第2話 ミドルバ 密命を聞く
4人とミドルバと数人の騎士は、騎士の部屋で話をした。
「なんだって……? では、陛下は……私の動きをずっと監視していて、今回の事も私の仕業と分かっていたのか?」
ミドルバが驚きの声を上げた。
「はい」
ジュードが頷く。
「陛下は、ずっと将軍の動きを把握されていて、今回の件も将軍が裏で動いていると分かっていたようです。それで我々に将軍の元に行き、合流してララ皇女を保護してララ皇女が帝位につけるように動いてほしいと命じられたのです」
「合流して? とは?」
ミドルバは全然理解できないと言う風だ。
「一緒に動けという命令です」
ジュードが答えると、ミドルバは仲間たちと顔を見合わせる。
「ちょっと待ってくれ、我々は皇女を誘拐して皇帝を脅したんだぞ?」
「ええ、分かっています」
「分かっているって……陛下は、私を監視対象にしていたんだろう? 敵対勢力として監視していたのでは無いのか?」
ミドルバがそう言うと、ジュードが首をふる。
「違います」
ジュードの返事を聞き、ミドルバがジュードを不思議そうに見る。
「敵対勢力として監視していたのではなく、必要な時に召集をかけて力を借りたかった……だから、居場所を常に把握していたのです。それで、秘密裏にあなたの援助もされていました」
「援助?」
「具体的なことはわかりませんが、物資やお金があなたに届くようにしていたようです」
ジュードの言葉に、ミドルバは少し考えるような顔をする。
そういえば、資金繰りが苦しくなったり、物資が足らなくなった時、なぜだか大商人がいきなり支援を申し出てくれたりという事が何度もあったなと思い返していたのだ。
ミドルバは宙を見て、そのあとジュードに視線を戻した。
「正直、私は混乱している。陛下が何を考えていたのか全く分からない」
ミドルバはジュードに言う。
「必要な時に召集をかけて力を借りたかったというのは、一体どういう事なんだ」
「敵と戦う為に、将軍の力を借りたかったんです」
ジュードが答える。
「敵? 敵とは一体なんだ!?」
ミドルバは思わず叫んでいた。
ジュードはセイラとアンナの顔を見る。頷き合いそれからジュードが口を開いた。
「皇帝の弟、メルロー=マルタン公爵。公爵が我々の敵です」
ジュードのこの言葉を聞き、ミドルバ達は驚愕する。
確かに皆で話をしたとき、何度か怪しいと思ったが、いつも最終的には皇女ララもミドルバもそれはないと否定していた。
なのに、やはりマルタン公爵が裏で糸を引いていたという事なのか?
ミドルバは愕然としている。
「始まりは、ミラ皇后がお亡くなりになった所からだそうです」
ジュードが説明を始める。
「今からお話しすることは証拠の無い話しになります……陛下は半分は自分の想像だと仰っていましたが、多分、陛下の想像はあっていると僕らは思っています」
ジュードはそこまで言い、再び一旦アンナ達と顔を見合わせ、アンナ達が頷いたのを確認してから続きを話した。
「マルタン公爵は皇后がお亡くなりになる前から、いろいろな企みの準備を始めていたようです。その一つがケールへの侵攻です。資金確保の為に、資源が多く能力者も多いケール国を狙い攻める準備をしました。大陸の国々がケール王国と敵対するよう仕向けたのはマルタン公爵です」
「まさか、盗賊を匿い操っていたのはマルタン公爵なのか?」
ミドルバはまた驚いて声を上げる。
「恐らくそうです」
ジュードが頷き、そして続けた。
「でも、大聖女のミラ皇后をごまかすことは出来なかったんです。だから皇后殿下はことあるごとに公爵の邪魔をして、ケールへの侵攻も絶対に許さないように陛下に進言しておられました。陛下も簡単に騙され踊らされるような方ではありませんから、ケールへの侵攻を許すつもりもなく、盗賊の討伐の命令だけを出されていました。しかし、それにしびれをきらしたマルタン公爵はとんでもない計画を立てて、実行しました」
ジュードはそこで一旦話を止めて、深呼吸した。そして続ける。
「それは、皇后を暗殺し、陛下が喪に服している間にケールを滅ぼし、自分の欲しいものを手に入れしまうという計画です」
もうこれ以上何を言われても驚かないと思っていたミドルバだったが、言葉もでないほどのショックを受けた。
