第5話 それぞれの動き
「ララ皇女様、本日はこのお召し物を」
侍女のひとりが豪華なドレスを持ってくる。
ララはドレッサーに座ったままそのドレスを眺めた。
「あの……お気に召しませんか? 喪中なので地味なものを選んだのですが……」
じっと黙ってドレスを見つめるララに侍女が少し怯えたように言う。
「え? あ、いえ」
ララは自分がドレスを見つめていたことに気が付き、ハッとする。
「ごめんなさい、それでいいわ」
いけない、つい……
このドレスに付いている宝石を売ればいくらになるかしら?
なんて事を考えていたわ……
こんな事、皆の前では言えないわね
ララはため息をつく。
「本日は神殿に籠られるのですよね」
侍女が着替えを手伝いながら聞く。
「ええ」
「帝位継承の儀式は、喪が開けた後ですね」
「そうね」
ララは空返事する。
「皇室にも不幸が続きますね」
「え?」
侍女の何気ない一言に、ララは侍女を見る。
「誰か亡くなったの?」
「あ、まだご存じありませんでしたか」
侍女はララの服を整えながら言う。
「アーノルド公爵がお亡くなりになったんです」
「大叔父様が!?」
「はい、5日前です」
「お、お父様が亡くなる1日前?」
「はい」
アーノルド公爵……おじい様の弟で、帝位継承権第2位の方だった。
ララは不安な気分になる。
いえ、偶然よ! 大叔父様はご高齢だったもの
偶然に決まっているわ!
ララは祈るような気持ちで心の中で叫んだ。
~~*~~
ララ皇女の婚約者、エルドランド王国の第二王子であるアーロンは、ララ皇女の叔父にあたるマルタン公爵と共に手分けしてララ皇女の消息を探していた。
エルドランド王国とサルドバルド王国との国境付近のエルドランド王国側をアーロン達が捜索し、マルタン公爵の配下はサルドバルド王国側を捜索することになったので、アーロンはエルドランド王国の国境付近を捜索し続けている。
そんなアーロンの元にも、ララが帝都に戻ったと言う知らせが届く。
「ララ皇女が、宮殿に戻ったのか!?」
アーロンは側近からの報告を聞き、叫んだ。
「はい! お怪我もなく、無事だそうです!」
「そうか、よかった」
アーロンは本当にホッとし、力が体から抜けたように座る。
「だ、大丈夫ですか、アーロン殿下?」
側近が驚いて声をかける。
「ああ、もちろん」
アーロンは笑む。そして皆に声をかける。
「全員引き上げの準備だ! 一旦王都に戻って、それからサルドバルドに行く。ララ皇女に会いに行くぞ!」
~~*~~
エイドリアン達はケール自治区まで戻って来た。
誰にも気持ちを悟られないようにしていたが、なぜか寂しさを感じていた。
「あと少しですね、殿下」
トムがエイドリアンに声をかける。
「ああ、そうだな。しかし、トム、いい加減その殿下というのは辞めたらどうだ? ケールが滅んでもう4年だぞ」
「何年たっても、私達護衛騎士から見たら、殿下は殿下ですよ」
トムが笑顔で応える。
「あれ?」
トムが遠くから馬が走ってくるのを見つける。
「もしかしてミドルバ将軍たちですかね?」
ミドルバだけではなかった。
ミドルバを先頭に何人かの騎士がこちらに向かって来る。
彼らはエイドリアン達の方に近づいて来て、馬を速度を緩めた。
「エイドリアン殿下!」
ミドルバがエイドリアンの名前を呼びながら馬を近づけて来る。
「どうしたんだ、ミドルバ」
エイドリアンは、驚いた様子で近くまで来たミドルバに聞いた。
ミドルバの後ろには見慣れない男女の騎士が2人いるし、ただ事では無い雰囲気だ。
「殿下、すぐに帝都に戻りましょう!」
ミドルバがエイドリアンに叫ぶように言う。
「帝都に? どうしたんだ、何かあったのか? そっちのふたりは?」
エイドリアンが不思議そうに聞くとジュードが答える。
「我々はサルドバルドの近衛隊の者です。皇族専属の護衛騎士で、私はジュード=モハン。ララ皇女の護衛を担当しています」
「あ、ああ」
エイドリアンはララを誘拐した時、ララの護衛にジュードと名乗った男と、その横の女騎士がいた事を思い出す。
その2人がミドルバと一緒にここに居ることをエイドリアンは不思議に思った。
「一体、どういうことだ」
「あなたが考えていた通りだったんです、エイドリアン」
ミドルバがそう言うとエイドリアンはますます不思議そうにミドルバを見る。
「すべては公爵の……マルタン公爵の仕業だったんです。おそらく皇帝もマルタン公爵が……」
エイドリアンはミドルバの話を不思議そうに黙って聞いていた。
「陛下は何もかも分かっていて、ララ皇女を我々の方で保護して、洗礼を受けさせてほしいと、彼らを我々の元に送って来たのだ」
ミドルバの言葉を聞き、エイドリアンはセイラとジュードを見た。
「……」
突然ばっとエイドリアンは馬の手綱を引いて馬の向きを変えた。
そして帝都の方角に向かって走り出す。
皆は驚きながらもすぐに反応し、エイドリアンの後を追うように走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます