第13話 怪しいのは誰?

「もの凄く怪しい奴がいるのに、あんた達が全然怪しんでない事が一番おかしく思えるけどな」


 エイドリアンのこの言葉を聞き、ミドルバとララが不思議そうにエイドリアンを見た。


「怪しいだろ? 皇帝の弟、めちゃくちや」


 エイドリアンがそう言うと、ララとミドルバは顔を見合わせる。


「怪しい……って、どこがなの?」

 ララが聞く。

「その反応が、まず不思議だよ」

 エイドリアンはそう言ってため息をつく。


「ミドルバは、誰からケール侵攻の命令を受けた?」

 エイドリアンはミドルバを見て聞く。

「皇帝の命令を受けたんだが?」

「その命令、皇帝から直接言われたのか?」

「いや、マルタン公爵が陛下の代わりに伝えに来た」

 ミドルバはエイドリアンの言葉に不思議そうにしながらも答える。


「マルタン公爵、つまり皇帝の弟が命令を伝えたんだろ?」

「それは……そうだが……」

 ミドルバは、エイドリアンの言葉に納得いかなさそうに答える。


「それと、妹が自害した時、その場にいたのは誰だった?」

 エイドリアンはまた質問し、ミドルバが答える。

「マルタン公爵と、その息子のジェームスだ」

「皇帝は、居なかったんだよな?」

「いな……かった、……しかしあの場所は、陛下しか使わない場所だ」


「皇帝しか入れないような魔法でもかけているのか?」

 エイドリアンは首を少し傾けながら聞く。


「いや、まさか、そんなことはない」

「なら、皇帝が相手だったと言うのは思い込みかもしれない。皇女が言っていたように、皇帝は母親を無くして悲しんでいる皇女の側で過ごしていた……これは事実だろ?」


 エイドリアンの言葉を聞き、今度はララが頭に浮かんだ疑問を言う。

「でも何の為に? 叔父様がもしケールを攻めさせたとして、その理由は?」


「そんなの金に決まってる」

 エイドリアンは即答する。

「言っただろう? 我が国は小さいが資源が多いと」


 ララは、首を傾げる。

「叔父様は公爵よ? お金は沢山持ってるわ」


「なら……本気で帝位が欲しかったんじゃないのか? そして、その為の資金が欲しかったんだろう」

 エイドリアンの言葉に、またララとミドルバは顔を見合わせる。


「そうは言っても……簡単になれるわけじゃないぞ。前にララ皇女が言ったように彼の順位は五番目だ」

 ミドルバが言う。


「……前から不思議に思っていたんだが、慎重なミドルバがどうして奴に関しては無条件に信じるんだ? のほほんと宮殿で暮らしてたララ皇女ならともかく、ミドルバが疑おうともしないのが不思議でしかたない」


 のほほん?


 ララはその言葉にひっかかって苦笑する。

「相変わらず失礼な……叔父様はとても優しくて親切な方だわ」

 少しキツい口調でララが言う。


「親切? 例えば?」

 少し嘲るような表情でエイドリアンも応えた。


 周りの騎士達は何だかハラハラした気分で2人の様子を見守る。


「叔父様はいつもわたくしに気を遣ってくださっているわ。今回、私が皇帝の名代としてエルドランド王国に行ったのも叔父上の後押しがあったからよ。もし、本当に帝位を狙っているなら、自分が名代として行きたがるはずでしょ?」

 ララがそう言うと、エイドリアンがクスッと笑う。


「忘れたのか? 君はエルドランドに行った事で、暗殺されかけたのを」


 ────え?


 エイドリアンの言葉にララはドクンとする。


「何? あれが叔父様の仕業だというの?」

 ララは、青くなりながら聞く。

「そうでは無いと、言い切れるのか?」

 エイドリアンはララを見て言う。


「お、叔父様はいつも私を心配して下さってるわ!」


「もしかして……」

 エイドリアンはララの抗議の声など気にせず、考えた顔をする。


「君に洗礼の儀式を受けなくて良いと言ったのも、おじさんか?」


 ────……


 ララは、絶句した。

 それがエイドリアンに対する回答になった。



 ~~*~~


 ララは一人で、渓谷から見える夕焼けを眺めていた。赤く染まった空がとても綺麗だった。


 ララは、夕焼けを見ているとだんだん悲しい気持ちになってきた。涙を流さないように我慢する為、手を口元に持っていき唇をつねるように掴む。


 ララは、何を信じれば良いのか、分からなくなって来ていた。


 ララは、皇帝が毒で倒れた時の事を思い出す。

 父である皇帝が毒に倒れたとき、それを運んだのは自分だと思っていたが、今思えば公爵の息子のジェームスも一緒だった。紅茶のお盆を運んだのはジェームスだし、紅茶をカップに注いだのも彼だった。


 必死で我慢しているのに涙が出できて、赤く染る空が滲む。


 スっと、横からハンカチが差し出された。


 ララは、あまりにも色々考え過ぎていて、足音にも気が付かなかったようだ。

 ララは、エイドリアンからハンカチを受け取り、涙を拭う。


「まだ、公爵を信じてるか?」

 エイドリアンが聞くと、ララはぐずっと鼻をすすった後、口を開く。


「信じてるわ。ずっと、家族同然だったんだもの」

「そうか」

 エイドリアンがそう言うと、ララがエイドリアンを見る。


「何? 何か言いたい事があるの?」

 ララがそう言うと、エイドリアンは少し悩んだような顔をした。

「いや、まあ」

「なんですか?」

 ララは、怒っているような口調で聞く。


「もしかして公爵は、魅了の能力を持ってるんじゃ無いかと思ったんだが、心当たりはないか?」

「魅了?」

 ララは、エイドリアンの言葉に驚く。

「そんな、どうしても叔父様を悪者にしたいの?」

 ララは、また涙を拭う。


「嫌、そうじゃないが……君やミドルバの様子を見るともしかしてと思ったんだが」

 エイドリアンが頭を搔く。

 その時、何かの音が聞こえてきた、どうやら走る馬の蹄の音のようだ。


 馬が駆けて来る音を聞き、反射的にエイドリアンとララは屋敷の玄関の方に走っていた。


 丁度、馬が屋敷の前に着いた。

 騎士が馬を降りエイドリアンに走りよる。


「殿下! 新聞を入手しました! ララ皇女が襲われた事が一面に載っています」


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