第12話 ララ襲撃される
「賊だ! ララ皇女を逃がせ!!」
セイラに向かってジュードが叫びながら走って来た。
ジュードの後ろから走る騎士の何人かが、後ろから追いかけて来る黒ずくめの男を止める為に立ち止まり、黒ずくめの男達の方を向き剣を交える。
「ララ様!」
アンナとリタは慌ててララを立たせる。
後方の護衛騎士達をすり抜け走ってくる黒ずくめの男達に、ジュードとジュードに付き添っていた護衛たちが迎え撃つ。
ジュード達は1人も通さない勢いで黒ずくめの男を斬り倒し応戦するが、黒ずくめの男達の人数は予想以上に多かった。
セイラも走り寄ってジュードに加勢に入る。
「ここはいい! 皇女を」
ジュードは黒ずくめの男を斬りながらセイラに叫んだ。
セイラは温泉から上がって来たララ達の方に走り、ララ達を守るように立つ。
「一体、な、何者なの!?」
アンナは、誰も答えないと分かっていたが叫ぶ。
黒ずくめの男達の人数が多く、護衛騎士達が追い込まれてきているのは見てすぐに分かった。
「皇女! こちらに」
セイラがララを逃がす為に動く。
しかし騎士達の剣をすり抜けた黒ずくめの男がひとり、ララに向かって走って来た。セイラがその男を退けようと応戦する。
セイラの剣の腕は確かだが、力勝負になると勝てない。剣を交え、抑え込まれそうになり、セイラは念を込めて風を呼んだ。
突然突風が吹き、黒ずくめの男が風に吹き飛ばされた。
そのチャンスを逃さず、セイラはララ達を走らせる。
セイラは更に風を使って、ジュードの相手を吹き飛ばした。
「くそ! 風使いがいるのか!」
黒ずくめの男のひとりが叫ぶ。
アンナもリタも、ララを守るために必死だった。
ふらつくララを支え、敵の少ない方に引っ張る。
ララも必死でアンナとリタについて行った。
セイラは息を切らしはじめていた。
セイラの風では動きを鈍らせることは出来ても相手を倒せない。動きを鈍らせることで、騎士たちが何人かの黒ずくめの男達を倒したようだが、次から次に黒ずくめの男達はやってきて、きりがない状態だ。
黒ずくめの男のひとりがセイラの方に斬りかかって来た。セイラが男をよけきれないと思った瞬間に、ジュードが相手を斬る。
「大丈夫か!」
「ああ! すまん!」
男がひとりララの元に走ってくるのを見て、アンナが懐から小さな短剣を出してかまえる。
ギリギリの所で後ろからセイラが男を斬った。
アンナがほっとするが、もうセイラは息が上がっていて辛そうだ。
ララはそれを見て涙が出て来る。
わたしのせいだ!
わたしが、
セイラもジュードも諦めずに必死でララを守ろうとしていた。
そしてアンナとリタも、ララを庇って斬られることも厭わない、そんな気持ちでララを守っている。
あちこちで剣が交わる金属音が響く中、確実に黒ずくめの男たちはララに迫っていた。
黒ずくめの男が二人走ってくるのを、セイラとジュードが一人ずつ剣で止める。
しかし、その間をもう一人、黒ずくめの男が剣を向けながら、ララに向かって走り抜けてきた。
―――!
慌ててアンナとリタがララを守ろうとララの前に立ちはだかる。
ララ、アンナ、リタの3人は瞬間に目を瞑り心の中で叫ぶ。
斬られる――!
しかし、バサッと言う音がして目を開けると、目の前に黒ずくめの男が倒れていた。男の背中には矢が刺さっている。
ララ、アンナ、リタの3人は驚いて顔を上げ前を見る。
と、ひとりの騎士が馬に乗ったまま走って来て、セイラと闘っている黒ずくめの男を斬って倒した。
馬に乗って走って来た騎士は一人ではなかった。後方でも黒ずくめの男達と剣を交え、倒しているようだった。
しかし、その騎士達はサルドバルドの騎士でもエルドランドの騎士でもなさそうだ。
セイラを助けた後、男はララの方を見てララの傍に馬を寄せる。
ララはその男を見た。
フードの着いたマントを深くかぶっているが、黒い前髪が風で揺れているのが分かる。
男は黒い瞳でララの瞳を捉えた。それはとても冷たい瞳に見えた。
だが、ララは吸い込まれるような黒い瞳から目が離せない。
ララは無意識に男を見つめていた。
「な、何者ですか!?」
アンナがララの前に立ち、男に向かって言う。
ララもアンナの言葉でハッと我に返った。
男はアンナの言葉など無視し、ララの真横まで馬を進めると、いきなりララの腕を掴んだ。
「きゃ!」
乱暴に掴まれ、ララが悲鳴をあげる。
「何をするの!」
アンナが慌てて男の手からララを離そうとすると、男の仲間のひとりが馬から降りてきて、ララを守ろうとするセイラとアンナの腹を続けざまに殴った。
うっという声を出し、セイラとアンナがお腹に手を当てて膝をつく。それを見てリタが「きゃあ!」と驚いて声を上げる。男は声をあげたリタのお腹も殴ると、リタは気を失った。
「きゃあ! リタ!」
ララは驚き叫ぶ。その悲鳴に驚いてジュードがララの方を見た。
「ララ皇女!」
ジュードは叫ぶが、黒ずくめの男の相手をするのに精一杯でララの元にはいけない。
ララは男から離れようと手をほどこうとするが、アンナ達を殴った男に後ろから抱き上げられ、男の前に座る形で馬に乗せられてしまう。
「大人しくつかまってないと、落ちて死にますよ」
そう言った途端、黒い瞳の男が馬を走らせた。
ララの体が大きく揺れ、ララは反射的に馬のたてがみにしがみついた。
精霊石を付けた馬は、そのまま猛スピードでその場を離れた。
どのぐらい走っただろうか、いつの間にか馬はスピードを落とし、ゆっくりとした歩みになっていた。
しかしララはあまりの怖さに、顔を伏せたままで動けない。
ララは無意識に震え、自分でも分からないうちに泣いていた。
何が起こったのかララには全く分からず、頭は混乱している。
しばらくすると何頭かの馬が駆けて来る足音が聞こえてきた。
その馬達はララ達の横に来ると、速度を落とし並行して歩き始めたようだ。
「皇女さん、震えてますね」
横から男の声が聞こえてきた。
「遅かったな」
今度はララの頭の上から男の声が聞こえる。とても低い声だった。
「何者か分かったのか?」
男が話す度、ララは背中から男の声の響きを感じた。
そして自分がずぶぬれの下着姿であることを思い出し更に身を縮める。
「分からない、ただの強盗ではないと思います。俺たちと同じように皇女を狙ってたんでしょうが……あいつらは殺気立っていた」
ああ……やはりこの人たちは
ララは彼らの会話を聞き、絶望感に打ちのめされた。
この男たちは自分を助けたわけではないという事が確認できたからだ。
「追手は?」
頭上からの声。
「追ってこられるような状況じゃないので、大丈夫です」
横からの声。
「そうか、じゃあ、このまま計画通り進もう」
「はい」
そう言うと、また馬を猛スピードで走らせはじめた。
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