第292話 その色は勘違いをする

ぺこりとお辞儀をして、備え付けの衣装箪笥にきちんと吊り下げられた衣装の中から、一着を取り出して、ルーナはベッドの端にドレスを置く。

空色の布地に、金糸の薔薇の縫い取りがあり、白いレースやフリルが沢山ついている一着だった。


これは……アルベルト殿下を勘違いさせそうなドレス・・・!


この国でも婚約者や恋人の瞳の色や髪の色のドレスを身に纏うという慣例は存在した。

更に言えば、公爵家にはそれぞれ特殊な製法の色が与えられていて、近い色を使うことは出来ても、

同じ色を他の貴族が着ることは許されていない。

それが理由で、結婚や婚約を機にその色のドレスを身に纏う事が、地位と関係性の証となるのだ。


マリアローゼが「袖を通していないドレスがあるのは勿体無い」というような貧乏性な発言をしたせいで、この勘違いドレスを早目に着せてしまおうとルーナも思ったのかもしれない。


「ありがとう、ルーナ。お着替え致しましょう」


着替えも終わり、丁寧に髪を梳かれてリボンを編みこまれている最中に、闇が降りつつある窓の外を見ると、ぽつぽつと松明の灯りが町へ向かっているのが見えて、マリアローゼは目を瞬いた。


「あの灯りは何かしら?何か事件でもございましたの?」

「あれはですねーグランスさんも参加されてるんですが、向こうの方にある森に住む猪を狩りに行ったんですよ。

ここ最近獣害が酷いという事で農家の皆さんが困っていてですね」


獣害、それは現代でも起きていた獣による農作物への深刻な被害である。


でもそういう依頼は冒険者に依頼するのでは?


こてん、と首を傾げると、カンナが補足してくれた。


「こういう依頼は結構面倒なんです。被害に合うのが全員ではないし、獣が出る度に依頼もしていられないので…それにあまり安いと引き受ける冒険者もいませんし。この街道沿いは公爵家の通り道なので、兵の入れ替え時期についでに討伐してるそうです。今回は突発のようですけれど」

「まあ、そうでしたのね。それで、騎士の皆様はどちらに居られるのでしょう?」


人口は多いとはいえ、王都ほどの都市ではないので、宿泊施設もそこまで多くは無い。

今回領地から来た騎士は精鋭100人と言われているので、泊まれない事はなさそうなのだが、

往来する旅人や冒険者達もいるので、難しいだろう。


「町の外れに野営地が用意されていて、そこで休むようです」

「では、そこに参りましょう」


ふんす、と立ち上がったマリアローゼに、カンナが微笑んで立ち上がる。

カンナの愛するお嬢様は下々の者へも敬意と謝意を忘れないのだ。

ルーナも心得たように、いつもの手荷物鞄を手に取った。



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