第239話 長兄の悪巧み
昼食を終える頃には、ルーナも厳選した刺繍の本を数冊持ってきてくれて、
修練から戻ったカンナとユリアに加えて、シルヴァインも部屋にやって来た。
「聞きたい事があるって聞いたけど?」
とシルヴァインが、長椅子に座りながら問いかけるので、マリアローゼはルーナが伝えてくれたのかしら?と思い当たって、シルヴァインに頷き返す。
「お兄様は来年から学校に通われると思うのですが、聖シリウス学園に行かれますの?」
「いや?行かないよ」
やはり、行かないのか。
では、その間は…?
マリアローゼの不思議そうな顔を見て、シルヴァインは笑顔を見せた。
「王都の学院に通うよ。14迄はね。15からは向こうに行かなきゃいけないけど」
「そうなのですか…他のお兄様達も?」
「だろうね。人数が増えるのは高等院になってからだし、教育機関としては王都の方が優れているし、何より」
そこで言葉を止めたシルヴァインが、手を伸ばしてマリアローゼの頬をふにふにと撫でた。
「君から遠く離れる気はない」
「えっ、じゃあ……」
まさか、マリアローゼが12歳になったら、聖シリウスに連れて行かれるのだろうか。
「うん。流石に勘がいいな、ローゼは。俺はそうしたいと思ってるけど、父上と母上が反対しそうではある。まあ、それはその時になったら、兄弟と両親の戦争になると思って」
「嫌ですわ。そんな、家族で争うだなんて」
「そうだねえ。俺も嫌だなあ」
にこにこ笑うシルヴァインは、全く心を込めずに言葉を発している。
「絶対思ってない…」
とユリアの呟きが聞こえた。
マリアローゼもそれには賛同する。
「それに、社交期間もね。女性ならまだお茶会だの何だの、社交優先でもいいけれど、俺は正直面倒だし、社交をするならするでガッツリしたい。だから、年、数回で済む特別な事をしようかと思ってるよ」
どんな事をするのだろう?
マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
「それは、令嬢達との婚約話から逃げ回る事でして?」
「まあ、それは否めないね」
ふむふむ、とマリアローゼは頷いた。
「公爵家以上は男子しか同年代が居ないのを利用して、集会なさるのでしょうか?」
「ふふ。大した糸口もなく良く思いつくなぁ」
それは、記憶が戻った時に一番にその事に気づいたからですわ!とは言えずに、
マリアローゼはにっこり微笑んだ。
「公爵家は全て縁戚関係ですし、それぞれの得意分野もありますわ。それに治めている領地と近くの領地の貴族子弟をしっかり束ねてもらって情報を共有すれば、可能ではないかと」
「そう。だから、領地に居て、期間中だとか外だとか関係なく、活動できるように調整する予定だよ」
「ううん、でも…そうしたら領地のない中央貴族はどういたしますの?」
マリアローゼの当然と言えば当然な疑問に、シルヴァインは人の悪い笑みを浮かべた。
これは、何か企んでいるというか、良からぬ考えを持っている時の顔だ。
「中央にはいるじゃないか、信頼に足る、権力もある、素晴らしい人物が」
「まあ……王族をこき使う気ですの?」
責めるような視線を向けるマリアローゼに、シルヴァインは嬉しそうに笑みながら、マリアローゼの髪をくるくると指で弄んだ。
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