第217話 専属護衛騎士と幼女のお願い
途端にマリアローゼは、もじもじとスカートを摘んだ。
「あの…あの……また、木彫りの動物を……作ってくださる?」
「ええ、勿論。お嬢様がお望みでしたら」
ぷっくりと膨らんだ子供らしい頬はまだ涙の跡で濡れているが、マリアローゼは飛び切りの笑顔を浮かべた。
が、一瞬で、しゅん、と申し訳なさそうな顔になる。
「そ、それではわたくしがお世話をかけるばかりですわ。いけませんわ。もっと…何か…」
「ふむ。ではお約束戴きたい事がございます」
再び希望を与えられて、マリアローゼはぱああ、と明るい表情に戻った。
「何ですの?約束致しますわ!」
「私を伴なわずに内密に出かけたりなさいませんよう、お約束下さい。私もお嬢様の妨げは致しません。
ただ傍らにいて、御身をお守り致します」
本当に、そんな事でいいのだろうか?
妹から離れて、守れなかった事を悔いているからだろうか?
マリアローゼはそんな事を思い浮かべながら、こくん、と素直に頷いた。
「約束致します。では、グランスはわたくしの専属護衛騎士ですわね」
「有り難く、その任を拝命いたします」
傍らにいたルーナが静かに、今度は少し湿った冷たい布をマリアローゼに手渡した。
「お嬢様、少々こちらで顔を冷やして下さいませ。今飲物もお持ち致します」
グランスの隣にぽふん、と座ってマリアローゼは両手で布を顔に押し当てた。
冷たくて気持いいですわ……。
ルーナはてきぱきと冷えた果実水を並べ、扉の外にいたノクスを伴なって戻って来た。
どうするのかと疑問に思いつつ、マリアローゼは見守る。
「グランスさん。ノクスが案内致しますので、家令のケレスさんの所へ向かってください。
正式な雇用は公爵様が戻られてからになると思いますが、今後領地に向かうまでに習わねばならないこともあるかと存じますので」
「分かりました」
ルーナの言葉に従って、グランスはスッと立ち上がった。
「案内致します」
グランスとノクスはマリアローゼに一礼して、ノクスが先導して部屋を出て行った。
二人を見送ると、改めてルーナを見詰める。
「ルーナ……貴女中身はエイラではないですわよね?」
「お褒めのお言葉かとは存じますが、お嬢様のルーナでございます」
その返答に、マリアローゼは幸せそうにほんわりと笑った。
「わたくしのルーナはとても優秀で、頼りがいがありますわ」
「これからも邁進して参りますので、私ともお約束して下さいませ、マリアローゼ様」
先ほど、グランスと交わした約束だろう。
マリアローゼは大きく頷いた。
「勿論でしてよ。だって、ルーナはわたくしのルーナなのですもの」
マリアローゼの言葉を聞いて、久しぶりにルーナは子供の様にあどけない笑顔を浮かべた。
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