[7] 噂話

 講習会後、近所の居酒屋で飲み会。

 以前からの知り合いの清掃業やってるスズキくんと、それから最近駆除業を始めたばかりだという行円さんと、ビール飲みつつ焼鳥食べつつでくだらない噂話に興じる。


 スズキくんのところは仕事が丁寧で評判がいい。被害者遺族への対応もしっかりしてる。多分だけれどマニュアルがきちんと定まっているのだろう。あと新人教育もばっちりやってるイメージ。もし仮に僕も身内がゾンビになったら後始末は彼のところに任せたい。

 行円さんは本職は坊さんというなんとも珍しい人だった。昨今のゾンビ流行の世の中で自分にできることは何かと考えた末、駆除業に参入したという。感覚としては寺に保育園併設してるのと同じだと語ってたがいやいやだいぶ違うやろと正直思った。


 最初に話題に上がったのはゾンビに水攻めは通用するのかという話。

 講習会では火攻めは難しいということだったが、じゃあ逆に水攻めはどうなのか。結論を先に言ってしまうと火攻めよりさらに有効でないだろうというところに落ち着いた。

 例えば山間の村がゾンビに占拠されたとする。

 村ごとダムに沈めることでゾンビを全滅させる計画をたてる。ゾンビの接触した水が清潔かどうかはこの際考えないものとする。いろいろがばがばだが酔っぱらいの考えることなんてそんなものだ。


 問題はこれで1匹残らず確実にゾンビを駆除できたかということだ。

 ゾンビも呼吸しているから空気を断てば行動不能に追い込める。けれどもゾンビは作りが単純な分、人間より無呼吸行動時間が長いとされている。なんと幅50Mはある川の川底を歩いて渡ったというような記録もあるぐらいだ。ダムに沈めたぐらいではちょっと心もとない。

 ちなみに海を渡ったゾンビの話は聞いたことない。公式な記録では今のところ確認できないと思う。


 ゾンビの能力は人間であった時と比べれば決して高くはない。

 だがしかし侮ってはいけない。彼らは時として驚くほどの力を発揮することがある。

 人間は身体が本来持っている力を脳によって規制しているとはよく聞く話だ。その枷が外れた時、思った以上の能力が出せる、いわゆる火事場のバカ力。

 ゾンビは常時そのリミッターが外れている。彼らの機構にはそもそもセーフティなどというものがついていない。自身の肉体が壊れることを厭わずこちらに突進してくる。

 抑えつけたはずのゾンビに逆襲された、という話はプロアマ問わず多い。油断は禁物。


 近々、駆除業者を対象に銃火器の使用について議論が始まるらしい。

 まあ1年ほど前からそんなような話はあってようやく動き出すのかといったところでもある。いやまたそのまま立ち消えになってしまう可能性はあるけど。

 海外ではとっくに解禁されている。ゾンビは体が脆くなっているから彼らに対してはゴム弾で十分なんだそうだ。You Tubeなんて見たら一般の人がばしばし撃ってる動画が見つかる。

 日本ではどうだろうか。許可が出たところで規制規制でかなり面倒な気がする。1発使用するたびに手続きがどうこうで、場所によってはそもそも使ってはいけないとかなんとか。

 正直あんまり期待していない。個人的には当面の間、さすまた&鈍器で間に合わせるつもり。


 スーパーゾンビバスターなる新兵器を売り込みに来る業者がいるそうだ。うちには来てない。

 なんでもゾンビにだけ効果のある特殊な電波を発生させる装置で、それを起動することで半径100Mに存在するゾンビは自壊を始めるのだという。なんだそれはめっちゃすごい。

 そんなもんがあったら商売あがったりである。駆除業者なんて一瞬にして成り立たなくなってしまう。

 X国の秘密研究機関が開発しただのなんだのもっともらしい口上をつけているが、まちがいなくインチキ商品だ。いつの時代も危機に乗じてうさんくさいものを売りつけてくる輩は現れる。これもその類だろう。

 まさか会社の仲間で騙されるやつはいるはずもないが親類の方はどうか。ちょっと心配だ。そのうちに電話かけてそれとなく注意しとくことにしよう。


 X国と言えばゾンビを捕獲して研究しているという話がある。そのぐらいならやっていてもおかしくはないと思う。けれどもそれにしては成果が上がっていない。

 海外ならそもそもゾンビはY国が生み出した生物兵器だという話もある。ただしさすがにこっちの話は、当のY国がゾンビによって打撃を受けているのだから、眉唾と思って差し支えあるまい。

 現状、世界で足並みそろえてゾンビに関する研究が進んでいるとは言いがたい。当初はゾンビに対する人類統一戦線なんてものが叫ばれたが、今ではそんなものとんと聞かない。

 ゾンビのおかげで一時は止まっていた地域紛争も再開したという。なんというかゾンビはそこまでの敵ではなかった。各々対処すればそれで十分な、そのぐらいの敵でしかなかったということだ。


 ゾンビたちが社会生活を営んでいる島があるらしい。場所はオセアニナのあたり。

 人間たちが残したものを利用してゾンビたちがゾンビたちだけで暮らしている。ゾンビの楽園。

 ゾンビには記憶は残っていない。人格なんてもちろん消え果ている。ゾンビになった人たちは過去を忘れてゾンビなりに楽しく生きているんだそうだ。

 うめき声でもってゾンビはゾンビ同士でコミュニケーションをとっているという説は前々からある。ただし「肉がある」とか「押すな」とかその程度の単純な意味合いしかないようだ。

 やつらは生殖行為を行うのだろうか。全然考えたこともなかった。恐らくだけどそうした欲望を持っていないんじゃないかと思う。そういう気配がない。

 終盤はずいぶんと酔っていたから記憶がぐちゃぐちゃなのは許せ。

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