第14話 情報の共有

 ずっと緊張が続いていてよほど疲れていたのだろう。ララが目を覚ましたのは、昼をとうに過ぎてからだった。

 

 ララはぼーっとしたまま体を起こし、見慣れない部屋だと思い、キョロキョロと周りを確認する。

 それから、ゆっくり立ち上がって窓辺に行き、庭を見てそこがアンナの実家の伯爵家の屋敷だと思い出す。


 ララが窓をあけると、金属がぶつかり合う音が連続して聞こえて来た。


 ララはテラスの外に出て、庭を見下ろす。

 庭では騎士たちが剣の訓練をしていた。


 ララはそこにエイドリアンとセイラの姿を見つけた。

 エイドリアンとセイラはお互いを練習相手にして訓練をしている。


 ララはその姿を見て心の底から安心した。

 昨日の夜の事は夢ではなかった。

 自分は彼らによって助け出されたのだと、感謝の気持ちを込めた眼差しでララは彼らを見つめた。


 セイラとエイドリアンでは、剣の腕はエイドリアンの方がかなり上のようだ。エイドリアンがセイラの剣をかわしつつ、セイラに稽古をつけているように見えた。

 ララは自分でも意識せず、動くたびに揺れるエイドリアンの黒い髪や、彼の真剣な表情を見つめていた。


 セイラがララの姿に気付き、笑顔になってテラスを見上げる。

「ララ様!」

 セイラの声で、訓練していた皆がララに気が付き、訓練の手を止めてララの方を見て頭を下げた。


 セイラはその後、走ってララの部屋にやって来た。


「ララ様、お腹が空いているでしょう? 伯爵様が食事を準備してくださっていますので、食事に行きましょう!」

「ええ、そうね。でもその前に伯爵にお礼が言いたいわ」

「伯爵様は今、お出かけになっています」

「そうなの?」

「はい。あ、アンナ嬢の服を用意してくれてるので、着替えましょう」

 セイラはそう言い、クローゼットを開けた。


「多分もうすぐアンナ嬢と、リタも戻ってきますよ」

 クローゼットにある服を選びながらセイラが言った。それを聞き、ララの顔が明るくなって嬉しそうに声を上げる。

「ほんとうに!?」

「ええ。実は私達……アンナ嬢とリタと、そしてジュード団長とで、皇帝の密命を受けて、ミドルバ将軍の元にララ様を迎えに行ったんです」


「え?」

 ララは驚く。

「どういうこと? お父様はミドルバが私を誘拐したの分かっていたの?」


「ええ、脅迫状の字を見て気付かれたようです。それに、陛下はミドルバ将軍の動向をずっと把握されていたようです。後でジュード団長から詳しい説明があると思いますが、陛下は我々に、ララ様が無事皇帝の座につけるように守れ、との密命を下されました。それで、皆でララ様を迎えに行ったら、ちょうどララ様と入れ違いになってしまって……それで、慌てて帝都に戻ったのです」


「もしかしてお父様は叔父様のことも、最初から分かっていたの?」


「……リンドル伯爵が皇帝の命令で隠密にマルタン公爵の事を探っていたそうです。それで、ケールの件もマルタン公爵が計った事だと既に調べは付いていたようです」

 セイラは少し暗い顔になったララを見て、申し訳なさそうな表情で言った。

「我々が陛下とお会いした時、陛下は……かなりやつれておいででした」

 セイラは最後に陛下に謁見した時の事を思い出し、ララに言う。

「もしかしたら、陛下は……」


「いえ、毒で亡くなったのではないわ……」

 ララはセイラの言葉を遮った。それから少し考える様子で続けた。

「いえ、ある意味、毒なのかも……」


 ララの言葉を聞いてセイラは驚く。

 ララはそんなセイラの目を見て続けた。


「遺体を調べていて気付いたの。お父様の身体に瘴気の痕があったわ。胸の辺りにほんの少しだけ。……恐らく胸の辺りに何か魔の作用があったのよ」


「本当ですか!? では、もしかするとミラ皇后と同じように魔物によって心臓を止められたのかもしれません!」

 ララの言葉を聞き、セイラが叫ぶように言う。

「え? どういうこと?」

 今度はララが驚く。


「陛下から聞いた話ですが、皇后さまの死因は、魔物に心臓を掴まれ止められたからだそうです。このことに皇后さまの弔問に訪れたドルト共和国の高位聖職者が皇后ミラ様のご遺体を見て気付かれて、それを陛下に知らせた事で分かった事で、その時は犯人までは分からず、ただ、魔物に取り込まれている者がいるはずだから注意するよう教えられたと……」

