第237話 お礼の手紙
翌朝、マリアローゼはカンナとの体力作りを早速再開した。
暇なユリアと、マリアローゼのお供としてルーナも参加して、仲良く走ったり体操したりする。
何時もどおりの朝食の後、イルストに急遽描かせた肖像画を持ってジェラルドは登城し、
ミルリーリウムもお茶会へと出かけて行った。
マリアローゼは自由に過ごしていいという許可を得ているので、昨日の続きの手紙をせっせと書いている。
エルノの冒険者ギルドの長にも、無事着いたという手紙を書き、
マスロの市長にも、滞在中のお礼と無事を伝えがてら、エリーゼに薬草栽培について相談した事も伝えておく。
「そうそう、あの子にもお礼を出しませんと…リリア、でしたわね。神父様にもお手紙を出さなくてはいけませんし、市長さんより神父様の方が村の人々に詳しいでしょう」
自分の呟きにうんうん、と納得しながらマリアローゼは神父への手紙をしたため始める。
怪我人の治療は主にマリアローゼだったとしても、その時も色々手伝ってもらったし、後日彼の面倒をみてくれたのは、神父様と修道女や修道士の人々なのだ。
それから、今回の旅で突然の招集に駆けつけてくれた領主や私兵団、騎士団にもお礼の手紙を準備する。
贈り物をとも思ったが、公爵家から既に報酬は支払われているので、それはやめておく。
「お城でも沢山の方々にお世話になったけれど…」
ふーむ、と考えていると、近くで掃除や片づけをしていたルーナが、耳聡く反応を返した。
「もし、従僕や小間使い等でしたら、僭越ながら私が手配致しました。同じく、神殿の方にも贈ってございます。お嬢様は、直接お言葉をお交わしになった方々に対してだけで良いかと存じます」
「まあ、ルーナ、有難う。ふふ、流石ですわ」
だとしたら、議長を務めたお爺様と、長谷部、彼にはユリアの事でもお礼を言わなくては。
ユリアが守ってくれて安心出来るし、とても明るい気分にさせてくれるのだ。
今日はグランスと交替で、午前中はカンナとユリアは訓練に、午後はグランスが訓練に行くらしい。
「そうそう。きちんと護衛の任を果たしてくださった騎士様達にもお礼を伝えて頂きましょう」
あの襲撃の後、マグノリアや王都の神殿騎士と、異端審問官達の調査で、死んだ者と姿を消したアートは破門とされ、ルクスリア神聖国への入国を禁じられた。
とはいえ、アートは不可視の魔法を使うそうなので、防ぐのも難しそうではある。
巻き込まれただけの騎士達は、不問とされのだが、ユバータだけは降格処分とされたらしい。
威勢は良かったのだが、戦闘は苦手だったとみえ、天幕で震えていたのが大きな原因かもしれない。
「それと…ヘンリクス殿下、彼にはとても良くして頂いたわ」
会話もダンスもとても心地の良いものだったし、穏やかで争いになる前に身をかわす事が出来る器用さもある。
そして、優柔不断などではなく、切り捨てるべき物はばっさり切り捨てる所も、王族としては優秀だ。
とりあえず、それはそれとして。
嫁ぐ気は全く無いので、友情をメインに押し出した文言で手紙を飾る。
学園が始まる12歳までは、絶賛立ち寄りたくない国なのである。
素敵な殿方だとしても、その国の王子というだけで、かなり縁遠く感じてしまうのが申し訳ないくらいだ。
あら、でも12歳…?
12歳で学園生活は始まっていなかったような…?
15歳で入学、だった筈なのだけれど。
主人公達は高等部からの入学だとして、それまで家で過ごしていたのかしら?
「お兄様に聞いてみるしかなさそうですわね」
シルヴァインは来年から学校へ通うことになるのだ。
教育機関については知識もあるはずだった。
ふむ、とマリアローゼは頷いて、続いて王妃への手紙をしたためる。
ゴリ押しされた聖女とのお茶会や、早く帰りたい事情のせいで、王妃主催のお茶会には参加出来なかったお詫びもかねている。
それに、廊下で会った親切な小間使いへのお礼も、伝えたかった。
確か、アンナ、という。
マリアローゼはその事についても書いて、贈り物を渡して貰いたい旨をお願いをする。
贈り物はマリアローゼの刺したハンカチだ。
あの時貰ったものは、そのまま持ち帰ってきてしまっている。
マリアローゼは戸棚にしまってある、今まで刺した刺繍のハンカチを出して…
「む……これはちょっとやり直した方がよさそうですわね…」
と呟いた。
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