第110話 パーティー増し増し

「何か問題ですか?」


 紅さんに応じて木の側へ行く。相変わらず表情からは考えが読めなかった。


「パーティー空いてる?」


「はい、二人なので空いてはいます」


「入れて」


「え……?」


 大所帯を率いるリーダーがなぜ、と疑問が浮かぶ。


「拙者は歓迎でござるよ」


 一方でコヨミさんが普通に受け入れる。もちろん、断る理由はないためパーティへの勧誘をするが……。


『よろしく』


『よろしくでござる!』


『よろしくお願いします』


 頼もしいが紅騎士団のメンバーと一緒にいなくていいのだろうか。


『先に集団を離れて拠点の一つ、辺境の里へ向かう予定なんですが』


『ついていく』


『では……出発、しますか?』


『うん』


 シュヴァルツさんが探していたのに反応が軽い。色々と聞きたいことを横に移動を始める。


『先ほど、紅殿の名前を呼んでいた方がいましたよ。何かあったでござるか?』


 後々タイミングがあれば、と思ったところにコヨミさんがいきなりの直球を投げた。意外と人付き合いは、これぐらい踏み込むのが正解なのかもしれない。


『めんどくさかった』


『ほほう?』


『わたしが指示を出せって』


『トップギルドのリーダーですからね。みんな頼りにするのでござるよ』


『何も考えずに戦いたい』


『気持ちは非常にわかります。拙者もナカノ殿に任せてばかりでござる』


『今日は頼んだ』


『……』


 そんな調子よく肩を叩かれても。紅さんを差し置いて自分が方針を決めるのか。不安なうえに、赤陣営の重要な戦力。下手に動くのはマイナスだった。


 とはいえ、ギルドの所属人数的に頼まれる事柄は多いはず。たまには羽を伸ばしてもらおう。勝ち負け以上に、イベントを楽しめるかどうかも大事だ。


『前々回もパーティは二人?』


『そうですね』


 あの時は幸運が重なったおかげで、競り勝つことができた。


『やるね』


『ナカノ殿のナイス作戦でござった』


『いえ、コヨミさんの支えがあってこそです』


『ナイスチームワーク』


 パーティメンバーに紅さんが加わってもいつも通り。肩ひじを張らず先へ進み、岩場のエリアに入った。


『炎霊花の洞窟、と地図上では表示されています』


『洞窟型の拠点でござるか』


『占拠する?』


『城から近い場所は同じ陣営の味方に頼りましょう』


『わかった』


 説明のガーディアンを含め観光に見て回るのは我慢する。なるべく迷惑をかけない範囲で単独行動をしたい。


 岩場は高い壁に囲まれた道が伸びる。いくつも穴が開いており、全てが洞窟になっていた。


『中のどこかが拠点としての機能を持ちそうでござる』


 城同様に広いなら、復活場所に選ぶと迷子は確実。無暗にうろつかず素直に誰かへ聞くのが一番か。


「やべー!」


「ちょっと、置いてくな!」


 叫び声が聞こえて立ち止まる。念のため魔導書を構えると、コヨミさんと紅さんが前に出てくれた。


「ひー!」


 透明化なしに待つところへ、剣と盾を持つ二人組が洞窟から出てくる。装備は赤い。体力は安全圏なので回復は必要なかった。


「あ、仲間! ヘールプ!」


「お任せを!」


 後ろに続くのはスケルトンの集団だ。まずはコヨミさんが短剣を複数体に当てながら走り抜ける。攻撃によってターゲットが切り替わり、相手の足並みが乱れた。そこへ紅さんが大剣を豪快に振るってなぎ倒す。


 ダメージ量が初撃を上回り再びターゲットが移ると、背後へ素早い短剣の振りが当たる。息の合った連携で自分の出番がないまま、全てのスケルトンが沈黙した。


 パーティを組んですぐの見事な戦い。実力者はアドリブ的に対応できるのか。


「おー! 抜群のコンビネーション、ってお嬢?」


「紅ちゃんだ!」


 どうやら知り合いらしい。紅さんは右へ首を傾げた後に左へ首を傾げ、元に戻った。


「姉弟の人たち」


「おれらのこと覚えてくれてた?」


「あたしのことを覚えてたんだって」


「レモンとカンペ」


 紹介を受けてこちらも名乗る。紅騎士団に所属する二人で、号令がかかる前に拠点を落としにきたのだとか。


「やっぱ手柄を立てたいし」


「でもリッチっぽいのがいてスケルトンが大量湧きだよ」


「ふむ、ガーディアンでござるな。多数で戦うのを想定しているのでしょうか」


「お嬢がいれば勝てる! 一緒に行こう!」


「ダメ。他の拠点に用がある」


「他かー。だったら、おれたちもついてこっかな」


「かんちゃん、それは迷惑。たぶん青陣営を出し抜くマル秘作戦だって」


「姉貴は行きたくないわけ?」


「行きたいけど?」


 二人が紅さんを見て、紅さんは自分を見る。流れでコヨミさんを見ると親指を上げるジェスチャーが返ってきた。


「よければ、パーティーに入りますか?」


「入る入る!」


「いいの?!」


 人数が多いに越したことはない。このイベントは色々なプレイヤーと関わった方が有利に進む。


「二人は攻撃と回復の両方にスキルを振るタイプ。程々にほっといても平気」


「目指せ聖騎士!」


「今は中途半端だけど。大器晩成型だよね」


 そんな役割もあるのか。ヒーラーにとっては助かる存在だ。自分の場合はキュル助とクロ蔵のサポートを受けて、回復に専念するのが精一杯だった。


 勧誘を二人へ飛ばし、賑やかさが一気に増したメンバーで先を急ぐ。


「そういえば、ギルドチャットでお嬢を探してたっけ」


「無視でいい」


「敵を欺くにはまず味方からかー」


 紅騎士団には規律があるイメージを持っていたけれど。レモンさんとカンペさんは、いかにも自由奔放だ。それぞれの楽しみを優先できる環境なのだろう。


 他ギルドの空気感を知れるのは面白い。ただ、シュヴァルツさんには後で一言謝罪しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る