第113話 守護人形の仕掛け

「ひー!」


 やはり、戦闘中の不意打ちは圧倒的な有利に持ち込めた。ほぼ反撃を受けずに青陣営の二パーティを退けることに成功だ。


『喜びたいところですが、拠点の占拠を急ぎましょう』


『わかった』


 外での小競り合いがどちらに転んでも大丈夫なよう、時間をかけずに楽しみの一つ、ガーディアン戦を始める。


『ピンで色がない守護人形の位置を示します』


 四人に合わせてピンを動かし目の前まで誘導する。まずはコヨミさんが短剣を当てて反対側に飛び、続けて紅さんが守護人形の背中へ大剣を振り下ろした。


 スケルトンの集団を相手に見せた連携が決まる。さらにレモンさんとカンペさんが加わりダメージを与えた。


『レモンとカンペは挑発スキルを使わなくていい。回復もナカノに任せる』


『攻撃しまくるんだな!』


『やるよー!』


 ガーディアンという存在だけあって体力ゲージの減りが鈍い。先行で青陣営が戦っていた分を合わせても、中々に大変な作業だ。


 反撃の頻度は一般的なモンスターよりも遅い。魔導書があれば、回復魔法が遅れることはなかった。


『次の標的に移動します』


『了解でござる!』


 近くの守護人形の色が変わったのを見て新たにピンを打つ。避けるべきは攻撃中の色変わり。ダメージと回復効果の発生はどちらも台無しになりかねない。余裕を持って移動してもらう。


 障害物の利用でターゲットを振り切り導くと、四人はすぐに攻撃を始めた。信用されているのが分かって気合が入る。


 守護人形は動き続けるので、油断は禁物。周囲の変化に注意を払いつつ次の標的を探し、ルートを選ぶ。上からの眺めも相まってパズルに思えてきた。


 徐々に慣れてくるけれど、それも屋根裏部屋のおかげ。障害物で視界が悪い状況だと難易度は遥かに高くなるだろう。


 少しでもダメージを稼ぐためペットを参戦させる。隙間を使って出し入れできる飼育管は便利だった。


『お、変なのとカラスがきた』


『自分のペットです』


『キュル助殿とクロ蔵殿でござるな』


『キュル助? うーん……どこかで聞いた名前だね』


 初回イベントでのニックネームが頭の片隅に残るのか、レモンさんが疑問を口にする。


『よくある名前です』


 頑なに隠さなくてもいいのだが。つい適当に答えてしまった。


『よくはない』


 紅さんにまで突っ込まれながら、ピンを打って話をそらす。ペットの操作は増えるが慌てずにみんなを導いた。


 守護人形の数が減れば移動が楽になっていく。何体かを集中的に、タイミングを見極めてダメージを与える。


『くー、ナカノっちの指示で安定するけどな。体力が多い!』


『紅ちゃんの超火力で手こずるなんてね』



《ガーディアンは居合わせた人数で強化されるようだ。上限が不明瞭なのを踏まえ、手前の拠点は少ない戦力で占拠を行う。本隊は中央へ進み青陣営と取り合う形に変更する》



『何やら新しい情報が出たでござるな』


『これで最弱ってマジ?』


『実際、反撃は控えめかー』


 おそらく、守護人形の場合は大勢で挑むと単純に混乱や事故が多発する。とはいえ、もう数パーティいてくれると楽になる印象だった。拠点ごとに推奨人数が設定されているのかもしれない。


『気合で倒す』


 紅さんに力が入ったのは動きで分かる。ヒーラーも自ら攻撃に参加するぐらいが、占拠には役立ちそうだ。魔導書で殴りつけるのはあんまりなので、投擲用のアイテムを手に入れたかった。


『さあ、そろそろ一体目の体力ゲージが底をつくでござるよ!』


 何度かの集中攻撃により第一歩が見えてくる。仕掛けを避けるのが効率的な戦い方なのか、若干不安になる。


 例えば赤色の周囲にダメージを発生させる効果で同士討ちが狙えるなど。そんな要素が隠れている可能性はあった。


『おりゃ! やったか?』


『よーし、この勢いで全部やっちゃうよ!』


 難しい取り組みについて考える最中に守護人形が倒れる。その際に特別な出来事は起こらず……?


『紫色の個体が現れました』


『ほほう?』


 このタイミングは怪しすぎる。しかし、密集地帯で向かうには障害が多かった。


『コヨミさん、試しに一撃お願いできますか?』


『お任せを!』


『小さいピンを打ちました。気をつけてください』


 是非とも確かめておきたく回復でサポートする。コヨミさんは、さすがの身軽さですぐに標的の元へたどり着いた。


『いくでござるよ!』


 念のため、紅さんたち三人には離れて待ってもらう。そして、紫色の個体へすれ違いざまに短剣が当たった。


『ふむ、拙者は無事ですが……?』


『守護人形の体力が減った』


 紅さんの一言にターゲットを切り替えて調べてみると、今まで近づいてもない個体の体力が僅かに減っていた。


『全ての守護人形にダメージが及んでいます』


『おお! ボーナスタイムきた!?』


 プレイヤーに恩恵がある仕掛けは助かる。短時間の攻略に活路が見えた。


『わたしも行く?』


『お願いします。ただ、他の守護人形が集まっている場所です。レモンさんとカンペさんはサポートに回ってください』


『聖騎士見習いの本領発揮!』


『おっけー』


 多少の危険を覚悟して誘導する。回復への専念にペットを退避させて魔導書に魔法をストックした。


『ほっと。安全な位置へ連れ出すのは厳しいでござるな』


 紅さんたちが合流し攻撃を始める。


『姉貴は後ろ行って!』


『かんちゃんはそっち任せた!』


 受けるダメージは増えるが、守護人形を引きつけ盾でしのぐ二人が頼もしい。パーティメンバー全員が回復するコネクトヒールで済み、予想より対応に余裕が生まれた。


『っとと? 色がなくなったでござる』


 ボーナスは時間切れ。囲まれる位置を抜けて体勢を立て直してもらう。


『次はスキルを温存。初動を早める』


 注力すべき瞬間が分かれば与し易い。


「ガーディアンを連れてこい!」


 もう一息、と思ったところで大きな声が聞こえ、入口から青い装備を着た数人が走り込んできた。


「追え追え!」


 その後ろには赤い装備を着たプレイヤーが三パーティほど続く。外での戦いはこちらの陣営が押して、相手が逃げてきた形らしい。


『間に合わなかった』


 紅さんが残念そうに呟く。イベント全体を考えれば嘆かなくてもいいのだが、気持ちはよく分かった。

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