第108話 攻城戦イベント

≪三十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



 ギルドホームで縁側へ座って簡単に整えた庭を眺める。植物を植えて池を作っただけでも雰囲気が出た。



≪二十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



 いよいよの開始にも緊張はない。屋根裏部屋に加えて隠し部屋をなんとか形にできた。どう使われるかが楽しみだ。



≪十秒後にイベント専用エリアに転送されます≫



「始まるでござるよ!」


 隣でコヨミさんが気合十分に立ち上がる。自分も立って最後に深呼吸をした。今回は参加者が二つのチームに分かれるということで、協力が大事になりそうだった。



≪イベント専用エリアに転送します≫



 浮遊感が身体を通り抜ける。ホームの景色が切り替わると草原が広がって、周りに次々とプレイヤーが現れ出す。あっという間に囲まれて喧噪が生まれた。


『これはこれは、いきなり大勢のみなさまにお会いしたでござるな』


『おそらく同じチームの方々ですね』


 パーティ用のチャットで会話をして混乱を防ぐ。自分たちを含め赤色で統一された姿なので分かりやすかった。


『まるで足軽でござる』


 和風をベースにファンタジー要素が組み込まれているけれど、何かと問われれば足軽だ。仲間かをひと目で判別可能にするイベント用装備か。


 コヨミさんの着こなしが様になるのに対し、自分は不格好に感じる。敗残兵、いや落ち武者一歩手前で、ある意味似合っているのかもしれないが。


「なんじゃこの装備……」


「かっこいい、か?」


「武器はどこだよ」


 アイテム欄を開くとポーションなどがなく、キュル助とクロ蔵が入る飼育管だけだ。


『ふむ、武器やアイテム類は調達して挑むイベントでしょうか』


『こちらは飼育管を持っていました』


『調教はペットが本体ですから。スキルによっては持ち込みを許される、といったところでござるな。残念ながら拙者の新しい愛刀の出番は持ち越しです』


「見ろよあれ!」


「うわ、エグすぎ……」


「あんなん作れんの?」


 一部で上がった声に周りを確認すると小高い丘に、赤い旗が目立つ西洋風の巨大な城が建っていた。ロケーションと門の形には覚えがある。紅騎士団のギルドホームだ。


「うちって、あそこまで完成されてたか?」


「めっちゃ盛られてるな」


「イベント仕様っぽい」


 聞こえた声から察するに、色々と手が入った状態らしい。


『魔改造でござるか。拙者たちのホームも早く見たいですね!』


『一層、楽しみが増えました』


 しばらく運営のメッセージがなく、皆が自然に舗装された坂道を上がっていく。もはや何人いるのかも分からない。相手側も同じ数となると大規模な戦いだった。


「マジでわちゃわちゃにやるやつか」


「さすがにこの数は他ゲーでも珍しいレベル」


「バランスよりお祭り感優先かな」


 あちらこちらの盛り上がりは、まさにお祭りだ。頂上付近へ進むと巨大な門が待ち構える。以前にはなかった扉があり、別に鉄格子のような構造を持っていた。


『落とし格子と呼ばれるものですね。圧巻でござる』


『打ち破れるイメージが湧きません……』


 攻城戦というからには攻め落とし合うのだろう。いくら攻撃を与えたところで、と諦めが先にきた。


『こちらは我々の守るべき城なのでしょうが。きっと相手にも堅牢な城があるでござるよ』


 それはそれで、ぜひとも訪ねておきたい。門を眺めて自分ができることを考えていると、落とし格子が上にスライドする。続けて金属で補強された木製の扉が開いて中に入れた。


 まずは広場で壁につながる見張り塔が睨みを利かせる。高台もあって迎撃に適していた。


 正面にはまた城壁が立ち塞がり通路が伸びる。その先も少し開けた空間で坂道がカーブした。途中の岐路を確認すると礼拝堂で行き止まりだ。


『攻められた際は身を潜めて背後を狙えるでござるな』


『全体像の把握が必要ですね』


 戻ってもう一方を進むと木が中央に植えられた中庭が現れる。以降は屋内で本棚が並ぶ部屋、長テーブルと暖炉がある部屋、木箱やタルが積まれた部屋など、初見では迷路でしかなかった。


「やべー、めっちゃ広くね?」


「じゃなきゃ人が多すぎて身動きとれんし」


「守る箇所が多いな」


 いつの間にか侵入を許す展開はあり得る。そして、赤いカーペットの奥に空の椅子が置かれた部屋に行きついた。玉座や謁見の間といった趣だ。


「誰もおらんのかい」


「いかにもな場所なのにね」


「ん? 奥にまだ階段があるぞ」


 響く声にぞろぞろとプレイヤーが移動する。階段の先は屋上でかなり広いうえに、剣や槍が地面に突き刺さって荒れていた。


「なんだあいつ?」


「でっかいのがいるな」


「モンスターっぽいが……」


 赤い法衣に杖と魔導書を左右の手に持った、身長三メートルほどの巨人が真ん中に立つ。頭部がタコで触手が口周りから生える異様な姿だ。ターゲットの名称はキング・オブ・レッドだった。



≪イベントのルール説明を行います≫



 急なシステムメッセージに、シンと静かになる。



≪あなたは赤の陣営です≫


-相手陣営のキング討伐を目指しましょう。


-各地の拠点を占拠することで復活とワープができるようになります。


-拠点のガーディアンを討伐後に一定時間、自陣営のプレイヤーのみがエリア内に留まれば占拠は完了です。


-簡単な武器やアイテムは自陣営の城で揃えられます。また、死亡に伴いイベント開始時に所持していたアイテム以外は消失します。


-各拠点に素材の採取場所が存在するため、生産を活用し戦闘を有利に進めてください。


-相手陣営のプレイヤーを倒す、拠点の占拠、採取物の納品によって貢献ポイントを得られます。


-貢献ポイントは自陣営の城で様々なアイテムと交換が可能です。


-パーティの組み換えは現在より三十分間限定で行えます。


-パーティリーダーはパーティメンバーの復活場所になりますが、戦闘中と城内ではできません。


-復活までの時間は状況により前後するので、お気をつけください。


≪イベントのルール説明は以上です。皆さまのご健闘をお祈りします≫

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