第111話 辺境の里
『紅ちゃんの誘いを断ったってホント?!』
『それは紅騎士団員の所属人数に気後れしてしまい……』
『あー、ちょっとわかるかも。おれも挨拶しかしたことない人たちが多いし。お嬢はみんな覚えてんの?』
『当然』
『さっき考えてる風じゃなかった?』
『装備が違うから』
『あたしもかんちゃんも、髪が暗めのブラウンだしね』
『ピンクとかに変える?』
『ゲームだと逆にメジャーでしょ。メッシュとかヘアスタイルで差をつけるとかさ』
『拙者によいアイデアがあるでござる。忍を志せば一味違う自分を演出できます!』
『聖騎士忍者……唯一無二感はあるねー』
『その組み合わせってあり?』
『盾役と考えれば忍も中々の働きぶりを見せるでござるよ』
『たぶん回避に徹されると厄介』
『紅ちゃんのお墨付きが出た。紅騎士団の忍者筆頭、デスコちゃんに弟子入りしようかな』
『スキルがカツカツにならん?』
両陣営の城が地図上で離れているため、移動中も警戒心は控えめに会話が弾む。
《まずは中央手前の拠点を占拠し復活ポイントに変える。ガーディアンは物量で押し切る予定だが、万が一に備えて各パーティのリーダーは後方で待機してほしい》
赤陣営専用の全体チャットも流れ始めた。ちらほらと周りに集団を離れて動くパーティもいて、お祭り感が増す。
『これうちのサブマス?』
チャット主の名前は隠されており、誰かは正確に把握できない。気軽に発言を行える形だ。
『うん、シュヴァちゃんでしょ。お城のベースが紅騎士団のホームだし。他ギルドの人たちは音頭を取るの遠慮しちゃうか』
シュヴァちゃんは自分が知るシュヴァルツさんで合っているのだろうか。
『誰が指示を出しても従うけどな。別に姉貴がやったっていいし』
『モブ一号じゃ混乱を招くだけだから。こういうのはビカビカなカリスマが引っ張るものなの』
『ナカノやる?』
『自分にはとても……』
さすがに、イベントの熱を受けやってみようと手を上げるにはハードルが高い。説得力を持たせる自信はなかった。
『ナカノ殿なら立派な指揮官になるでござるよ!』
コヨミさんの方が向いてると思うけれど。忍者らしさが基本なのを考えると、報告に奔走する姿がとても似合う。
『お嬢がパーティのリーダーを任せるんだもんな。やっぱりナカノっちはただ者じゃなかった』
『至って、普通のプレイヤーですよ』
新鮮な呼ばれ方で若干戸惑いつつ返答する。
『謙遜がナカのんの得意技かー』
レモンさんとカンペさんが姉弟なのは空気感で伝わった。紅さんとシュヴァルツさんも同じだが、一緒にゲームを遊ぶ関係性は微笑ましい。
『紅ちゃんとの出会いはクエスト? あたしたちはそうだったよね』
『レイド戦をやったなー』
『自分は初回のイベントでした』
『でかいの倒した』
『おれがすぐに死んだやつ! 二人とも最後に残ってたんだ』
『わたしはランキング二位』
『まさかナカノっち!』
『いえ、自分はそんな……』
キュル助の名前を使い参加登録したので、言わなければ分からないはず。紅さんよりランキングが上だった、イコール実力者だと思われそうで素直に伝えづらい。
知ってるコヨミさんが笑顔を作るなか、はぐらかして進むことしばらく。畑が連なるエリアが見えてきた。
作物が育っていたならのどかな風景と言えるが。木製のバリケードや板が斜めに立てかけられている。物見やぐらもあるし戦場さながらの様相だ。
『辺境の里に到着でござる!』
『このアレンジも迫力があっていいですね』
遠くに森が広がり、その前に武家屋敷スタイルの壁が続く。規模はともかく各ロケーションはバッチリ。ここが回復代行結社のホームか。
『これってどこのギルドホームだろ』
『ナカノ殿がリーダーを務めるギルドでござるな』
『そうなの?! さすが紅ちゃんを上回ったナカのん』
『それは語弊が……』
『前のイベントで人気なとこは回ったけど。手が入ってるからかピンとこないなー』
名前を出すと、また勘違いを生むので再びはぐらかし畑を越えた。壁の真ん中に城よりは控えめな門が構える。くぐった先は見事な庭園で驚きしかなかった。
『おわー! ザ・日本だ!』
『すごいじゃん!』
『ほほう、このレベルに整備できれば万々歳でござるな』
まさに目指すべきが詰まっている。風情ある岩と灯籠に始まり、池には石橋がかかっていた。
『いいね』
音を鳴らすししおどしなどアイテムは多いが、散らかった印象とは正反対。落ち着いた空間でスクリーンショットに収める手が止まらない。
『戦って荒らすのは惜しいですね』
『絵になる、と取ることもできるでござるよ』
言われてみると確かに。余裕があればカメラマンを兼任したい。
庭園の奥に建つ平屋敷は木々に囲まれて枝葉が上にかかる。大きさに圧倒されながら入口の戸を開けると一つの広い部屋が現れた。
『うわ、なんじゃこりゃ……!』
和箪笥や棚、机といった家具類が乱雑にこれでもかと置かれている。床は畳みも剥がれる荒れ具合。元の小さな部屋が方向性プラスアルファで拡張された形だ。
『外との違いがすごいね』
『イベント用の試行錯誤が反映されています』
『あれ』
中に入ろうとしたところで紅さんが指で示す。家具の隙間から見えたのは木製の人形だった。
『かなりの数ですね』
『通ってきた洞窟ではスケルトンでしたが、こちらでは木製人形でござるか』
『よっしゃ、早くやっちゃおう!』
『待ってください』
赤と青のオーラをまとう個体がいる。何か仕掛けがあるのは明らかだ。
『少し様子を見てもいいかもしれません』
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