第107話 準備にペット遊び

 金属を叩く音や木を切る音がギルドホームの森に響く。コヨミさんと二人、お互いの声が届く距離で生産を行う。会話が途切れてから流れる無言の間も、特別気にはならなかった。


「キュル? キュルル?」


 時折、キュル助とクロ蔵が興味を示したように寄ってくる。つい作業の手を止めるため効率は多少落ちるが、モチベーションは上がった。


 ホームの充実を楽しみに没頭する時間が苦にならないとはいえ、何事も続けば飽きにつながる。自分のペースをいい意味で乱してくれる存在はありがたい。


「来たでござるな、クロ蔵殿!」


「クカー!」


「勝負でござる!」


 不意の声に視線を向けた先で、コヨミさんが木の板を持って構える。そこへクロ蔵がくちばしを用い、勢いよくつつき出した。



――カッ! カカカカカッ!



 軽快な音が鳴り響く。また面白いことをやり始めたらしい。しばらくリズムは止まらず、自然にクロ蔵が満足したのか飛び去った。


 そして、見せられた木の板にはかなりの傷がついていた。アイテムを食べなくても通常攻撃で力になってくれそうだ。


「熟練度の上昇で使えるようになった新素材ですが、クロ蔵殿には敵わないでござるな」


「木の板でそんな遊び方ができるんですね」


「ふっふっふ、実はペットや環境生物用のアイテムでござる!」


 へえ、と気の抜けた声が漏れる。ペットの遊び道具があるのは新たな発見だ。色々な生産スキルに手を伸ばしたくなる情報だけれど、それこそ頼りにすればよかった。


 コヨミさんも積極的にキュル助やクロ蔵と戯れている。戦闘以外の要素で活躍する場が増えたのも、ホームがあってこそか。


「中央を軸に回る扉は間もなくかと!」


「こちらも目立たないネジがもうすぐ作れます」


「おお! 忍者屋敷に一歩前進でござるな!」


 着々と目標に向かって動くのが生産の醍醐味だ。誰かと一緒にやることでより楽しくもなった。


 再び作業に戻りレシピを選んでいると、いつの間にかコヨミさんが隣にいた。さすが忍者。まったく気づかなかった。


「あのですね、例の件で少々お話がありまして……」


 例のとは、で悩むのも一瞬。こう畏まるのは、おそらくゲーム機のレンタル話だ。


「ギルドメニューの連絡版を見ていただけますか?」


 メニューを開いて連絡版の項目を探し選択すると、シンプルなチャット画面が現れた。そこには一枚の画像が貼りつけられている。手の平にキュル助の頭がちょこんと乗って……?


「フェルトのアクセサリー兼、置物です」


「なるほど……」


 と言ってみたものの。木工のスキルで作れるタイプではないし、マーケット品の可能性が高い。なぜ連絡版という場所で……?


「あ、現実のアイテムになります!」


「そうなんですか?」


 ゲームがリアルなせいで勘違いをしてしまった。


「実は生徒二人が作った物です。ナカノさんさえ良ければ定期的に人形などを渡す形で、レンタル費用の代わりにさせてもらえたらと考えています。もちろん素人の拙さはあるんですが、プロのお手伝い経験を持つので一定のクオリティは保たれています」


 よく見ると精巧なのが分かる。とても素人が作ったようには見えなかった。


「これなら交換でも……」


「いえ、生徒自身の線引きにレンタルでお願いします」


 現実でキュル助のグッズは売っておらず、手に入るのであればぜひとの気持ちが強い。ただ、教師としてコヨミさんのお兄さんが注意すべき事柄もあるのだろう。


 何もこちらの主張を無理に聞いてもらう必要はない。DAOの存在を知ってくれるだけで十分、と思う反面、熱中ゆえに悪影響を与える心配も少しあった。


「分かりました。DAOのグッズは欲しかったところで、自分からもお願いします」


「ありがとうございます!」


 元々、コヨミさんのプライベートな話を聞いて先走った部分はある。いい形で話がまとまるのが一番だ。


「個人的な事情でお手間を取らせました。ではでは! イベントに向けて頑張るでござる!」


「はい、頑張りましょう」


 上がった手に自分も応じる。いつ始まっても悔いが残らないよう、毎日が準備期間最後のつもりで取り組もう。




 ◇




【DAO】総合スレPart196


754 名前:名無しの古代人

    イベントの告知きたんだな


755 名前:名無しの古代人

    いつも通りの週末開催

    予想はできてた


756 名前:名無しの古代人

    やっぱ詳細は控えめだ


757 名前:名無しの古代人

    参加者は自動的にチーム振り分け?


758 名前:名無しの古代人

    赤と青で別れるって

    運動会かよ


759 名前:名無しの古代人

    まんま赤白でよかったのに


760 名前:名無しの古代人

    攻城戦なら攻めと守りか?


761 名前:名無しの古代人

    一日で終わるタイプっぽいしな

    時間内に攻め落とし合うんじゃ


762 名前:名無しの古代人

    報酬は参加者全員にだけど

    勝ち負けで変わるってさ


763 名前:名無しの古代人

    配布数が多いなら性能は抑えめだろう


764 名前:名無しの古代人

    記念品かも


765 名前:名無しの古代人

    イベントアイテムは入手したい

    初期勢アピールに使えるし


766 名前:名無しの古代人

    そういう系は欲しいよね


767 名前:名無しの古代人

    途中で逃すとどうでもよくなりがち


768 名前:名無しの古代人

    引退理由にならん?

    ログボみたいに


769 名前:名無しの古代人

    そこは復刻で解決


770 名前:名無しの古代人

    初期勢が愉悦できなくなるんだが?


771 名前:名無しの古代人

    みんな気が早い

    サービス開始からひと月経ってないぞ


772 名前:名無しの古代人

    ギルド所属者は全員同じチームなんだよな


773 名前:名無しの古代人

    紅騎士団といぶし銀は分かれるか


774 名前:名無しの古代人

    紅が青に行ったら色的に面白い


775 名前:名無しの古代人

    そこは運営も気を利かせそう

    いぶし銀が青ってイメージもないが


776 名前:名無しの古代人

    まあギルド主導にはなるな


777 名前:名無しの古代人

    ボッチ勢は金魚のフンってこと


778 名前:名無しの古代人

    まとめ役は必要だ

    チームである以上はね


779 名前:名無しの古代人

    変に責任は負いたくないし

    どうぞどうぞって感じ


780 名前:名無しの古代人

    ギルドホームの扱いはまだ謎


781 名前:名無しの古代人

    やっぱフィールドに散りばめられるとか?


782 名前:名無しの古代人

    この期間じゃな

    城になれるほどの発展は見込めないし


783 名前:名無しの古代人

    全ホームがキメラ合体すればワンチャン


784 名前:名無しの古代人

    ギルドホームロボきたこれ

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