第10話 2匹目の聖獣目覚める
凄まじい光の中に何かの形が現れた。
ララはなるべく光をさけながらその姿を確認した。
「ユニコーン……」
現れたのは全身真っ白で、美しい1本の角をもつユニコーンだった。
ユニコーンは全身からオーラのような白い光を放ちながら宙に浮いている。
皆、その美しさに見惚れた。
しかし、そのユニコーンのサイズは手の平に乗りそうなほど小さかった。
”情けないな、ワンコロ、ひとりでは対処できなかったのか”
ユニコーンはふわふわとチョビの周りを浮きながら言う。
”ワンコロ言うな! いつまでも眠って起きてこない駄馬に言われたくないね!”
”は、負け惜しみだな、聖獣の癖に人間ひとり救えんとは情けない奴め”
”うるさい、駄馬!”
チョビとユニコーンのやり取りを見て、みんな唖然としている。
「あ、あの、ユニちゃん?」
ララが力の使い過ぎで顔を青くしながら声をかける。
ユニはふわふわとララの方にやって来た。
”はじめまして、ララ。大聖女ミラの娘よ”
「はじめまして、ユニ、召喚に応じてくれてありがとう」
”ま、仕方ありませんね、ワンコロでは対処しきれないようなので……”
ユニがそう言うと、チョビの眼が細くなり「ぐるるる」と唸って怒っている。
「あのね、ユニ、目覚めたばかりで申し訳無いのだけど、チョビと一緒にアーロンを助けてほしいの」
ララは祈るような気持ちでユニに言う。
”お安い御用ですよ、ララ”
ユニは優しい声色で応えた。それを聞き、ララはホッとして笑顔になる。
「ありがとう、ユニ」
ララはそう言うと、安心し全身から力が抜けてその場に倒れた。
~~*~~
ララは野営地で目が覚めた。
随分長い間眠っていたようで、もう日が高く昇っていた。
「ララ様!」
ララが目覚めた事に気付き、リタが嬉しそうに声をかけた。
ララが頭を起こすと、周りの騎士達もララが目覚めた事がわかり、笑顔になる。
「アーロン殿下は!?」
ララはハッとして尋ねる。
「大丈夫です、2匹の聖獣に守られていますし、今はアンナが付いています」
「そう、聖獣達が命を繋いくれているのね」
「はい、子犬の聖獣も食事して休んだら少し大きくなって、元気になったようです」
「そう、良かったわ」
ララはリタの言葉を聞き心の底からホッとした。そして、ララは立ち上がる。
「今は、皆でここを発つ準備をしています」
リタが状況をララに説明した。
「そうなのね」
ララは周りを見渡す。
皆、野営の道具などを片付けたり、騎士たちは忙しそうに動いていた。
ララの方に、ミドルバとエイドリアン、そしてエルドランドの騎士団長のゴルバスが歩いて来た。
「大丈夫ですか?」
ミドルバが最初にララに声をかける。
「ええ」
ララが答えると3人はホッとしたように微笑んだ。
「陛下が眠っている間に3人で計画を立ててみたので、聞いて頂けますか?」
ミドルバがそう言うと、ララはミドルバの顔を見て頷いた。
「アーロン殿下の状態は良くないようで、すぐにでもドルト共和国に運んで高位聖職者の治療を受けないといけないようです。なので、エルドランド王国の王都は経由せず、何名かのエルドランドの騎士にも同行してもらって、我々とドルト共和国に直接向かおうという話になっています。それから、ドルト共和国に同行しない騎士にはすぐにでもエルドランド王国の王都に戻ってもらい、王子の無事を王に報告をしてもらいます」
「わかりました。エルドランドの騎士が同行してくださるのは心強いです。ともにアーロン殿下をお守りしましょう」
ララがそう言うと、ゴルバスが頷いた。
馬車には、アーロンとアンナと、ララとリタの4人が乗ることになった。幸い、幅の広い高級馬車だったので、少し工夫することでアーロンを寝かせることが出来た。進行方向を向いて座る方の座席の方に、板を足して少し体を斜めに寝かせられるようにしたのだ。
