第112話 屋根裏部屋より
「うげ、赤色はやばい! 反撃があった!」
「青は普通にダメージ与えられてる?」
「なんか通りが悪い気も……」
青い装備の六人が守護人形という名のガーディアンと戦っている。二組のパーティで声を出し合うが苦戦中だった。
『赤オーラは攻撃を受けると周囲にダメージを発生させてる』
『集団で囲むと危険ですね』
『青オーラは攻撃を受けると各守護人形に回復効果を発生させてる』
『逃げて様子を見るのが正解でしょうか』
一足遅れてやってきた相手陣営の戦いを情報収集に、屋根裏の隙間から覗き見る。部屋全体へ広がるため詳細に把握できた。
『すげーなこれ。完全に丸見えだ』
『忍者屋敷をイメージしています』
『紅ちゃん! うちのホームにも隠し部屋を作ろう!』
『考えとく』
卑怯なほど有利に立ち回れるけれど、他の拠点でも同じことが言える。積極的な利用で貢献すべきだ。
『一定時間で赤と青、無色が切り替わってる。でもランダム』
『無色のタイミングに攻撃を合わせないといけませんね』
『赤と青に変わったら無色を狙いに行く感じかー』
『ターゲットが厄介』
『今、守護人形がプレイヤーを見失ったような……?』
『どこどこ?』
『……確認した。障害物で視線が遮られたときの動き。特殊な視覚感知』
視線に入ると襲ってくるタイプなのはすぐに分かる。それに加え、家具で身が隠れると角を二つ曲がっただけでターゲットが外れた。
効率的な攻略を目指すなら、オーラの有無を見極めて移動する手間が必要だ。問題は三十体もの数がうろつくこと。密集地帯へ逃げると挟まれて窮地に陥る。
『外では両陣営の数パーティで小競り合いが起き始めたでござる』
偵察に出てくれているコヨミさんから報告が入った。
『加勢しますか?』
全ての守護人形が倒されるまでに時間はかかりそうだ。こちらが味方を増やせれば多少の遅れは問題ない。
『拠点を先に取る。そっちのほうが楽しい』
『その通り!』
『やろう!』
紅さんの言葉が力強い。そして、楽しいを優先する姿勢は望むところ。
『分かりました。まずは下で戦っている青陣営のプレイヤーを倒しましょう』
守護人形と入り乱れるのは相打ちになりかねない。なるべく落ち着いた状況を作るのが攻略の近道。パーティの戦力は十分だ。
『では、拙者も正面からこっそり不意打ちを狙うでござる』
『自分たちは隠し部屋の回転扉を使います』
事前に用意した屋根裏とつながる構造も実装されている。丁寧な仕事に感謝だった。
『ナカノは待機』
『え?』
『下の部屋に回復魔法が届く距離。見えてれば大丈夫』
『なるほど……』
そこまで考えていなかったが、ヒーラーの待機場所には適していた。
『守護人形の位置もわかる。指示出しよろしく』
『……はい』
任せてくださいと軽く応じるのが難しい重要な役割だ。紅さん、レモンさん、カンペさんの三人を見送り気合を入れる。
『入口近くにヒーラーが二人いて、ダメージを受けたメンバーが回復に戻る形です』
『そちらは拙者が受け持つでござる。小さいピンを地図にお願いします』
地図にはパーティメンバーへ位置を知らせる機能がある。大と小のピンが存在し、小さい方は地図を開かなければ見れないものの打てる数が十個ほど。大きい方は地図を開かずに向きを見れる代わりに打てる数は一個だった。
『小さいピンを二つ打ちました』
『了解でござる!』
『わたしたちは端から部屋に入る?』
『そうですね。大きいピンで安全な位置を示します』
コヨミさんは、例え守護人形と出会っても余裕を持って逃げられるはず。紅さんたちをメインに指示を出すことにする。
『壁は押すだけ?』
『横に手を当てれば中心を軸に……』
『回った』
部屋に入ってきたのが見える。
『分かれて倒す?』
『いえ、まとまって一人ずつ相手をする形がいいと思います』
『了解』
個別への指示を正確にできる自信はなく、守護人形の動きも複雑だ。焦らず堅実に。ピンで誘導しタイミングを窺う。
『ヒーラーが孤立したら合図よろしく』
『よーし、攻撃全開!』
『一人目は瞬殺かなー』
『こちらも、合流を阻止しながら仕留めるでござる』
頼もしいパーティにプレッシャーが和らいだ。自分が行うのは回復と位置を知らせるだけ。直接戦うみんなに比べ安全な場所だ、と考えを改める。
青陣営の相手も守護人形の仕掛けに対応を始めた。同時に生まれる集中と慣れはチャンス。各プレイヤーを観察し、ここだというところで声をかける。
『前衛が全員ヒーラーから離れました』
『行く』
四人が一斉に物陰を飛び出す。
「ぎゃー! 片っぽのヒーラーがやられた!」
コヨミさんの動きが最も早く、何かのスキルを絡めた短剣の連続攻撃が決まった。自分も狙われると呆気なく落ちるのは明らか。周りに敵味方が混在するイベントだ。気をつけよう。
「こんなときに敵かよ! こっちに走れ!」
「げげ、身のこなしが忍者すぎてむりー!」
「え! 例のやつ?! 忍者どこ?! まさかおじも?!」
いつもの鎧姿でも忍者だと認識できている。装備に関わらず目立つのか、慌て方が大きかった。
「おい! 前衛もやられてるって!」
「集まれ! 人形を巻き込んで盾にしろ!」
「くっそ! 入口だ入口!」
紅さんたち三人も最初の標的を沈めた。次の標的に続く道を急ぎピンで示す。今、守護人形を連れて来られるのは避けたい。
「やべー! 紅だー!」
さすがは有名人。また一層の声が上がって、それに比例するやられっぷりだった。
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