「魔物に取り込まれている者がいるですって!?」

 ララが驚いて声を上げた。それから納得するように頷く。

「叔父様の言っていた、って……そういう事だったのね」



 ~~*~~


 ララはダイニングとリビングを兼ねた広い部屋に案内された。

 その空間は回廊と繋がっているオープンエリアで、ドアなどはない。


 よく教育された伯爵家のメイド達が、ララとセイラに気持ちよく接してくれる。ララが子供の時から見知っている者もいて、ララを安心させた。


 メイド達が運んできた朝食を食べていると、ミドルバ達がやって来た。

 口々にララに挨拶し、そしてララの座る大きなテーブルに同じように腰かけ、一緒に食事を始めた。


 少ししてジュードは、その場に居るメイド達に下がるように言った。


 それからジュードは、皇帝から受けた密命の内容と、今彼らが分かっている事についてララに丁寧に説明をした。

 途中、ララは泣きそうになりながらもなんとか堪え、気丈な様子で話を聞いた。


「ありがとう、ジュード、セイラ」

 ララは話を聞き終わって、最初に二人に礼を言った。

「あなた方は陛下にとって、信頼できる部下だった事が分かります。信頼出来るから、陛下は最後の密命をあなた方に託されたのでしょう……」

 ララは涙目になりながらも皇女らしい口調でそう言った。


「実は私も宮殿で分かった事が沢山あります。私も皆さんにそれを話しておかなければなりません」

 そう言い、ララは皆の顔を見た。


「私は、城に戻ってから偶然、マルタン公爵とその令息ジェームスとの会話を聞く事が出来ました。酔っていた二人が話していた内容は実に衝撃的な内容でした」

 そう言い、ララは大きく息を吸った。


「彼らが……私利私欲のため卑怯な手を使ってケール王国を滅ぼしたことや、エイドリアンの妹であるケールの王女を死に追いやったこと、これはもう皆も分かっていると思いますが、間違いなく彼らの仕業です」

 ララはそう言いながらエイドリアンを見た。


「王女を辱めようとしたのは、マルタン公爵の息子のジェームスでした」

 エイドリアンは少し驚いた顔をしたが、話の腰を折らないようにララに少し頷いて見せるだけだった。ララは続ける。


「そして、これももう皆承知のようですが、ケールを侵略する大儀名分を作る為に、商人や高官たちを襲わせてケールの犯行という噂を流させたのもマルタン公爵達です」


 そこまで言いララは椅子から立ち上がった。そして頭を下げる。

「この件について、先ずはここに居る、元ケール王国の騎士たちに、深く……深くお詫びいたします」


 エイドリアンやトム達、ケールの騎士たちが驚いた顔でララを見た。

「いや……そのことは既にジュード殿から聞いている事だから」

 エイドリアンが言う。

「今は、憎むべきはサルドバルド帝国ではなく、マルタン公爵家だと思っている」


「いままでは証拠がなく、憶測な部分もありましたが、ララ様が彼らの会話を直接聞いたのであれば、これはもう憶測ではないですね」

 ジュードがすっきりしたと言う感じで言った。


 しかし、ララの顔を見ると続きがまだあるようだ。

 皆がララに注目する。


「……実はマルタン公爵がやった事はそれだけではないのです」

 ララは少し顔を伏せ続けた。皆は不思議そうな顔をしてララに注目する。

「マルタン公爵はこう言いました、自分は……と」


 !――――


 ララの言葉に、皆一瞬絶句し間をおいてミドルバが訊く。

「母……と父? まさか、自分の実の母親とマルタン公爵の父親……つまり先帝の事ですか……?」

 ミドルバは混乱したような顔だ。


「ええ、先帝のおじい様と、マルタン公爵の母親も手にかけたと、そう言う事ですね」


「なんという……ことだ、そこまでとは」

 ミドルバがうなるように言う。


「公爵は、婚外子で蔑まれて育った事を恨んでいたそうです。それで、公爵はと、そう言っていたのです。……ぞっとします。自分の親を殺しても平気だったなんて……」

 ララは青い顔をしながら言う。


「彼は魅了の能力をもっているんだろ?」

 エイドリアンが口を開いた。皆がエイドリアンの方を見る。

「魅了の能力を持つ人間が蔑まれていたとは、考えにくいけどな」

 エイドリアンは素直な感想を述べる。それにはミドルバが応えた

「ああ……公爵の公式な能力は火系だ。それもかなり弱い。魅了の能力に関しては素養があるというだけで公式に記録もされていない。本来は人に影響を及ぼすレベルではないんだ」


「そうね、魔王の力を借りて少し強くなっているのかもしれないけど……それでも強いものではないわ。……だから叔父様は、常に皆に優しく親切に振る舞っていたのね。ある程度自分に好意を持つ人にしか作用しないレベルだから」

 ララが補足するように言った。


 実の両親である、先帝と母親まで暗殺していたという事実を知り、場の雰囲気はとても重いものになっていた。

 そんな中、伯爵家の雰囲気が急に慌ただしくなった。

 ララ達はそんな屋敷の雰囲気を察し、廊下の方を見る。


 廊下の先に、先導するメイドを追い越し走って来るふたりの姿が見えた。


 マリアとリタだった―――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る