第293話 騎士達への挨拶
王の道を西へと進んだ町の外れに、今は天幕がいくつも張られていた。
篝火と、人々のざわめきが熱気を帯びたように流れてくる。
「おや?僕のお姫様じゃないかー!」
早速、目敏く見つけたジェレイドが走って来て、マリアローゼを高く抱き上げた。
「レイ様、猪討伐お疲れ様でした。皆様にもご挨拶をしたいと思って参りましたの」
「うんうん、僕の天使は今日も尊いなあ!」
言いつつも、広場の中央へ向かったジェレイドに、カンナとユリアとルーナも続く。
「傾注!!」
誰かがそういうと、思い思いに過ごしていた騎士達が、直立してジェレイドに注目した。
「さて、紹介しよう。君達がこれから仕える、公爵家のお姫様であり、僕の天使であり、世界の至宝だ!!」
挨拶しにくいですわ。
その酷い口上は止めて欲しかった、とマリアローゼは心の中で涙を流した。
マリアローゼはジェレイドの腕から降ろしてもらい、ふわりとスカートをつまんで居並ぶ騎士達へ向けて優雅にお辞儀をした。
「マリアローゼでございます。皆様、旅の疲れの中、獣害を起こした猪討伐をご苦労様でございました。わたくしからも感謝を申し上げます」
笑顔で言うマリアローゼに、騎士達は破顔した。
「な?天使だろう?女神だろう?」
ふんぞり返るジェレイドに、騎士達の声がかけられる。
「本当ですね。ジェレイド様に似てないです」
「人の皮を被った悪魔がいう天使は、普通の人間かと思ったけど、天使でしたね」
「少しはジェレイド様も見習うといいんじゃないですか?」
割と辛辣な言葉が飛び交ったので、マリアローゼも苦笑してジェレイドを見上げた。
「そうだろう、そうだろう」
自分への批判は一切聞こえていないらしい。
「そういうとこなんですよね」
とユリアの呆れたようなぼやきに、マリアローゼも心の中で賛同する。
毎回何を言い出すか分からないし、大抵恥ずかしい褒め言葉なので、マリアローゼは色々な意味で被弾するのだが、ジェレイド本人は批判されていても何処吹く風だ。
「宿までは私がお送り致します」
討伐隊に参加していたグランスが進み出て、マリアローゼは笑顔で頷いて抱っこし易いように小さな両手を挙げた。
微笑みを返しつつ抱き上げたグランスの肩に、ジェレイドがぽんと手を乗せた。
「頼んだよ。ローゼ、また明日」
髪に何度かキスを降らせてから、ジェレイドが微笑んだ。
「はい。レイ様。お休みなさいませ」
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