第11話 エルドランドを出発

「まいったな」

 暫くして、アーロンがナイフとフォークを置きつぶやいた。

 それから少し考えて、「あ~もう」と頭を抱える。


「我が婚約者殿がこれほど強い人とは思わなかった。何もできない深窓のご令嬢……皆がそう思っていたが、そうではないようだ」

 アーロンは溜息混じりに言う。

 そしてララを見て顔に笑みを浮かべる。


「万全の準備をして君をサルドバルドに戻すことにしよう」

 アーロンのその言葉を聞きララの顔が笑顔になった。



 決断した後は、アーロンもララも動きが早かった。

 ララ達は持って帰る品々を急いで準備し、騎士たちは道中必要な物資を調達した。

 アーロンは選りすぐりの騎士をララに付けようと、動いてくれた。

 アーロンは自分も一緒について来行くつもりだったが、流石にそうするには準備が間に合わず叶わなかった。



「5日待ってくれれば、一緒に行けるのだが……」

 アンナが淹れた紅茶を受け取りながらアーロンはララに言う。待てない事は承知だが言わずにはいられない。


「ごめんなさい、アーロン殿下。5日は待てないわ」

 ララは本当に申し訳なさそうに言う。アーロンは微笑みながらため息をついた。



 アーロンはなるべく優秀な騎士を、出来るだけ多くサルドバルドに同行させられるように動いてくれていた。


 エルドランド王も状況を理解し、その事について反対はしなかった。

 それどころか、アーロンの護衛騎士団だけでなく近衛からも何人か人を出してくれると言ってくれている。

 しかし、近衛の人員を動かすには準備に5日はかかるらしい。

 王直属の近衛兵を海外に出す為には、その前に休暇を与える必要がある等、色々とルールがあるようだった。


 結局、すぐに発てる3人の護衛騎士のみ先にララ達と出発することになり、アーロンと選抜した近衛兵達は、準備が出来次第ララを追って出発するという事になった。



 ~~*~~


「では、道中気を付けてください」

 アーロンは馬車に乗るララに心配そうに声をかける。

「はい」

 ララは微笑んで応える。


「サルドバルドに戻ってもすぐには動かないで、私を待ってくださいね」

「わかっております、無理はいたしません」

 そう言い、ララは馬車に乗り込んだ。続いてアンナが乗ろうとする。

 アーロンはアンナが馬車に乗るのを手伝う為に手を取りアンナを見た。

「アンナ嬢……どうか、あなたもお気をつけください」

「はい……ありがとうございます」

 アンナはアーロンの目を見て返事をする。

 アーロンはアンナが馬車の中に乗り込むのをサポートした。

 その後、リタとセイラも馬車に乗り込み、馬車は走り出した。



 ~~*~~


 エルドランドの王宮を出て8時間は経っただろうか、騎士のひとりが馬車の窓に寄って来た。セイラが気付いて窓を少し開け何かを話す。


 少し会話をした後、セイラは頷き窓を閉めた。


 セイラはララの方を見る。

「あと1時間程走った場所に温泉の湧いている場所があるそうです。予定より少し走ることになりますが、そこまで走って野宿しましょうとのことです」

 セイラがそう言うと、ララは柔らかい笑みを浮かべて頷いた。


 ララには周りの景色など見えていなかったし、野宿の場所など、どこでも良かった。ただただ、父王の事が心配で、サルドバルドで一体なにが起きているのか頭の中で色々考え続けていた。

 本当なら休憩など取らずに一気に帰りたいが、流石にそう言うわけにもいかない。温泉が少しでも先に進んだ場所にあるなら、ララに反対する理由はなかった。


 一体、誰が王に毒を盛ったのか……

 どうしてクーデターが起こりそうな状況になっているのか……


 ララはずっとそんなことを考えていた。



~~*~~


 馬車は目的の温泉が湧いている場所についた。


「ララ様、温泉につかりに行きましょう」

 食事を終え片付け終わった後、アンナとリタがララの着替えを持ってきて言う。

「すぐそこだそうですよ」


「私はいいわ、みんな行ってきて」

 ララがそう言うと、リタが「いいえ!」と言う。

「皇女が入った後、私達女が入り、その後で騎士たちが順に入ることになっていますから、順番を守らなければ困ります」

 リタはララに入らせようと大げさに言う。ララはくすっと笑った。


「分かったわ。参りましょう」



 温泉は池のようだった。

 少し湯気が立っているので温泉だと分かるが、知らなければただの池だと思うだろう。

 人が入りやすいように石を積んでいる箇所があるので、その傍に布を敷き着替えの服を置いた。


 セイラは手を剣にかけ、池と反対側を向き警戒を始める。

 もし覗こうとする男が居たら容赦なく斬るつもりだ。


 ララはアンナとリタに手伝われ、ドレスを脱いで薄い下着1枚になる。


 ララはリタとアンナに支えられながら足をお湯の中につけた。

 水面に映る月がふにゃりと揺れる。


「あら、ちょうどいいわ」

「温度は低めだそうですよ。入りやすいと言っていましたわ」

 リタが言う。


 ララは二人に支えられながらお湯に体を浸した。

 ちょうど座れるように石が置かれているので、ララがそこに座ると、リタがいつものようにララの肩をやさしくマッサージする。


 ララがほっとした気持ちで、美しい月を見た。

 星も沢山見える。


 綺麗な景色にララの気持ちがほぐれ、自然と口らか言葉が漏れる。

「気持ちいい……」

 その言葉を聞き、リタとアンナが微笑む。


「うわ!? 何者だ!?」

 突然、騎士の叫ぶような声が聞こえた。


 セイラ、アンナ、リタ、ララは、はっとして声の方を向く。


 騎士団長のジュード=モハンと数人の騎士が走って来るのが見えた。

「賊だ! ララ皇女を守るんだ! 皇女を逃がせ!!」


 セイラがシャンと音を鳴らして腰に差していた剣を抜いた。

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