔物の卵を飲み込んで、体の中で孵化させるようなものですね”
話を聞いていた男のひとりが、気持ち悪くなったのか、うえっと吐く。
”
ユニは、冷たく言い放つ。
「でも、僕達はそんなもの飲んではいない!」
男達の中で、1番若い男が叫んだ。
”なら、飲まされたのだろう? 見たところ、粉々のものが、まさにモヤモヤと身体中に散らばっているから、魔石を砕いた粉を溶かした何かを飲まされたのかもな”
ユニは、残酷な程、冷静な口調で言う。
「そんな……あっ!」
ひとりが何かを思い出したようだった。
また、他の者たちも何か思い当たる事があるようだ。
「そうだ、先々代の王が亡くなる少し前、公爵閣下が宴を開いて下さった。騎士や使用人を労う為だとそう言って…… その時、体に良い特別な飲み物だと、黒くドロドロの物を渡された。気持ち悪いとは思ったが、目の前て飲むように促されて、断れずに飲んだ……」
「わ、私も、公爵の専属騎士団に入団が決まった時に、黒くドロドロの物を飲むように言われて、それを頂きました…… じゃあ、あれが魔石だったと言うことですか? そんな酷い……」
まだ若い騎士は、涙を流し始める。
ララ達は気の毒そうに捕まえた男達を見た。
彼らは遅効性の毒を飲まされたのと同じだ。
ララは、ユニを見る
「あなたの力で浄化出来ないの?」
”残念だが、今は抑えることしか出来ない。ララ、あなたが洗礼を受けて力を解放してくれないと、あなたと契約している使役聖獣は本来の力を出せない事は知っているでしょう? もし力があるなら、とっくにあの王子を完治させていますよ”
「そ、そうよね」
”王子と同じように、ドルト共和国に連れて行って、浄化してもらうしかないでしょう。その間、暴れ出さないように抑えるぐらいは、いまの私にでも出来ますからね”
ユニは、フンっという感じではあるが、ちゃんと解決策を提示してくれた。
「ありがとうユニ!」
そう言ってララはユニを抱きしめる。
”わっ”
「大好きよ! 落ち着いたら好きなものを買ってあげるわ!」
ララがそう言うと、ユニは照れながら喜んだ表情を見せた。
「あの……」
両手を拘束されている黒ずくめの男のひとりが声をかける。
「今回、暗殺に失敗しても、公爵は既に次の手を打っています」
「どう言うことだ?」
ミドルバがその言葉にすぐ反応し、聞いた。
「そもそも……たった1回の襲撃では、殺せないだろうと、公爵はそう仰っていて、失敗しても次の罠を仕掛けると……」
「そう言えば、日々皆の力が強まるはずなので問題無いとも仰られていた。それって、日々私達が魔物に近くなると、そういう事だったんでしょうか?」
「かもしれないな」
ミドルバが言う。
「許せないわ……」
ララが呟くように言う。
「魔物の力まで借りて……そうまでしで帝位が欲しいなんて、考えられない。もし帝位に着いたとして、一体どんな帝国を作るつもりなのか分からないけど、絶対に、帝位を渡す訳にはいかない!」
ララは、皆の顔をみる。
「自分を慕ってくれている部下までこんな風に騙して…ほんとうに許せないわ」
ララは力強くそう言った。
「少し対策を考えた方が良さそうだ。今後の計画を練りなおそう」
エイドリアンが言った。
~~*~~
「アンナ、リタ、話があるの、アーロン殿下を聖獣達に任せて、出て来てくれるかしら?」
ララは馬車の外から、2人に声をかけた。
2人が馬車から降りてくる。
「アンナ、疲れていない?」
「はい、私は大丈夫です。何なりとお命じ下さい」
アンナは強い瞳をララに向けて言う。
ララはそれを見て優しく微笑んだ。
「今はまだ、気負わなくて大丈夫よ……いずれ、みんなで闘う時が来るかもしれないけどね」
ララはそう言い、アンナを気遣い、簡易椅子に座らせる。
ずっとアーロンを膝に乗せていて、疲れていないはずがない。
「アンナ、リタ、皆と話し合った結果、二手に分かれることになったわ」
ララの言葉に、アンナとリタは、えっ?と言う表情になる。
思ってもみなかった事だったのだろう。困惑した表情をララに向けた。
「2人とも帝国の事をよく分かっているから、現段階では私は皇帝代理と言う立場だと言う事は知っているわよね?」
ララがそう言うと、2人は頷いた。
「私が、正式に帝位に付く為に何が必要かもしってるかしら?」
ララの質問にアンナとリタは顔を見合わせ、そしてアンナが答える。
「確か、帝位継承権第5位以上の方の中から、2名以上の者の承認と忠誠が必要です。それと、ドルト共和国の大司教以上の者の祝福…あ、それと、帝位を継ぐ者の洗礼の儀が終わっている事、だったかと」
「さすがアンナね、正解よ」
ララはニッコリと答えた。
「つまり、それだけ揃ってれば、帝位を正式に継げるの。場所や、時期は関係ないの」
「……」
アンナとリタはもう一度顔を見合わせる。それから「成程」とアンナは納得したように言った。
「ドルト共和国で洗礼を受けたら、すぐに帝位継承の義を行って、継承を宣言なさるのですね!」
「ええ! もし、継承を宣言した後に公爵が何かを仕掛けてくれば、正式に謀反として認定し排除することが出来るわ」
「はい!」
アンナは笑顔で返事をしてから首を傾げる。
「それは分かりましたけど…… ふた手に別れるとは? ……あ、そうか、ヘンリー王子を連れてくる為ですね」
「ええ。それでね、アンナ。わたしとエイドリアン、トム、セイラでコタール王国に行こうと思うの」
ララが微笑みながら言う。
「エルドランドの騎士は何人連れて行くのですか?」
アンナは心配そうに聞く。
「誰も連れて行かない。4人で行くつもりよ」
「!」
ララの言葉にアンナとリタが驚いた。
「ダメです! 何処で刺客に襲われるか分からないというのに。ちゃんと警護が必要です!」
アンナはとんでもない事だと言う風に叫ぶ。
「アンナ、少数の方が目立たないし、早いわ」
「なら私も同行します!」
力強い声だった。ララは優しく微笑み、そしてアンナの腕を握った。
「あなたは、アーロン殿下についていてあげてほしいの」
その言葉に、アンナは目を見開き、そして悲しそうな顔をする。
「ララ様、わたしは……」
「何も言わなくていいわ、大丈夫よ、アンナ」
ララの言葉に、アンナの瞳が潤む。
「泣いている暇なんてないわよ、アンナ。これから大変なのだから」
「はい…… で、でもララ様! やはり4人だけと言うのは!」
アンナは、もう一度言う。
「大丈夫よ、3人とも優秀な騎士だわ。エイドリアンとセイラは精霊力の使い手だし、トムの剣の腕は確かだわ」
ララはそう言って、エイドリアン達の方を見る。
「それに何と言っても、このメンバーはマルタン公爵からはノーマークのはず。きっと動きやすいし、私はこのメンバーがベストだと思うわ。私とみんなを信じて」
ララはなんとかアンナとリタを説得した。
それから、チョビとユニにも、アーロンを守り、再び襲われるような事があれば皆を助けるように言い聞かせた。
チョビはララと離れることに難色を示し拗ね気味ではあったが、ララがお腹を気が済むまで撫ぜてやると機嫌が直って、納得してくれた。
そして、ララ達はコタール王国へ、アンナ達はドルト共和国を目指し、それぞれ出発した。
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