第7話 エルドランド王国に到着

 ララ達一行はエルドランド王国の王都に入った。


 王都につくと馬車は地面に降りて、精霊石の力は使わずに街をゆっくりと走る。


 郊外から中心部に近づくにつれ、街は華やかに彩られてきた。

 王の在位30周年という記念行事の為、街中に飾りつけがされていて、どこもお祭りムードで活気に溢れていた。


 各国から観光客も沢山くるので、大通りには商売人たちが露店を沢山出していて、とても賑やかだ。


 馬車の中から、ララ達は活気ある街の様子を見て顔を輝かせていた。


「見て! アンナ、あれは何かしら!」

 ララは、市民が美味しそうに頬張る食べ物を見て嬉しそうに訊く。


「さあ、何でしょうか?」

 アンナも興味深々な様子だ。

「ねえ、私も食べたいわ!」

「い、いけません、ララ様!庶民の食べるものですから」

 リタが立場上たしなめる。

「同じ人間だもの、食べ物に庶民も貴族もないわよ」

 ララはそう言うが、リタを困らせるのも可哀そうなのでそれ以上は言わない。



 ララ達を乗せた馬車は城門を抜け、王宮までの道をゆっくりと進む。


 城門の中はカラフルな花で溢れていて、とても美しかった。

 ララ達は感心して庭を眺める。


「記念行事で力が入っているのでしょうが……素晴らしいですね」

 リタも感心したように言った。



 そうして庭を眺めている間に、馬車は王宮の前の庭に入た。

 突然、ラッパと太鼓の音が聞こえる。

 ララ達を歓迎するために準備されいたセレモニーのようだ。


 馬車道の両側に美しい近衛兵の制服を着た衛兵たちが揃い、ララ達を迎えてくれる。

 そしてララの乗った馬車が止まると、馬車のドアが開けられた。


「ようこそ、エルドランド王国へ、ララ皇女様」

 そこに立っていたのは、ララの婚約者エルドランド王国の第二皇子、アーロン=シュタインだった。



 ~~*~~


「素晴らしいお庭ですね」

 渡り廊下を歩きながら、ララはアーロンに言う。

「気に入って頂けたようで良かったです」

 アーロンはララの歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら、ララが滞在する迎賓館まで案内してくれた。


「さあ、ここがララ皇女が使う館です」

 アーロンが案内した場所は小さいながらも豪奢な建物で、賓客を迎える為の建物だとすぐに分かった。


「ここに私たちが? 宜しいの?」

「もちろん」


「でも、他の国の王様や貴族の方々は……」

「ご心配には及びません。ちゃんと別の迎賓館を準備していますから。ここは……ララ皇女様の為に私が準備した館ですから」


 笑顔でアーロンがそう言うと、ララの頬が少し赤くなる。

「ありがとうございます」


「従者達の部屋もありますし、アンナ伯爵令嬢のお部屋もありますよ。メイドを手配してますので、アンナ嬢もゆっくりなさって下さい」

「お気遣い、痛み入ります」

 アンナが頭を少し下げ、嬉しそうに顔を赤らめて礼を言った。


「ララ様、長旅でお疲れでしょう。今日はゆっくりとお休みください。今夜は夕食もこちらのダイニングに運ばせます。明日、朝食をご一緒しましょう」

 アーロンはララの顔を見つめながら優しい声で言う。


「はい、アーロン殿下」

 ララが返事をすると、アーロンはララの手の甲に軽くキスしてから、「皇女を部屋に」と、傍に控えるメイド達に言いララから離れる。


 ララがメイド達に案内され、その場から移動する姿をアーロンはしばらく見つめた後、その場を去ろうと踵を返した。


「お送り致します」

 アンナがアーロンに頭を下げて言う。


「いや、アンナ嬢も疲れているだろう? 部屋に入って休むといい」

「いえ、送らせてください」

 アンナは顔を上げ、強い意思を乗せた視線をアーロンに向けた。


 アーロンは少し驚いたようにアンナの瞳を見返す。

 アーロンにもアンナの瞳の奥の意思がなんとか伝わったようだ。


「では、アンナ = リンドル伯爵令嬢……見送りをお願いします」

 アーロンはそう言い、歩き出した。



 ~~*~~


 アンナはアーロンから一歩下がった所を歩いていた。


「……」

 アーロンがそれとなくアンナを確認すると、アンナはアーロンに付き添う側近たちの様子を伺っているようだった。


 アーロンはパッと立ち止まる。そして声を上げた。

「そうだ!」

 いきなりの声に、アンナを含めた全員が驚いてアーロンを見る。

 アーロンは微笑んでアンナの方を見た。


「すぐそこに温室があるんです。ララ皇女が退屈した時など、そちらに案内して差し上げてください」

「え?」

 アーロンの言葉にアンナは一瞬驚くが、はい、と返事をする。


「こちらです」

 アーロンは渡り廊下から庭に降り、庭の奥に向かって歩き始める。

 アンナとアーロンの護衛騎士がついて行こうと動いた瞬間に、アーロンは騎士達の方を見て制した。


「お前たちはここで待て、すぐ戻る」

 アーロンがそう言うと、護衛騎士の二人は顔を見合わせた後、黙って頭を下げた。


 アーロンは庭の奥に向かって歩き、アンナがその後ろに続いた。


「素晴らしい温室ですね」

 アンナが温室に入り、目を見張る。

「我が国にもこれほどの温室はございませんわ」


「そうだろう?自慢の温室だからな。世界中の珍しい植物を植えている」

「本当にすばらしいですね」


「で? 私に何か話があるのだろう?」

 見慣れない木の葉に手をやっていたアンナにアーロンが言う。

 アンナは、木の葉から手を離し、アーロンの方を向いた。


「ウィリアム=ハイムズ陛下より手紙を預かっております」

 アンナは頭を下げながら言う。

「手紙?」

 アーロンは不思議そうな顔をする。


「ただの手紙ではないのか?人払いが必要ということは」

「はい」


 そう言いながらアンナは後ろを向くと、自分の胸元から服の中に手を入れる。

 アーロンは少し驚いて照れながらすぐに後ろを向いた。


「失礼いたしました。預かったのはこの3通で、1通はアーロン様宛、もう1通はエルドランド王に、最後の1通はララ様宛です」

 アンナが差し出した手紙をアーロンは受け取り、宛名を確認する。


「アーロン様とエルドランド王に宛てた手紙は、ほぼ同じ内容だそうです。どうぞ、今お読みください」

「え? 今?」

「はい」

 アンナの返事を聞き、アーロンは自分宛ての手紙の封を破り手紙を広げ、読み始める。


「!」

 内容を見てアーロンの表情は険しくなった。

 そして貪るように手紙を読んだ。

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