第8話 マルタン親子の告白

 ララは、マルタン公爵のヴィラでマルタンとその息子ジェームスとの話を聞き寒気を感じ絶句していた。


 ララに会話を聞かれているなど知らないマルタン親子は勝手な事を話し続ける。


 マルタンはワインを飲み口の拭い、そして言う。

「ならば……そうだな……どっちが結婚しても結果は同じだし、この際、順番でどうだ?」

「はあ?」


 ジェームスが父を汚い物を見る目で見る。

「嫌ですよ、いい加減にして下さい。ララは俺とって決めましたよね。その為に俺は今まで努力してきたんですからね」


「まあ、確かにお前はよくがんばったな。というか、よく手を出さずに我慢できたものだ。そしてララをよく懐かせたな」


「でしょ? まあ、ララはちょっと頭弱いみたいだけど、見た目は最高級だから……これから思う存分、可愛がってあげますよ。神殿なら隔離されているから邪魔も入らないでしょうしね」

 ジェームスはそう言い、にやりと笑った。



 ぞぞぞわっ~~~~~!

 きもちわる~~~い!


 ララは寒気がして自分を抱きしめた。

 肌には鳥肌が立っている。


 あの2人がこんなに気持ちの悪い人達だったなんて信じられない!


 ララはこれ以上は聞いていられないと、場所を移動しようとしたが、マルタンの口から出た次の言葉がララをその場に引き止めた。



「いよいよ念願かなって、思うと感無量だな」

 そう言いマルタンはワインを飲み干した。

「ええ、長い道のりでしたね、父上」


「ずっと、婚外子だとバカにされていた。見返したくて、ずっとずっと耐えて来た。いつか、あいつらから全てを盗んで、皇帝にもなってやると、そう思って、、沢山手を汚しながらここまで来た」



 ―――…ですって!?

 ララはじっとマルタンの言葉を聞き逃さないように集中する。



「俺だって同じ思いですよ、父上」

「そうだな、正直、お前の決断には私も驚いた。魔王の眷属になると……お前が自分から言い出すなど、思ってもいなかったからな」


「俺は、貴方に育てられたんですよ……貴方と魔王に育てられたのだから、当然の成り行きと言えるでしょう?」

「そうだな、そして今回お前は一番大変な役を担ってくれた…」


「ええ、父上がるのは難しい状況でしたからね。陛下はもう父上の事を怪しんで警戒していて、父上と会う時は聖職者と精霊使いを必ず傍に置いていましたから。……だから、俺が行くしか無かったでしょう?俺だから陛下は油断してくれて殺れたんです」


 ―――!

 突然の告白にララは驚く。


 ジェームスはそう言った後、ワインを一気に飲んだ。

「だからもう、後には引けないんです」

 ジェームスは、グラスを置きそう言う。


 マルタンはジェームスのグラスと、自分のグラスにワインを注ぎながらジェームスの言葉に同意して言う。

「そうだな、私達はもう引き返せない所まで来ているな」

 そして、注ぎ終わったグラスを手に持つ。


「ここまで来る為に私は、、そして…そして…引き返す場所などもう無い」


 ―――!

 ララはマルタンの言葉に強い衝撃を受け、自分の口を手でふさいだ。


「それだけじゃない。資金を得る為にケールを滅ぼし、ケール人……特に獣人族を蹂躙し沢山死なせた」

 マルタンがそう言うと、ジェームスは少し微笑んだ。


「そうですね。あの時は皆が面白いように騙されてくれた。実際に商人や高官を襲っていたのは我々の手の者だったのに……」


「ああ……おかげでケールの資源を利用して皇帝になる為の準備に必要な資金を手に入れた。能力の高い私兵も集められたし、多くの高官を懐柔することも出来た。まあ、しかし……あれほど獣人族の美しい女を欲しがる富裕層の人間が多くいる事には正直驚いたがな」


「ケール人は美女が多く肌がつるつるですからね。……俺も、ケールの皇女は抱きたかったなぁ」


「あれにはまいった。まったく……後始末にどれだけ頭を悩ませたか」

「だから……あれからは少しは自重してますよ」


 マルタンとジェームスはグラスを持って掲げる。

「やっとあと一歩のところまで来た。今更ここで諦めて辞めることなど出来ない。だからジェームス……、この父と共に、地獄に落ちてくれ」


「ええ、そのつもりです。我らが帝国の頂点に立つ為に。そして……そのあと一歩を進む為に、今日、アーロンの件を実行します」

 そう言い、ジェームスはワインを口に含んだ。


「計画通り進んでいるのか?」

 マルタンが聞く。


「ええ。アーロンが居てはララと婚姻することは出来ませんからね。一番邪魔なララの婚約者アーロンには消えてもらわないと……」

「相手は王族だ、護衛も精鋭達だろう? 大丈夫か?」

「大丈夫です。今回は術者も増やしました。アーロンはララに会う為に、今、国境付近まで来ています。なので今夜遅く、エルドランド側の国境付近で襲撃します。きっと明日の朝にはエルドランド王国の第二王子のが聞けますよ」


 ―――!