そして揺れて落ちないよう、アンナがアーロンを膝枕する形で座わり支えた。
チョビとユニの聖獣は変わらずアーロンの身体に乗って、命を繋ぐ。
ララとリタは、アンナ達の向かい側に並んで座った。
アーロンの身体に負担をかけないよう、馬車はゆっくりと衝撃のないように動き出した。
ドルト共和国の国境までの距離はそれほど遠いわけではないが、道が険しく、魔物が出るエリアを通ることになる。それ故、2日ぐらいかかるだろうとのことだった。
一時間でも早く着けるよう、夜通し走る事にするそうだ。
ララは騎士たちの体力が大丈夫か心配ではあったが、アーロンの身体もギリギリなので、何も起きないことを祈るしかなかった。
しかし、ララの祈りも空しく、マルタン公爵は動き始めていた。
~~*~~
コタール王国の第一王子ヘンリー=ウォルターは、王太子の座を第二王子に渡した後、王宮を出てコタール王国の王都に屋敷を構えていた。
ヘンリーは全く王位に興味がなく、自分のやりたい事を極め、生きていきたいと思っていた。
しかしこの男、なぜか生まれながらに王位に縁がある男だった。
コタールの第一王子として生まれ、生まれながらに王太子という地位にあったのだ。
ヘンリーは、物心ついた時から自分は王には向かない、王になるつもりはないと公言していたものの、洗礼の儀では素晴らしい精霊力を披露することになり、王太子の座から退くことを許されなかった。
実の弟である第二王子が洗礼の儀でヘンリーに劣らぬ精霊力を持つことが分かり、ヘンリーは胸を撫ぜ下ろすも、ヘンリーを次期王に推す声は大きく、なかなか王太子交代と言う事にもならなかった。
しかし、ヘンリーが18歳になった時、念願かなって王太子を降りることが許された。
幼い頃から一貫して変わらぬヘンリーの意思を尊重すべきだろうと、王と王妃が王太子交代を許したからであった。
それでも、いまだにヘンリーを次期王にという一派は存在し、ヘンリーの知らないところで動いており、落ち着かない日々だった。
しかも最近は、サルドバルドの帝位の話題も上がって騒がしい。
サルドバルド帝国の帝位継承順位の決め方は少々変わっており、なぜか全く関係のないと思われるヘンリーにもサルドバルド帝国の帝位継承権を与えられていた。
しかも順位が第3位だと言う。
……いや、現在は第2位か
それを知った夢見る連中が、落ち着かないサルドバルド帝国の帝位を狙い、サルドバルド帝国を落ち着かせてはどうか、などと言って来るので、ヘンリーは本当に、心からうんざりしていた。
はぁ……だから、早々に公爵にしてもらって……
王家からは遠のき、権力争いからは外れたという……
つもりでいたというのに――――!
ヘンリーは力を込めて剣を振り下ろし、黒ずくめの男の一人を倒した。
はあはあと、息を切らせながら、続けて襲って来る黒ずくめの男の剣をかわす。ヘンリーの横に立つ護衛騎士の男がその黒ずくめの男を刺し殺した。
「くそっ、なんなんだこいつら!」
寝込みを襲われ、ヘンリーは苦戦していた。
かれこれ10分はこうやって襲って来る連中をかわしているが、次から次へと黒づくめの男達が湧いて出て、いっこうに終わらない。
あちこちに、味方の騎士と黒ずくめの男達の血まみれの死体が転がっていた。
またどこからともなく湧いて出た黒ずくめの男が3人、同時に剣を振り上げてヘンリーの方に襲い掛かって来た。
護衛騎士が庇う位置で一人の剣を受けるが、残りのふたりがヘンリーに向かう。
「殿下! 逃げてください!」
「ちっ!」
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