第13話 森の中の洞窟
男たちは洞窟の前で馬を止め、馬を降りた。
黒い瞳の男は馬を降りると、ララを馬から下ろした。
そして洞窟の中から来た別の男にララを渡すと、その男がララの腕を掴み、乱暴に洞窟の中に引っ張って行く。
い、いたい
引っ張られる腕に痛みを感じるが、ララは声が出せない。
男はララを乱暴に投げるようにして手をはなした。
「きゃ」
ララは投げられた勢いで地面に倒れ込み、思わず小さな悲鳴をあげた。
ララが体制を整える間もなく、男はロープでララの足と手を拘束し、足のロープは地面に打ち付けた木の棒にくくりつけた。
それから男は、そのままララを放置するように洞窟の奥に行く。
ララは体を起こして、周りを見た。
その場所はあらかじめ準備された場所のようだ。
ここに滞在することは計画されていた事なのだろう。洞窟の広がった部分にテーブルと椅子、そして眠るための毛布や、食料が準備され、積まれていた。
1時間ぐらい経っただろうか、男のひとりが食事を持って来た。
ララに食欲はなかったが、男は手をしばられているララに、スプーンでスープを口元に運んできた。
ララは、顔を背ける。
「ん? 食えよ」
男の口からアルコールの匂いがした。ララは嫌な気分になる。
「こんなもん食えないってか? でもこれが俺たちの食事なんだよ、食え」
男がもう一度スプーンをララの口元にやるがララは動かなかった。
「ち、なんで俺がこんな女の世話をしなきゃいけないんだ」
男はそう言うとララの頭を押さえ、口に無理やりスプーンを押し込もうとする。
「ん!」
ララは拒否しようと口をぎゅっと閉じる。
スープはララの口元から、首筋を流れ、胸元へ流れおちていった。
男はそれを見て、ララが下着姿であることに改めて気が付いたようだ。
男は嫌な笑いを浮かべた。
「あ~あ、こぼれちまった。拭いてやるよ」
そう言い男はララの首に手をやる。
「やっ」
ララは男から逃れようとするが、両手足が拘束されていて逃げられなかった。男はまたスープを口元に持って行き、わざとこぼした。
「あ~あ、べとべとになったな」
クスクス笑いながら胸元を拭くように触ろうとする。
「ぶ、無礼者! 触れるな!」
ララは精一杯強く言う。
男はスープを置き、ララの腕に触れる。
「何が無礼者だ。俺たちとお前、何か違うのか? ん?」
男はそう言い、ララの腰に手をまわして引き寄せようとする。
「放しなさい!」
「お前らは、獣人族を連れて行ってペットにしているんだろ?お前も俺のペットにしてやるよ。皇族という種類の生き物のペットだ。ひん剥いてさらしてやる」
「きゃあ!」
「おい、いい加減にしろ!」
男の怒鳴り声が聞こえ、ビクンとして男の手が止まる。
ララを自分の馬に乗せていた黒い瞳の男の声だった。相変わらず冷たい表情で男はララ達の方に歩いて来る。
「で、殿下」
「騎士としてのプライドを捨てるな!」
黒い瞳の男がそう言うと、ララを襲おうとしていた男が身を低くし頭を下げる。
「も、申し訳ございません」
「お前の気持ちはわかるが…俺たちは同じレベルになってはいけない、ここは俺がやる、お前は馬の世話を頼む」
「は、はい」
男は逃げるように洞窟を出て言った。
男が洞窟を出ていくのを見届けてから、黒い瞳の男はララの前にかがんだ。ララがビクンとし、少しでも離れようと動く。
黒い瞳の男はお構いなしにララの腕を掴みよせる。
「や」
思わず恐怖でララは声を出すが、男はララの腕の拘束を解き始めた。
ララは少し驚いた表情になる。
「食べろ、生き延びたければな」
ララは無理やり食事をした。
男の言う通り、食べなくては弱ってしまい逃げ延びるチャンスを逃すかもしれないと考えたからだ。
食べ終わると男はララの腕を再び拘束し、毛布をララにかけてくれた。
ララは出来るだけ彼らを刺激しないように大人しくしながら、彼らを観察する。
今ここには全部で6人の男達が居た。
この洞窟は隠れ家のようで、奥には生活用品が揃っている。
どうやらさっきララに手を出しかけた男がここを管理しているようだった。彼はこの場所を隠れ家として整備し、ララを誘拐してくる彼らを待っていたようだ。
ララ達を直接襲ったのは、その男を除く残りの5人だ。
彼らは、こんな隠れ家まで準備してずっとララを暗殺しようと狙っていたのだろうか?
いえ、違うわ
ララは馬に乗せられる前の事を思い出す。
ここにいる者達が来る前に、私たちは黒ずくめの連中に襲われた。
黒ずくめの男たちは容赦なくララ達を殺そうとしていたが…
この者たちは、一瞬、私達を助けてくれたように見えたわ。
ララは、奥にあるテーブルで食事をとりながら何かを打ち合わせる男達3人を見る。
今、残りの3人は外で見張りと馬の世話をしているようだ。
ララは、リーダと思われる黒髪で黒い瞳の男を見る。
20代前半? もしかしたら10代後半かも…
ララは男達の話を聞き取ろうとするが、どうやら術者がいるようで、これほど近くの距離でも声らしいものがかすかに聞こえるだけで内容は全く分からなかった。
あの男、殿下と呼ばれていた……
一体何者なの?
洞窟に着いてどのぐらいの時間がたったか分からないが、男たちは洞窟の入り口の所に見張りを置き、眠ってしまっている。
ララもしばらく眠ったふりをしていたが、男たちの寝息を聞き目を開けた。
この場所がどこか全く分からなかったが、人など来るはずもない森の奥なのだろうと思った。
なぜなら見張りも形だけで、今はすっかり眠ってしまっているし、ほとんど警戒をしていないように感じたからだ。
きっと、皇女であるララがこんな暗い森の中を逃げ出すとは、微塵も思ってないのだろう。
ララは半分だけ体を上げて、男達の様子をもう一度確認した。
起きている様子はない。ララは上半身を起こした。
ララは、拘束されている腕を見つめる。
そして、ララが目を大きく見開いた――
その瞬間、一瞬ララの緑の瞳が光を放ったように見え、同時に手を拘束していたロープがパラっと左右に分かれて下に落ちた。
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