第5話 高速馬車の旅
朝、日が昇るとすぐにララ達一行はエルドランド王国に向けて出立した。
通常、馬車だと10日ほどかかってしまう行程だか、高級精霊石を馬に付けることで、3日で着くらしい。
精霊石を付けた馬達は、地面から足が浮いて飛んでるような形で走る。
勿論、人の乗る箱部分や荷台にも精霊石が着けられていて、同行している精霊使いによって浮くようにコントロールされている。
5メートルぐらい浮いているので、道を歩く者と接触する心配もなく、精霊石と精霊使いによって馬車は揺れもなく、旅は実に快適なものだ。
ララは精霊石を着けた高速馬車に乗るのは始めてで、少し興奮気味だった。
「ホントに早いのね! 全然揺れないし!」
「左様でございますね」
ララの斜め向かいに座るリタがほんの少し怖そうに外を見ながら言う。
「大丈夫ですよ、リタさん」
ララの護衛騎士の1人、セイラが横に座るリタの様子を見て少し笑いながら言う。
セイラは、今回随行している護衛騎士の紅一点。女と言えども風使いであり、剣の腕も確かだ。セイラはララの護衛騎士として普段からララを守っていて、ララからの信頼も厚い。
そして、ララが信頼を寄せる友人でもある侍女のアンナがララの横に座り、はしゃぐララを微笑んで見ている。
「アンナは慣れているのね」
落ち着いた様子のアンナにララが言う。
「はい。子供の頃は、父に連れられてあちこち行きましたから」
「そうなのね! 羨ましい。私もあちこち旅をしてみたいわ!」
~~*~~
夜は、ララを馬車で寝かせて、他の者は外で野宿だった。
ララは、皆も中で寝るように言ったが、広いとはいえ皇女の寝床を奪えないと、3人とも辞退して外で護衛騎士たちと休む。
ララを寝かした後、3人の女たちは大きな木の下に陣取った。
調理担当の護衛騎士が持ってきてくれたお茶とお菓子をつまみながら女同士、楽しくおしゃべりに花を咲かせる。
「はあ、しかし、皇女は本当に子供のようだな。無邪気に笑う姿が可愛い」
胡坐をかいて男のように座る女騎士のセイラが微笑みながら言う。
その言葉を訊き、アンナが少し憂いを帯びた微笑みを返した。
セイラはそんなアンナを見て心配そうな顔になった。
「……出発の時から気になっていたんだが……アンナ、何か心配事でもあるのか?」
セイラとリタは、自分たちの間に姿勢よく座っているアンナの方を見る。
アンナは、両方の手で膝の上のカップを包むように持ち、少し考えるような顔をしてから二人の顔を交互に見た。
「陛下は……皇女のあの無邪気な微笑みを消したくないと考えておられます」
アンナのいきなりの言葉に、セイラとリタが不思議そうに顔を見合わす。
「私も陛下と同じ気持ちでいますが、あなた方はどうですか?」
アンナは真剣な顔を二人に向けた。
セイラとリタはアンナの顔を見てただ事ではない何かを感じ、姿勢を正す。
「そんなこと、聞くまでもないだろう? 一体何を言いたいんだ?」
セイラはアンナに聞く。
アンナは少し周りを見る。セイラとリタも同じように周りを見回した。
「大丈夫だ。誰もいないぞ」
セイラはアンナの気持ちを察するように言う。アンナはその言葉に頷き、そして口を開いた。
「まず、お二人に謝罪の言葉を伝えるようにと、陛下から言われています」
アンナの言葉に、二人は驚き思わず声を出す。
「へ、陛下が謝罪!?」
「しっ!」
アンナが指を口にあて、二人に声を落とすように示す。
セイラとリタは、はっとして周りを見る。
「どういうことだ? 謝罪とは?」
セイラが声を落としてアンナに聞く。
「……この事を私と陛下が話したのも昨夜で出発直前でしたが、あなた方に話すのは出発後の今になりました。陛下はそのことを大変気にしておられ、私も今まで黙っていた事、申し訳ないと思っています」
アンナの言葉に、ふたりは訳が分からないと言う顔をする。
「でも、お二人には、私と共に……私と共に、皇女の傍で皇女を守って欲しいのです」
言いながら涙目になって来たアンナを見て、二人はまた不思議そうに顔を見合わせた。
「いや、そりゃ、頼まれなくったってそうするけどさ、どういう事?」
頭をかきながらセイラが聞く。アンナは涙をこぼす。
「明日、わたしたちは国境を越えてエルドランド王国に入ります。そしたらもう…、もう、サルドバルド帝国には戻れないと、そう覚悟をしてください」
アンナの言葉に、セイラとリタは絶句した。
「そして今から話す内容は、ララ皇女には絶対に気付かれないようにする必要があります。皇女の……無垢な笑顔の為に」
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