第294話 髭が気になるお嬢様
明くる日、食事を終えて窓の外を見ると、人々が宿屋の目の前の街道に集まってきていた。
ざわめく声が部屋まで聞こえてきて、マリアローゼは背後のシルヴァインを振り返って尋ねる。
「お兄様、道に沢山人が集まってますけれど、何かございますの?」
問いかけに、シルヴァインはふふっと笑みを零した。
「美しいお姫様を見たいんだよ」
姫ではないし、寧ろ王子様のような姿をしている兄が目当てなのでは。
マリアローゼは美しく微笑むシルヴァインにジト目を向けた。
昨日も宿に戻って来た時に、一階の待合所で待っていたシルヴァイン目当てに村の娘達が外に集まっていたのだ。
貴族の泊まる高級宿は、硝子もふんだんに使われているので、外からの見通しも良いのである。
それに、テレビや雑誌と言う媒体がないこの世界では立派な娯楽の部類に入るのかもしれない。
「では何かお祭りと言うわけではなくて、お見送りなのでございますね」
少なくとも、獣害の被害から町を守った騎士団と町に立ち寄って食糧なども買い込むフィロソフィ公爵家は、感謝もされているし歓迎されるのかもしれない。
マリアローゼはこくん、とうなずいて、鮮やかな青色のドレスを翻して、ルーナの元へと戻った。
昨日の件もあるし、あの賑やかな見送りの件もあって、今日は通常のお出かけ用ドレスに身を包んでいる。
旅装にしては華美だが、たった一日の移動なので問題はないのだろう。
「もう用意は出来ていまして?」
「はい。全て馬車に積んで御座います。後は何時もの荷物だけです」
ルーナがいつも手にしている、マリアローゼの大事な物が詰まっている手荷物を見せた。
その中にはいつもの品…傷薬に、大事な置物達やお菓子が入っている。
「では参りましょうか、ルーナ」
「はい、お嬢様」
二人は連れ立って居間に戻ると、兄や母達と共に1階へ降りていく。
我先にと外に飛び出し、馬車に乗り込んでいく双子に続いて、兄と母が順々に乗り込んでいくのをマリアローゼは見守っていた。
街道に集まった人々は、皆嬉しそうににこにこを笑顔を浮かべて、こちらを見ている。
その最中、男の甲高い声が響き渡った。
「誰か、その汚い餓鬼を止めろ!馬車に近づけるな!」
叫んだのは細い髭を空に反らせた独特な風貌で、豪華な衣装に豪華な杖を装備している。
重力に反する細い髭は、何かで固めているのかしら?
思わずマリアローゼはその髭に注意を持っていかれた。
「きゃあ!」
次に聞こえたのは女性の悲鳴で、続けて坊や!と呼びかける声が遠くから聞こえた。
見れば、ちょこちょこと覚束ない足取りの小さな子供が、片手に花を持ってマリアローゼの元へと歩いて来ていた。
近くにいる人々は、猛然と近づく細髭と母親の叫び声に気を取られていて、動きを止めてこちらを見ている。
「ノクス、あの子に危害が及ばないようにお願いします」
「仰せの通りに」
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