 ララはジェームスの言葉を聞き衝撃を受けた。

 そして慌てて地下通路に戻り、神殿に走り戻った。


 


 どうしよう……どうしよう!


 ララはすぐに神殿の礼拝堂に戻ったが、どうすればよいか分からず、とても焦っていた。


 アーロン殿下が襲われる!

 でも、今からでは、手紙で知らせても間に合わない!

 一体どうすればいいの!?


 ララは手をグッと握りしめ体を震わせる。


「ララ様……」

 突然声を掛けられて、ビックンとララの体が震えた。

 それを見て、声をかけた人物が焦る。

「大丈夫ですか? 申し訳ありません、急に声をかけてしまって」


 ララが声の主を確かめると、リリアンヌだった。

「リリアンヌ…」

「ララ様? ……どうされたんですが? 真っ青ですよ!?」

 リリアンヌは、心配してララの手を握る。


 握られた手からは、暖かく気持ちの良い何かが流れて来た。

 それでララは少し落ち着き、ほっとした気持ちになる。


「ありがとうリリアンヌ、体は大丈夫よ。それより……どうしたらいいか……」

 ララは不安そうな目をリリアンヌに向けた。

「一体、何があったのですか?」

 リリアンヌは心配そうに聞いた。


 ララは、アーロンが今夜襲われるので助けたいが、時間もなく知らせる手立ても無くてどうすれば良いか分からず悩んでいるという事を、それを知った経緯も含め、リリアンヌに状況が分かるように簡単に説明した。


 リリアンヌは、頷きながらララの話を聞き、もう一度ララを落ち着かせる為に手を握る。


「ララ様、落ち着いてください。何とかなるかも知れません」

 リリアンヌが、ララの瞳を見つめながら言った。

「え? 本当に!?」

 ララはすがるような思いで聞く。

「ちょっと待ってくださいね」


 そう言うと、リリアンヌは太陽のオブジェの方に行き、後ろ側にまわった。それを見て、ララもオブジェの後ろにまわり、リリアンヌが何をしようとしているのかを見守る。


 リリアンヌは、オブジェの柱に付いている飾りの精霊石の幾つかに手を伸ばし、ぎゅ、ぎゅと押す。

 すると、ギギギという音がなり、柱に穴が現れた。


 それは隠し金庫の様なものだった。


 ララはそれを見て驚く。

「こんな仕掛けがあるなんて、知らなかった」


「ええ、これは、大聖女ミラ様が使われていたものです」

 そう言いながらリリアンヌは、その中から箱を取り出した。


「大聖女ミラ様が亡くなられた時、私がこれをここに隠しました」


 そう言いながらリリアンヌは箱の蓋を開けた。

 中には、赤、青、緑色の3つの宝石が入っている。


「これは精霊石?」

 ララは美しく輝く宝石をみて言う。

「いえ、これは聖獣封じの石です」

 リリアンヌが答えた。


「聖獣封じの石?」

 ララは驚いた顔で石を見つめる。

「はい、覚えていませんか?ミラ様には3体の使役獣がいた事を」

 リリアンヌに言われてララは思い出してみる。

「そう言えば、いたわね。とても大きな聖獣だった気がするわ」


「ええ、それです。ミラ様が亡くなって、主を亡くした使役獣達はこの宝石の中で眠りにつきました。次の主が現れるのを待つ為です。ミラ様は使役獣達に、ララ様が皇帝に就いたらララ様に仕えるようにと言い聞かせていました。なので、時が来るまでと、隠しました」

 リリアンヌはララを見て微笑みながら言った。


「……私はまだ洗礼を受けてないし、聖獣は応えてくれないかもしれないわ」

 ララは不安そうにリリアンヌを見た。


「ええ。このクラスの使役獣は相当な精霊力を持っていなければ主とは認めてくれないでしょう……でも、貴方は大聖女ミラ様の娘です。試す価値はあります」


 リリアンヌの言葉を聞き、ララは深呼吸する。

「そうね、今はこの方法しかないのだから試すべきよね。アーロンを助ける為に……」

 ララがそう言うとリリアンヌが頷いた。


 リリアンヌは精霊石の入った箱を蓋を開けた状態で、太陽のオブジェの前にある供物などを置くテーブルに置いた。


 ララは箱の前に立ち、また大きく深呼吸をする。


 まだ洗礼を受けてない私に仕えるのは嫌かもしれないけど……

 お願い! 力を貸してください!


 ララは、両手を組むように合わせ、ぎゅっと目を閉じて祈る。


 お願い! どうか……眠りから覚めて、私を助けて!

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