そして、自分自身も完全に騙されていたという事を認識する。
ジュードの、話は続く。
「陛下もこのことに気が付いたのはミラ皇后が亡くなってからです。ドルト共和国から弔問に来た高位の聖職者が、ミラ皇后の亡骸を見て暗殺されたと気付き、そしてその犯人は魔物の力を借りている人間だとこっそりと教えてくれたそうです。陛下は我々に、魔物の手を借りたのはマルタン公爵だと仰られました」
そこまで言い、ジュードは間を少し開け、それからまた話し出す。
「気が付いた時には、既にケールは陥落していたと、陛下は仰っていました。陛下は、最初は誰が黒幕なのか分からなかったそうです。だから慎重になってました。でも、ミラ皇后がマルタン公爵を警戒していた事とか、ケール王女の件でマルタン公爵が嘘をついている事から、マルタン公爵が怪しいと考え密かに調べさせた結果、公爵が黒幕だと気が付いたそうです。最近になって、マルタン公爵と獣人狩りをやっている連中とのつながりも掴んだと言っていました。……ここまで調べるのに相当な犠牲を出したようです。相手は魔物と手を組んだ相手ですから、邪魔だと思った人間には容赦はないと……」
ジュードは少し辛そうな顔になった。皇帝派の人間の多くが人知れず犠牲になったのであろうと、その場で聞く者達は思った。
ジュードは再び顔をあげ、ミドルバを見つめた。
「将軍が引退すると言って、宮殿を離れた時、陛下は内心喜んでいたのです。将軍にいつか力を借りれるだろうと思っていたから」
ジュードの言葉にミドルバの目が泳いだ。
「しかし、本当にそんなことをマルタン公爵がやってのけたのか? 誰にも怪しまれずに準備して、皆を騙してやれたと言うのか?」
ミドルバは呟くように言う。
「証拠は……ありません。でもマルタン公爵には弱いですが、魅了の力があるようです。ホントに小さな能力なので公式な能力として認知されてませんが、知らない間に何となくマルタン公爵のことを好きになり、なんでも信じてし肯定してしまう事になると、そういう事は昔からあったようで、ミラ皇后も皇帝に気を付けるように進言されていたそうです。その小さかった魅了の能力は、魔物によって増殖してもらっているのだろうと、陛下は仰っていました」
そうだ、エイドリアンもそんな風に怪しいと言っていた
なのに、私やララ皇女は、ありえないことだとそう思ってしまった
なら、エルドランド王国からの帰路でララ皇女を襲ったのも……
ミドルバはララやエイドリアンと話した時の事を思い出しながらその時に何も気づかなかった事を悔やむ。
「陛下は、なぜそんなマルタン公爵を放置したのですか?」
ミドルバが訊く。
「陛下自身も、少なからず魅了の力に惑わされていたのだろうと仰っていました。身内だからと、どうしても甘くもなっていたと。それと、もしマルタン公爵が帝位を狙っているのならララ皇女が狙われる可能性が高い事を心配し、陛下は陛下なりにマルタン公爵に怪しまれないように話を合わせながら皇女を守り、機会を伺っていたのです」
ジュードはそう言いながらアンナの顔を見た。アンナが頷き説明を追加する。
「ララ皇女はマルタン公爵に懐いていてマルタン公爵のいう事はなんでも聞いていました。私もおかしいとは思っていても、それを進言するには至らず……皇女は公爵の腕の中に居たと言っても過言ではありません」
アンナは続ける。
「マルタン公爵は、とても人を操るのが上手です。ララ皇女の為にやっていると……ララ皇女に信じさせて、上手にララ皇女から学びの場を奪い、政治への参加の場も奪い、洗礼さえも受けさせないようにしていたのです」
「そういうことだったのか」
ミドルバが頷きながらそう言った。
「それで、今回……」
ジュードが呟くように再び口を開く。
「ララ皇女を彼らの手の中から完全に隠すことが出来たので、このままララ皇女をドルト共和国に連れて行って洗礼を受けさせて欲しいと、陛下に言われていたのですが……」
ジュードがため息をついた。
「我々は、ララ皇女を最も危険な場所に戻してしまったという事か……」
ミドルバが頭を抱えながら言った。
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