第4話 出発前夜

 ララがエルドランド王国に行く事になり、準備で更に城は活気づいた。


 ウィリアムの体調も寝室で報告を受けるぐらいなら支障はないくらいに回復し、皆を安心させた。


 ララの周りの者は、祝賀パーティでララを一番美しく着飾る為のドレスやら宝石を必死になって準備している。


 また護衛騎士と兵士の入れ替えも手配され、持って行く物の変更や、馬車などが再手配された。


「ララ様、精霊石はどのぐらい持って行きますか?」

 アンナがテーブルにいくつかの箱を出して、訊く。

「そうねぇ、その箱の分を持って行こうかしら」

 ララがひとつの箱を指さした。

「小さな巾着に入れて持ち歩くわ。あとちょっとした買い物が出来るように金貨や銀貨も巾着にいくらか入れておいて、アンナも持っておいてね」

「かしこまりました」


「皇女様! アーロン殿下から早便です!」

 メイドが封筒を持ってララの元に走って来た。


 早便とは、精霊石を付けた鳩を使って送る手紙のことだ。大体1日あれば着くので、とても便利だ。


 ララは受け取った手紙を開いてみる。ララの顔がほころんだ。

「アーロン殿下はなんと?」

 ララの表情を見て、微笑みながらアンナが聞く。


「ドレスや宝石は何も持ってこなくて良いって書いているわ。アーロン殿下がプレゼントとして準備しているからって」

 少し照れたようにララが言う。

「ふふ、お優しい方ですね」

 アンナがそう言うと、ララはとっても明るい笑みを見せた。



 ~~*~~


「お父様、起きていらして大丈夫ですの?」

 ララは、机に座っている父を見て驚いて言う。


「ああ、このぐらいは大丈夫だよ。まったく、みんなして私を年寄り扱いだね」

 ウィリアムは手に持っていた書類にサインして側近の一人に渡す。


「まったく、一体誰がお父様にお仕事を? わたくしが叱ってさしあげますわ!」

 ぷくっと膨れた顔をしたララをみてウィリアムが笑う。


「もうこれで終わりだよ」

 そう言い、ウィリアムは席を立ち、ソファーに移った。


「出発の準備は終わったのか?」

 そう言いながら、ウィリアムは手でララにもソファーに座るように促す。

「はい、すべて準備できました。明日は朝が早いので今日のうちにご挨拶をと」

 返事をしながらララはソファーに腰かける。


「そうか」

 ウィリアムは前に出されたお茶のカップに口をつける。


「気をつけて……行ってきなさい。アーロン殿や、エルドランド王によくのだよ」

「? はい、お父様」

 ララは、父の言葉遣いに少し違和感があると思ったが、それほど気にせずに返事する。


「エルドランド王の正妃は大変素晴らしい人だと聞く、また王太子も立派だそうだから、きっとお前の事を受け入れて可愛がってくれるだろう」


「ええ、王妃様や王太子様には以前もお会いして、優しくしていただきましたわ。だから大丈夫です」

 ララがそう言うと、ウィリアムは優しく微笑んだ。


「今日は早めに食事して、早く休みなさい」

「ええ、お父様」

 そう言いララは席を立ち、そして何かを思い出して父の方を見る。


「そうだお父様、お土産は何がいいかしら?」

「土産?」

「ええ、買って来るわ」


「はは、何もいらないよ、ララが元気ならそれでいい」

「もう、お父様ってば」


「さあ、さあ、もう行きなさい」

 ウィリアムがそう言うと、ララはお辞儀をし、その場を離れようとする。


「あ、アンナ嬢」


 ララと共に部屋を出ようとしていたアンナにウィリアムが声をかけた。

 アンナは立ち止まり、ウィリアムの方を向き少し頭を下げる。


「はい、陛下」

「すまないが、夜、私の部屋に手紙を取りに来てくれないか?」

「手紙……ですか?」


「ああ。私の方から、あちらに詫び状を書いておこうと思う。それをアンナ嬢から直接渡してほしいのだ」

「はい、かしこまりました。夕食の後、取りにまいります」




 夕食後、明日は朝が早いという事で、ララは早めに眠りについた。

 ララが休んだ後、アンナは皇帝の私室に手紙を受け取りに向かう。


「遅い時間に来てもらって申し訳なかったね」

「いえ」


 ウィリアムはアンナにソファーに座るように促す。

「あ、いえ、とんでもございません。お手紙を頂いたらすぐ戻りますので」

 アンナはウィリアム皇帝の前で緊張して言う。


「話しておきたいことがあるんだ、アンナ伯爵令嬢」

 そう言うと、ウィリアムは手でメイド達に外に出るように合図する。合図に従いメイド達はささっと廊下に出て行った。


「エバンズ、サムエル、誰も近づけるな」

 部屋を出ようとする執事と側近の事務官にウィリアムが言う。

「承知しました。外で見張ります」

 サムエルがそう言った。


 アンナはただならぬ雰囲気に緊張し、唾をのむ。


「座って欲しい、アンナ伯爵令嬢」

 ウィリアムは自らの手でアンナの為に置いたカップにお茶を注ぎながら言う。

 緊張しながらアンナは皇帝の前のソファーに座った。


「アンナ伯爵令嬢、君はララの良い友人という認識であっているか?」

 ウィリアム皇帝がアンナに訊く。

 アンナは質問の意図を図りかねながらも「はい」と答えた。


「では、君はララの為なら命を投げ出してくれるだろうか?」

 ウィリアム皇帝の言葉に、アンナは驚いた顔を向けた。


「アンナ伯爵令嬢、君にお願いしたいことがある。しかし、もし君が、ララの為に命をかけられないのであれば、ここで話は終わりだ」


 ウィリアム皇帝の言葉に、アンナは困惑した顔になった。

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