第8話 皇帝からの密書
アンナはアーロンが長い手紙を読み終えるのをじっと黙って待った。
読み終えたのか、アーロンが手紙から目を離しアンナを見た。
「アンナ=リンドル伯爵令嬢! サルドバルドの皇帝は無事なのか!?」
「はい。今回は事無きを得ました」
アンナがそう言うと、アーロンはホッとした顔をする。
「なんということだ、あの噂は本当だったのか?」
「うわさ?」
アーロンが独り言のように言った言葉をアンナは聴き漏らさずに確認する。
アーロンはアンナを見て溜め息をつく。
「明日、ララ皇女に確認しようと思っていたんだ。最近、サルドバルド帝国の悪い噂を耳にする……それも一度や二度ではなく何人もの商人からだ」
アーロンの言葉を聞き、アンナは何かを言いかけたが、躊躇い、声に出来ずにアーロンの次の言葉を待つ。
「アンナ嬢、一体、サルドバルド帝国で何が起こっているのだ?
アーロンは直接的な言葉で質問をする。
アンナは一瞬目を逸らしたが、諦めたようにアーロンを見た。
「アーロン殿下がお聞きになった噂は、恐らくすべて事実です」
静かな声でアンナが言うと、アーロンが驚いてアンナを見る。
アンナは落ち着いた声で話を続ける。
「おそらくアーロン殿下は、ケール自治区に住む獣人族や市民が奴隷のような扱いを受けているという噂をお聞きになったのではないですか?そして、それを起因にケール自治区で、サルドバルド帝国に滅ぼされたケール王国の騎士の残党が帝国の転覆を狙っている…そういう噂をお聞きになったのでは?」
「そうだ、その通りだ。事実なのかアンナ嬢」
アーロンは声のトーンを落として聞く。
「はい。事実です。でも、噂にはない複雑な事情もあります」
「複雑な事情? それは、なんだ?」
「それを今からお話させていただきます。しかし……アーロン殿下にお願いがあります」
「お願い?」
「これらの事を、ララ皇女は何一つご存じありません。皇帝は、我が帝国の至宝と言われるララ皇女の無垢な笑顔を壊さないために、また、このまま安全にお過ごし頂く為に、全て伏せ続けることをお望みです。皇帝はララ皇女が色々と知ってしまう事で、ララ皇女も敵のターゲットになる事を懸念されています。今は……誰からも、何も知らない扱いやすい皇女としか思われていないでしょうから、わざわざリスクを
アンナは懇願するようにアーロンを見つめながら言った。
「もちろんだ。安心するがいいアンナ嬢。皇女の事も貴方の事も私が必ず守ると約束しよう」
~~*~~
「あの方が、サルドバルドの至宝と言われるララ皇女様!」
「本当に美しいわ」
朝からエルドランドの王宮では、ララを一目見ようと、メイドや騎士たちが遠巻きにウロウロしていた。
「すまないね……みんな、美しい君を一目見たいとはしゃいでいて」
朝食の場で少し恥ずかしそうにアーロンが言う。
「……いえ……大丈夫ですわ」
ララも恥ずかしさで顔を赤くしながら言う。
みんなに見られ過ぎて食事があまり喉を通らなかったが、歓迎してもらえていると思うとララは嬉しかった。
「夜には王が開催する式典があるんだけど、昼は時間がある。お忍びで街に出ようか?」
「え? いいの?」
アーロンの提案に、ララの顔が輝いた。
街は本当にお祭り一色だ。
広場では音楽が演奏され、沢山の人が歌ったり踊ったりしているし、大道芸人達を見てる人達もいる。みんな笑顔で楽しそうだ。
「あ、あれ、馬車の窓から見たわ!」
ララが嬉しそうに叫んだ。
並んでいる露店の一つに真っ白な雲のようなものを売っている店を見つけたのだ。
「ああ、コットンキャンディだよ」
「コットンキャンディ?」
「食べたことないの?」
「ないわ」
「ちょっと待っていて」
アーロンは露店に行き、コットンキャンディを2本買って戻ってくる。
そしてそれをララとアンナに渡した。
「わ、わたくしにも?」
「ええ。どうぞ、アンナ嬢」
「わぁ、甘い!甘くてすごくおいしい」
ララの顔が輝く。ララは騎士のセイラにも差し出す。
「いえ、私は何度も食べているので」
「え?そうなの」
「ええ、サルドバルドにもありますよ」
「知らなかったわ、私、街に出ることなんてないもの、こんなお祭りは初めてよ」
「喜んでもらえたみたいで良かったよ」
アーロンが嬉しそうに言った。
~~*~~
街で遊んだ後、王宮に戻り、ララは夜会の準備を始めた。
お風呂で体を清めた後、アーロンの用意してくれたドレスに着替える。
「さ、出来ましたわ、ララ様」
リタが満足そうな顔でそう言った。
「よくお似合いですよ、アーロン殿下のセンスは抜群ですね」
ララはリタに促され鏡を見る。
まるで自分でないぐらいに磨き上がった姿がそこにあった。
エルドランドで流行っているという、肩と腕が大きく露出しているボール・ガウン・ドレスがララの華奢な体を更に華奢に見せる。
そして、大き過ぎず小さくもない胸の膨らみが美しく強調され、ララの素晴らしいプロポーションがしっかりと確認できた。
「ちょっと恥ずかしいわね」
肩や胸元を気にしてララが照れたように言う。
「大丈夫。仕上げに、このロングケープを着ければ」
リタはそう言い、白のシースルーのケープを大事そうに持って来た。
首からデコルテにかけて美しい刺繍がされており、ダイヤと思しき宝石がいくつも散りばめられている豪奢なケープだ。
そのケープを身に着けると、一層ララの美しさが際立った。
シースルーでも、肩から何か羽織っているのといないのとでは安心感が全然違う。
ケープのおかげでララは少し安心できたのだった。
「アーロン殿下がいらっしゃいました」
アンナがララに声をかけた。
アーロンは部屋に入ると息をのむ。
「やあ……驚いた。さすが、サルドバルドの至宝だ。とても美しい」
アーロンの言葉にララが顔を赤らめたのだった。
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